思いつき短編集

蓮本 丈二

麗しの彼女

 彼女はいつも決まった時間帯に、この屋敷の2階の大きな窓の窓際に腰かけて外を物憂げに見つめている。初めて屋敷の前を通った時、その物憂げな顔と美しい座り姿に一目で恋に落ちてしまった。

 ある日、募り募った想いを伝えたく、どうか彼女と話がしたいと屋敷の主人に掛け合ってみたが、ここに娘は居ないと追い返されてしまった。仕方なく街で彼女の情報を集めようと聞き込みをしてみたが、誰一人彼女の事は知らなかった。

 いつものように屋敷の前を通り、窓を見るとやはり彼女はそこにいた。ふと目が合った。彼女は目で必死に何かを伝えようとしているように見えた。

 これはもしや、彼女のあまりの美しさを独り占めするために屋敷の主人が実は彼女を屋敷に監禁しているのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎり、いてもたってもいられずその夜、屋敷に忍び込み彼女を連れ出そうとした。

 窓を石で割り、屋敷に侵入すると、大きな音を聞きつけた主人が何事かと棒を持って駆けてきた。屋敷の主人は僕を追い返そうと、持ってきた棒を振り回してきた。主人のあまりの気迫に身の危険を感じ、抵抗の為に全力で主人を突き飛ばした。主人はバランスを崩し、ちょうどそこにあった机に頭をぶつけ動かなくなった。

 今のうちと2階へ駆け上がり、部屋を一つ一つ確認していった。主人の寝室と思われる部屋に彼女は居た。急な出来事に彼女は腰を抜かしたのか全く動けない様子だった。その場から動こうとしない彼女を担ぎあげた。彼女の肌は白く滑やかで、その感触はまるでもちのような柔らかさだった。

 彼女を担いだまま自宅へと急いだ。その間、彼女はほとんど抵抗しなかった。自宅で彼女を降ろし訳を話した。彼女は黙っていたが、納得はしてくれた様子だった。明日から彼女との新生活が始まる。

 朝、彼女のために朝食を作る。テレビでは話題のニュースが流れていた。淹れたてのコーヒーの香りが部屋に漂う。幸せの香り。

「続いてのニュースです。先日の未明に〇〇市で起きたラブドール強盗殺人事件はいまだ有力な情報が…」

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