紙飛行機よ、どうか飛んでいかないで・・・

@hamingja

第1話

・・・・・ドック、ドック。

静かに僕の心臓が動いていた。

僕の命は一体あと何年続くのだろうか。・・・・・・



僕は、2年前道なかで突然倒れ、それから今現在まで病院に入院している。

入院する前は、陸上部の短距離走の次期エースとも目されていて、高校の先生からもよくスカウトが来ていた。そして夏になる前の6月の梅雨、僕は歩道橋をいつもどおり歩いていたら、突然心臓が苦しくなり階段を下る途中で倒れ、そこで意識を失った。

そして僕が目覚めた頃、周りには看護師が2人、そして家族の母親が僕を見ていた。その時、母親の顔を見た時、僕は朧げながら気づいた。僕の寿命はもう長くないと。その時の母の顔は、満面の笑みと、涙が流れたような跡がある頬、そして目の周りが赤く腫れていた顔は今もよく覚えている。その時から僕の入院生活が始まった。学校は休むことになり、推薦で行ける高校も行けなくなった。今は通信制の学校に通っており、メールで先生とやり取りをしたり、オンラインで授業を聞いていたりしてなんとか学校の授業は受けていた。稀に、中学時代の同級生や母親が会いに来るが同級生は学校のことを面白可笑しく話し、まるで別世界のことを話しているように見え、母親はどこか憐れむような顔を向けながら話すことが最近になって増えてきた。そんな生活に嫌気がさして、いつ死ぬのかばかり考えるようになった。



「ねぇ、かえでおに〜ちゃん。

また、おそとのえをかいてくれる?」

ふと、今までの短い人生を振り返っている時に隣から子供の声が聞こえた。

横を見ると茶髪で短髪の5〜6歳ぐらいの女の子が横に立っていた。この子は、最近知り合った本江綾菜(もとえ あやな)ちゃん、入院して1年が経った頃、不安でいっぱいなようにオロオロとしていたので僕は昔から絵を描くことが好きだったので、似顔絵を書いて落ち着かせようとしたらなついてしまった。でも、この子も前にご両親の顔を見た時泣いているのを見て、この子もこの先あまり長くないのかな・・・・・

「ねぇ、かえでおに〜ちゃん。

きこえてる?もしかしてまたかんがえごと?」

しょぼんとしながらこんなことを言われて僕は慌てて、

「あぁ、ごめんな。

また考え事をしてたわ・・・

それで何か合ったのかい?」

彼女は笑ったような怒ったような顔をして僕の目を見て、

「もう、かえでおに〜ちゃんはいつもかんがえごとばっかり。

えっとね、おそとのえをかいてほしいの。」

「う〜ん、お外の絵か。例えばどんな絵がほしいのかな?」

「わたし、きれいなおはなのえがほしいな。」

「綺麗な花か。

じゃあ桜の絵でいっか。」



「うわ〜〜〜きれい。

これどこにさいているの?

こんなにもきれいなおはなみたことないよ。」

「これは、桜って言って春に咲く花だよ。

この病院のベランダからも見えるようになるから楽しみだな。」

頭をなでながら言うと、えへへ〜〜と笑いながら嬉しそうな顔をした。

「ねぇ、かえでおに〜ちゃんも、いっしょにみてくれるよね?」

純粋な顔でそんなことを言われ僕は思わず涙が出そうになった。

今は真夏にかけての梅雨が続く6月であと9ヶ月位後にならないと咲かないし、僕も彼女もいつまでこの病院にいるのかわからないのに・・・・

「・・・うん、そうだな。

一緒に見ような。」

こう言うのに精一杯だった・・・・・


彼女が去った後、僕は自分の病室に戻り窓から曇りが一つもない晴天の景色を見ていた。

そんな時僕の目の前に紙飛行機が飛んできて、思わず取ってしまった。誰のものかわからないでオロオロしていると、しばらく経った時、僕の病室の扉を叩く音が聞こえ、開けるとそこには車椅子に乗りお絵かき帳を持った黒髪の長い髪が特徴的な少女が僕の目の前に現れた。

そして彼女はお絵かき帳を持ち、文字を書き、その文字を書いたお絵かき帳を僕に見せてきた。

「「すみません。紙飛行機がこの部屋に飛んでいくのを見て、慌てて来たのですが、この部屋で合っていますか?」」

「えぇ、合ってますよ。この紙飛行機で大丈夫ですか。」

「「はい、すみません。顔にあたったりしていませんか。」」

「大丈夫です。ところでお名前は何ですか。

僕は高城楓(たかぎ かえで)といいます。」

「「私は、尾波理恵(おなみ りえ)です。

 ところでここに置いてあるお絵かき帳の絵って高城さんが書いたの?」」

「うん、よかったらその絵、あげるよ?

あと、そんなにかしこまらなくてもいいよ。」

「「本当、嬉しい。ありがとう。

じゃあ、この二枚の絵をくれるかな?」」

彼女が指を指した絵は、僕が去年の夏に描いたひまわりの絵と、冬の頃に描いた枯れ木の絵だった。

「その二枚の絵で、良いの?

こっちに椛とか、朝日の絵があるけど。」

「「うん、ひまわりは私が一番好きな花。枯れ木は、私の覚悟だから。」」

覚悟と言われて、はっとした。この子もあまり命が長くないのだと・・・

「「でも、不思議。

貴方に会ってから、少ししか時間が立っていないのにいろんなことを話してみたいと思えるようになったわ。

私、しゃべることが出来ないから人との会話を避けて生活していたから、こんなことを思えるのは初めてかもしれない。

もし君が良ければ来週の話し合いの日にちょっと話せない?」」

話し合いの日とは、各々の今後の目標や夢を語り合い、少しでもプラスに考えて、現実を忘れようとする日のことだ。と、自分は思っているが、医者の間では、マイナスに考えるから病気が悪化するのではないかと話されており、マイナスに考えないようにしようとするのを目的とした列記とした治療だそうだ。

「うん、良いよ。

ぼくも、話をしてみたいなと思ったから・・・

あっ、べ、別に変な意味じゃなくて、ここにいる人たちとも話してもいいんだけどって、何が言いたいんだろう?自分でもよくわからなくなっちゃった。」

照れくさそうに自分が失笑紛いに笑うと、彼女は口元を手で抑え、その手の隙間を見ると笑っているように見えた。

「「君って面白いね。この病院に来てから初めて興味を持てる人が出てきたかも。」」

「そう思ってくれたなら良かったよ。」

そう言っていると、先ほど別れたはずの綾菜ちゃんがトテトテとこっちに走ってきた。

「ねぇ〜かえでおにいちゃん。

いま、おとうさんとおかあさんがきてて、かえでおに〜ちゃんのはなしをしてたら、かえでおに〜ちゃんにあいたいっていわれたから、きてくれない?

ところでこのおねえちゃんはだれ?」

「あぁ、綾菜ちゃん、一人でここまで来たんだ。偉いね〜。

もちろん良いよ。今から行くからちょっと待っててね。

あと、このお姉ちゃんは、尾波理恵ちゃん。今日お友達になった人だよ。」

「「はじめまして、綾菜ちゃん。

 高城くんのお友達の尾波理恵です。

 よかったら、私ともお友達になってくれませんか?」」

「うん、いいよ。

じゃあ、りえちゃんだね。

りえちゃんも、いっしょにおとうさんとおかあさんにあってくれる?」

「「ごめんね。

 私これからリハビリの時間が始まるから今日は会えないの・・・

 また、今度紹介してくれるかな?」」

少ししょんぼりとした顔をしながら、

「うん、わかった。

じゃあかえでおに〜ちゃん、いこうよ?」

「おう、分かった。

じゃあ、尾波さん。また、今度の話し合いの日でまた会おうね。」

 そうして尾波さんと別れた跡、僕は綾菜ちゃんの両親に会うことになった。



「いつも綾菜がお世話になっております。綾菜の母の本江智子(もとえ ともこ)と申します。あちらは主人の本江カルマ(もとえ かるま)と申します。」

そう律儀に話された後、母親のほうが僕に頭を下げてきた。

「この度は、私の娘の綾菜に笑顔を取り戻していただいてありがとうございます。感謝しか申し上げられないのが心苦しいですが・・・・。」

と深々と頭を下げながら言われたので、僕は慌てて

「いえ、そんなに頭を下げられなくても・・・

私も彼女の笑顔でとても元気づけられているので、とても助かってますよ。」

「そう言ってくださると私共も助かります・・・

ところで絵がとてもおきれいなのですが、なにかやって見えるのですか?」

「いえ、別に特別にやっているわけではありませんよ。暇な時によく書くぐらいなので、喜んでいただけたなら幸いです。」

智子さんと話していると綾菜ちゃんがこっちに向かってトテトテと走ってきて、

「ねぇ、おかあさん。

わたしもかえでおに〜ちゃんとおはなしたい!」

「あらあら、とってもこのお兄ちゃんになついているわね。

少し妬けちゃうわ。

このお兄ちゃんのことが大好きなのね。」

「うん!

しょうらい、かえでおに〜ちゃんのおよめさんになりたい!!」

こんなことを言われ、僕は焦った。

「ちょっと、綾菜ちゃん!?

そんなこと今はじめて言われたんだけど!?」

「あらあら、私もこんな男の人なら安心して綾菜を任せられるわ。

ちょっと貴方、綾菜がこの楓さんのお嫁さんになりたいんですって。」

「なんだと!!

娘は渡さん!!たとえ誰が相手でもなっ!!」

「もう、貴方ったらいつまで親バカなんですか。いくら娘が可愛いからって言って・・と こ ろで、この前みたいに会社で娘の可愛さを猛アピールしてないですよね?」

「・・・・・・し、してないぞ。」

と、ギクッとしたように背中を揺らし耳は真っ赤になっていた。

「もう!!貴方ったらまたそんなことをしたんですか。そんなことをしていると娘に嫌われますよ。」

「おとうさん、

わたしがかえでおに〜ちゃんのおよめさんになるのだめだっていうの?

・・・・そんなことをいうおとうさんなんかだいっきらい!!」

「なん・・・・だと。

智子〜〜〜娘に嫌われちゃったよ〜〜〜〜〜。」

と、泣きながら智子さんのところに向かっていくカルマさんはとても無邪気な子供のようで、この二人は本当に好き会って付き合って、そして綾菜ちゃんをここまで育てたんだろうと思い、胸が暖かく、そして羨ましいと思っていた・・



「さて、楓くん。

私達はもう帰ってしまうが、くれぐれも娘の綾菜には手を出さないようにな。」

また、そんなことを言われ僕は思わず笑ってしまいそうになった中、「わかりました。娘さんには手を出さないようにします。」と笑いながら言った。

智子さんは、あらあらとニコニコと笑い、綾菜ちゃんは「かえでおに〜ちゃんのおよめさんになるの!!」と言って聞かなかった。

「それと少し話したいことがあるからちょっと来てもらえるか。」

そんなことを言われ、僕はカルマさんのところに行った。

「娘を元気にしてくれてありがとうな。

私達もあの子を笑わせるように頑張ったが、なかなか元気になってくれなくてね・・・・

・・・・・ところで君は娘の病態のことはどのくらい知っているんだ?」

真面目な口調になり僕は先程まで笑っていた顔を真剣に向き合うような顔にした。

「いえ、あまり知らないですが、あなた方が2年前に娘さんの病室の前で泣き崩れていたのを見ました。

どこか、悪いところがあるのですか?」

「そうか、あの時のことを見ていたのか。あんなお見苦しいところを見せてしまい済まない・・・・・

病気のことは少しでも娘に知らせないようにしたいから、今までどおりに接してやってくれ。」

こんなことを頼まれ、僕は「・・・はい。」としか言えなかった。



そうして綾菜ちゃんの家族は帰っていった。

僕は、隣で泣きそうになっている綾菜ちゃんの頭をなでて、

「あ〜、なんか急に絵が描きたくなってきたな〜〜。

どこかに絵を描いて欲しいと思っている子はいないかな?」

とわざとらしく大声で言った。

「かえでおに〜ちゃん、それほんと?

じゃあね、じゃあね、ぞうさんときりんさんと・・・・・」

彼女はそれからも何個も絵の依頼をしてきたが、彼女が笑ってくれるならこんなことも悪くない。そう思った。

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