不登校の僕と学校へ行きたくない君

つきがせ

第1話 幸せだと思った

「いってきまーす」


朝の家を出る言葉だ。その言葉が僕は嫌いだ。

しょうがないから、金曜日だから、行ってやるか。と、靴を履き黒いランドセルを背負い、つま先をコンコンと音鳴らし家を出た。


「おはよ。やっと…金曜日だね」


君はため息混じりに言葉を吐く。それも、苦笑いで疲れ切っている。

君という「君」は僕の隣に住む『瀬戸』という女の子で同級生。クラスは同じで、席も隣という「運命」とやらなんやら。


今日は早めに帰る事にしたが、日直だからと言うことに上手く使われて結局は

予定より30分遅れ…。


溜息を吐いた後の事だった。


上靴を下駄箱へ入れようとしたら、変な紙が入っていた。

「体育館の裏で待っています」

嬉しいとも思わなかった。その訳もあった。

正直、この字は見たことがあった。女子の軍団を率いるボス。三年生の時に同じクラスだった。『瀬戸』を虐めていた中心となる人物なのだ。僕の中は瀬戸を虐める奴は大嫌い候補だった。自覚はないが気になっているのは瀬戸でしかない。

僕は変なのかもしれないが、まず綺麗なのか汚いのかと字を見つめていた。ふと頭を過るものが一つ。


そう!


「瀬戸の方が字汚い」


その紙は、隣の知らない奴の下駄箱に入れ、そっと置いて帰ることにした。見て見ぬ振りもいいところだな。と、僕は独り言を言って赤信号に足を止めた。

すると、聞き慣れた足音が聞こえた。靴の音を規則正しくタイルに響かせるのは彼女だ。


信号待ちの時

「カズは、家帰ったらどうするの?」

目も合わせず問いかけられることが多い。瀬戸はよく空を見上げて話すことが大体で部屋の中なら天井を眺めている。上を向く癖があるのだろうか…。

「絵を描くよ。早く家に帰る」

冷たくなってしまう僕の話し方は友達をなくすに違いない話し方なのだが彼女だけは違う。なぜか、僕の事を受け入れてくれている。まず、受け入れてくれている瀬戸に感謝だろうか。

「じゃあ!いいところ教えてあげよーう」

鼻を人差し指でこすり、片目で僕の顔を見た。それも、感謝しろと言わんばかりの態度で。

「楽しみだよ」

僕は小さい頃から絵に興味が湧き、その頃からずっと絵を描いていた。絵を見せるのは親でも親戚でもなく『瀬戸』だけだった。瀬戸が喜ぶ顔が僕は好きみたいだ。


「風景を描くのが好きカズの為に教えてあげるんだからな。」


いつも通りの上から目線は変わらないけど、その上から目線は「僕」にしかしないのは知っているよ。


転校して悪いことはないようだった。虐められることが多いと聞いて、覚悟していたのだが…。




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