第2話 言わなきゃダメ?
ぬくもりを半分こした。
コンビニのあんまん。
寒い冬の季節には、つい温かいものに手が伸びてしまう。
私の手元では、湯気を立てるこしあんが、白く柔らかい皮の中から覗いていた。
「本当は肉まんが良かった」
となりでごちている彼女は、私のとそっくりのザックを背中に乗せて、片割れをちまちまと齧っている。
「仕方ないでしょ、ラスト一個だったんだから」
寒い季節に皆考えることは同じのようで、帰りに寄れるコンビニは全滅。
態々肉まんを求めて遠回りする気にもなれずに、最後のコンビニで奇跡的にあったあんまんを確保して、二人で半球ずつを味わっている。
「温かいものが売れる季節だってわかってるのにさぁ、何で多めに用意しないのかなぁ」
二人の手元から半球が完全に消え去る頃に、アパートに到着した。
2階への階段を上り、私は一番手前、彼女はその隣の部屋に入る。
「んじゃ、『また後で』」
生活能力が皆無な私は、彼女に色々と世話を焼かれている。
夕食を食べ終えて、毎週見ているバラエティ番組をソファに2人並んで座りながらぼうっと眺める。
4月にこっちに越して以来、すっかり習慣となってしまった。
しっかし、今日の内容は微妙につまらない。腹が満たされているのも相まって、寝てしまいそうなくらい。
彼女も思っている事は一緒の様だ、段々と目線がスマホに向き始めている。
「ちょっと失礼」
そのままスマホ片手に私の膝にうつ伏せに寝転がってきた。
「テレビ切っていい?」
「ん~」
この状態ではもうテレビに視線が戻ることは無いだろう、彼女を押しつぶさないようにリモコンに手を伸ばして、電源を切る。
部屋が静寂に包まれると、眠気がさっきよりも増したように思えた。
自分の部屋に戻りたい所だが、膝の上の隣人をのけるわけにもいかず、ぼーっと部屋の壁を眺める。
気づいたら彼女は膝の上で仰向けになって、少し眠そうな目でこちらを見ていた。
「ねえ」
「ん?」
「好きな人って、いる?」
「それって答えなきゃダメ?」
「ダメ」
ふざけてるかと思いきや、眠そうな目は、不思議と真面目に見えた。
「いない、かなぁ」
本当に、そういったことは全く考えていなかった。
「そっちは?」
「いるよ」
「誰?」
返答は無かった。
心なしか頬の赤いように見えた彼女は、私の首に手を回してぐっと引き寄せた。
そして、吐息がくすぐったいほど顔を寄せると彼女は
「言わなきゃダメ?」
そう小さく呟いた
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