短編集「悲しい夢」

高山和義

第1話  悲しい夢

ふと、意識が浮上した。

周りはいつのまにかすっかり暗くなり、カーテンを開けっぱなしにした窓からは、夕焼けの日の光ではなく、夜の暗さが差し込んでいた。

もうそんな時間なのか。

どうやら、制服のまま寝てしまったようだった。早く着替えなければ、スカートに皺がついてしまう。

暗闇に目が慣れていくにつれて、自分の視界が酷く不鮮明な事に気づく。

まるで、水中メガネなしで、水に潜ったような。

軽く瞬きをすると、水中のような光景は、少し現実に近づいて、目じりに、冷たい何かがすうっと伝った。

身体は起こさずに、右手でそれをそっと拭った。

それが流れた筋は随分と長かった。寝ている間に泣いていたのだろうか?

寝起きのぼんやりとした頭で、他人事の様に考える。

上半身を起こすと、かけていたタオルケットに冷たい何かが落ちる音が、やけに鮮明に聞こえた。


その刹那


フラッシュバック


何を見たのか、何を感じたのか。

寝ている間に、夢でも見たのかもしれないが、一体何があったのかは分からない。

でも

胸の奥が、ぐっと締め付けられるように痛い。

何か、大切なものを失ったような。

涙が、止まらない。

「何で……、何で……?」

ひたすらに溢れてくる涙を両手で拭う。

私の中には、何の記憶も、かけらも残っていないけれど

「何で……、こんなに痛いの……、悲しいの……?」

分からない。

ただ、胸の内から、深い悲しみの感情だけが、湧いてくる。

私はしばし、この出所不明な悲しみに、

ただ、涙を流し続けていた。




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