『めまい』 最後まで過去にとらわれすぎた男

「スコティ」ことジョン・ファーガソン刑事(ジェームズ・ステュアート:安原義人)は、犯人を追っている最中、屋根から落ちそうになる。手を貸してくれた警官が転落死してしまい、それ以降高所恐怖症に。


 症状のせいで警官をやめたスコティは、学友の妻マデリン・エルスター(藤本喜久子)の調査を頼まれる。夫婦生活は円満だ。しかし、「死んだ人間から危害を加えられるかも」という。


 


 スコティは、マデリンが運転する車を尾行する。

 車は狭い路地へ。マデリンは建物の中へ入る。そこは、花屋に繋がっていた。

 花を買い、また車に戻る。

 次の目的地は墓地。奥の墓に立つマデリン。

 カルロッタ・バルデスなる人物を参りに来たらしい。


 続いて美術館へ。買った花は、マデリンがずっと見つめている肖像画の女性の持ち物だった。

 後ろ髪のカールまで同じ。

 彼女こそ、カルロッタその人だった。


 ホテルに到着したマデリンは、「カルロッタ・バルデス」と名乗りチェックインしていた。しかし、「今日は来ていない」とフロントは言う。

 自分は確かにこの目で見たのに。


 部屋を見せてもらうと誰もいない。車も家に戻っている。




 カルロッタ・バルデスは、とある金持ちの愛人だった。

 子どもがいなかった金持ちは、カルロッタとの間に生まれた子どもを奪った。

 失意のカルロッタは投身自殺を図ったという。


 マデリンは、カルロッタのひ孫だったのである。

 遺品を眺めながら、マデリンは空想にひたるそうだ。

 しかし、学友によると、「彼女はカルロッタと自分の関係を知らない」という。



 さらに尾行を続ける。

 すると、彼女は突然海に飛び込んだ!


 家で介抱したが、彼女は去ってしまう。


 逢瀬を重ねていくウチに引かれ合う二人。


 だが、マデリンは教会で身を投げてしまう。

 



 マデリンの転落死を防げなかったショックから、スコティは塞ぎ込んでしまう。

 相棒の女性は、音楽療法など色々試すが、とうとう彼の元から去っていく。

 この段階で、スコティに悲劇的な結末が待っていると分かる。

 


 ようやく立ち直ったスコティは、街でマデリンそっくりの女性と出会う。

 身分も免許証も本物だ。


 執拗に彼女と会ううちに、彼は真相へと近づいていく。


 だが、狂気にかられたスコティは、真実をねじ曲げてしまう。



 このように、本作は前半と後半でまったく違う話になる。

 いわゆる「マトリックス」の手法に近い。


 前半は、元敏腕の刑事が謎を解いていく話である。

 後半は、狂気にかられた男が過去に捕らわれていく話だ。


 そこへ至るまで、「感情の波の立て方」に翻弄されて欲しい。

 快方に向かわせると視聴者に錯覚させ、「その幻想をぶち壊す」のだ。

  

「その幻想をぶち壊す」ことで、上質なバッドエンドを演出する。


 ヒッチコックは、この映画を失敗作だと評価しているそうな。

 女優が気にくわなかったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る