『怒り』 誰にとっての怒りか?

 八王子で起きた夫婦惨殺事件。犯行現場には、血液で書かれた「怒」の文字が残されていた。

 事件から一年後、ついにテレビによる公開捜査が行われることになる。


 視聴者に提示された容疑者は三人。


・漁港の作業員、松山ケンイチ。渡辺謙の娘に惚れている

・妻夫木と共に暮らすゲイ、綾野剛。無職

・沖縄の孤島に住む「田中」を名乗る男、森山未來


 モンタージュはどう見ても綾野剛なのだが、容疑者は三人とも、右頬に三つのホクロがある。

 登場人物達は、自分の知り合いは無関係だと信じたいが、その感情が徐々に揺らいでいく。


 物語は特に犯人を探す演出をせず、自然と真相が明らかになっていくスタイルを終始貫いている。

 捜査はしているのだが、まるで進展しない。


 ジャストタイミングで、指名手配犯のニュースが流れるなど、いたるところにミスリードを設けている。

「もしかして」と、キャラ達は悩む。


 信じたくても、相手の素性がまったく分からない。

 また、容疑者たちの行動も意味不明で、不信感を抱かせる。

 よって、信じ切ることができない。


 そこが、見る側をドラマに没入させることに成功していると思う。


 決着が付いたとき、彼らが感じる「怒り」とは何か?

 誰に向けられるのか。


 犯人に対してか?

 それとも、相手を信じられなかった自分にか。

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