『紙の月』 最初から狂っていた女

 宮沢りえ演じる主人公。冷え切った家庭に不満を覚えていた。

 銀行員として働き始めた後、顧客の孫である少年と不貞を働く。

 年下の男性に貢ぐため、とうとう主人公は客の預金に手を出した。

 

 この映画の特徴は、男は決して詐欺師ではない点だ。

 宮沢りえを利用して金をふんだくろうとか、やたら高額なものを要求したり等はしていない。

 彼は単なる苦学生で、大学に入る資金が欲しい。会社で働くため、Macが欲しい程度と、要求はささやかなものだ。

 しかも、彼が主人公に金品を要求するシーンはない。「金がない」と口にはする。だからといって主人公に「求め」たりはしない。自分で何とかしようとして、主人公が「勝手に」首を突っ込むのだ。


 これは、作者の狙いだという。

 男に貢ぐダメ女といった報道に、違和感を覚えて、作者は原作小説を執筆したという。


 だが、味を占めた主人公は、彼を手放したくない一心で、大量の横領を行う。

 男に捨てられたくない。その一心で、ダンナが出張中の間、せっせと偽の調書作り。

 この間違った価値観が痛々しい。

 スイートルームを借りてカップ麺を啜る姿が、最も幸せそうに見える。


 また、彼女に不信感を抱く小林聡美がまた不気味だ。

 彼女の方が絶対正しいのに、宮沢りえに感情移入してしまう。


 犯罪が発覚した終盤、冒頭のシーンになる。

 恵まれない子どもたちに、少女時代の主人公が寄付をするシーンだ。

 この中に、壮大なミスリードが含まれている。

「ああ、こいつは、最初から狂っていたのか」

 と、あなたも思うに違いない。

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