第69話 その頃源は……


トレーナー室の一室でパソコンとにらみ合っている男がいた。

「源さん高橋さんから電話入ってます」

受話器を取ると笑みを浮かべながら話を切り出した

「大スターの高橋か懐かしいなどうしたんだ」

「止めて下さいよ。序盤に点取っただけですから」

「今日の用件はどんなんだ」

「そっちのクラブの様子と後は俺達3人の契約更新に関してですかね」


暫く押し黙った後申し訳なさそうに源さんは話を続けた

「正直に言うと高学年の生徒をこれから迎え入れる事にしたU17の選手達だな。学年あたり100人に絞って募集してトレーニングしているんだが、何しろ初めての事だからあまり上手く行ってない」

「僕で良ければ今度の中断期間の間に一度みてみましょうか」

「悪いなガレンコーチでもよく分からないと言っているので、お手上げ状態だ頼む」

「その件はわかった。ちょっとのぞみさんに相談事があるから、代わって貰えるか」

「ちょっと待ってろ」

受話器から、少々お待ちくださいとアナウンスが流れた後受話器が取られた


「高橋君久しぶりね」

「ご無沙汰してます。その後お子さんは大丈夫ですか」

「ええ元気も元気で今日もお腹を蹴ってるわ」

「忙しい所頼むのが恐縮なんですけど、御子神と俺と矢口に契約更新の話が来てまして」

「代理人もやってると聞いたので、お願いできればと思いまして……」

「そうね、貴方たち2人は別にしても御子神君はこちらでやらないといけないわね」


「それじゃ内容はメールで送りますので、よろしくお願いします」

「矢口君と貴方の希望はないの」

「矢口はそれで良いと言ってました。俺は怪我した時は鳴海クラブへ戻れるようにと、オリンピックの優先ですかね」

「御子神はデビューさせたいのね……それでうちのクラブからレンタルと言った事ね」

「まぁがっぽり儲けさせて貰うとするわ」


「そう言えば大スターの高橋君は何かと女性スキャンダルが絶えない様で……」

のぞみさんは笑いながら尋ねてきた

「いえ、そうい訳では無いんですよ、大抵がガセですから」

「ふ~ん例の通訳さんはどうなのかな? 」

「レアルの思惑があるようで、手は出せないですね」

「あんまりうちに義理立てしなくてもいいんだよ」

「僕もお金出してるんで、義理以上にあるんですよ」

「そういう事にしておいてあげるわ。又何かあったらメールか電話してね」

「色々すみませんがよろしくお願いします」


電話を切った後、僕は今までとあまり変わらない鳴海クラブへの愛着がどこか嬉しかった。


御子神がデビューすると僕は一列下がったMFの位置になる可能性が高い。現状でのドリブルの成功率を考えると納得もいく。

ドリブルは諦めてはいないがパスでの展開も新たに身に付けなければいけないタスクだ。


基礎に加えてドリブルとパスの練習は中々にきつい物がある。オーバーワークにならない様に気を付けなければと思う。


パス練習は矢口と御子神とするが、結構ダメ出しをされてしまう。特に御子神のダメ出しがきつい。年下のダメ出しを素直に聞くのは寛容性がいるのだと改めて感じる。師匠のいう事は素直に聞けたのに、心の制御は難しい。スターと言われる男が少年にダメ出しされているのだから、傲慢にならずに済んだのは幸いだった。

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