高橋編

第62話 新しい命


俺は自身への怒りと悲しみで2日ほど部屋に籠ってしまっていた。

『なぜ監督が』『どうしてまだ、捕まって無いんだ』言葉にならない叫びと共に枕を殴った


呆気ない終わりだった。犯人はあっさりと共謀していた男も捕まった。

今更ではあるが、クラブに警備員やセキュリティバッジ、監視カメラなど色々防犯用に付けられた。

のぞみさんの自宅にも同様についてある


慰霊祭が行われている。最初妹の楓さんが小さくやろうと仰っていたが、のぞみさんの希望で大きな慰霊祭が執り行われることになった。

数千人の人が集まり言葉にならない怒りと悲しみに苦しんでいた。


世界中にこのニュースは駆け巡った。"悲劇の天才"とか"つぼみの名将"と言われた。きっと花が開く前に枯れてしまった事を揶揄しているのだろう


マスコミが"これまでの歩み"みたいな監督の自伝記を勝手に使い始めたので、正確な情報を渡そうと考えた。

矢内さんに独占取材を頼んだ。受けたのは俺と妹さん、前の校長だった。

ドキュメンタリーや本にするのも許可したが、印税なんかは鳴海さんの資金へ入れて貰うようにした。


妹さんからまず幼少期の怪我とプロへの挑戦の話がされた。

前の校長から部活のはなしやそれに至った経緯が続けられた

最後に僕が監督はU23に付いてからの話をした


彼女には絶対に嘘は書かないで欲しいとお願いした。


一人また一人と人が去っていく中のぞみさんが現れた

「高橋君には名プレーヤーになって貰わないとね」

「そして戻って来た時にこの子にサッカーを教えて欲しいな」

そういってお腹を触っていた

「子供が? 」

「最後のもらい物だね」


自分の中で最後の希望に火が灯った気がした。

「皆に連絡をしないと……」

のぞみさんに止められた。もう少し大きくなって生まれてからにして欲しいと。

「高橋君には立派な選手になって戻って来てもらわないと無名の人にこの子のサッカー教育は任せられないわ」


のぞみさんは背中を押してくれている。さっそくこのクラブを引き継いで始めないといけない


僕の中のやり場のない怒りがビリビリとしていた物がゆっくりと消えていくのが判った。

これを情熱に変えないといけないな


監督の為にも

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