第9話 タイムトラベル①

 ある本の中の解説で、タイムマシン物の極限と評されていた ロバート・A・ハインライン『時の門』 が気になり、在庫から蔵書へと変貌をとげた我が本達の中を探してみることにした。

 以前在庫を整理していたときに、なんとなく見かけた記憶をたよりに、しばらく探しているうちに見つけた一冊は、本棚に丁寧にビニール袋に包まれていた。(本は大切にしているのです。エヘン!)


『時の門〈ハインライン傑作集4〉』(ハヤカワ文庫)は 七つの物語を収録した中短篇集。『時の門』はそのそのうちの一篇で表題作になっていて、中篇ほどのボリューム。いくつか書評を読んだかぎりでは、いささか難解と評されていた。



◇ ──────


 主人公ボブ・ウィルスンは、持続航行に関する学位論文を書きあげるつもりで自室に閉じこもっていた。うまく書けずに苦しんでいると、タイプライターのキーがおかしくなり、彼が調整しようと手をのばしたそのとき、ある声がした。


「ほっときたまえ、どうせ嘘っぱちの論文なんだから」


 ウィルスンはギクリとして、振り返ると、背後に見知らぬ男の姿があった。ウィルスンは男にどうやって部屋に入ったかを問いただした。


 男は「あれを抜けてさ」と答え、空間に浮かぶ輪を指し示した。


 ジョウと名乗るその男はさらにその輪が「時の門」であり、輪をくぐり抜ければ、未来へ踏み込むことができると説明する。ジョウはさらにウィルスンがこの門をくぐり抜けることが千載一遇の好機と説く。


 門をくぐらせようと、尻込みするウィルスンの腕をジョウが掴んだとき、輪の前にもう一人の男が立っていた。その男はウィルスンに門をくぐってはいけないと言う。三人は揉みあいになり、ウィルスンは輪の中へはじかれ、飛び込んでしまう。


「時の門」をくぐり抜けたウィルスンは、そこでディクトールという男と出会う。ディクトールは門をくぐった先のこの世界が三万年先の未来であり、文明は跡形もなくなっていて、どんなことでも意のままになるのだとウィルスンに説く。


 ディクトールはその前にウィルスンにやってもらわねばならないことが有ると言う。それは、ウィルスンに最初の場所にもどって、もう一人の男を口説き、「時の門」をくぐり抜けさせることだった。


 ウィルスンは承諾し、もとの世界へと戻る。自室にもどったウィルスンは、だれかが自分のデスクにむかっているの見た。しばらくしてウィルスンは突然ハッと事態に気づき、喉もとで血管が波うつのを感じた。

 

 背をむけているその男は自分だったのだ。


 ウィルスンは背を向けている男(自分自身)に話しかけた。

「ほっときたまえ、どうせ嘘っぱちの論文なんだから」――


────── ◇



 拙筆ということもあり、作品の雰囲気をうまく伝えきれないが、物語はこの後さらにパラドクスなストーリーが展開し、正直ぼくの頭はフリーズの状態。文庫で100ページに満たないボリュームの作品だが、その濃密な内容に圧倒されストーリーに疑問を抱くこともなく、妙に納得させらてしまった。


 前出の『夏への扉』と同じ作家なのか? と訝ってしまうほど。“牧歌的でホノボノ”とはかけ離れたハードな作品で、作家の多面性が見えて非常に面白いとも感じた。



 さてその『時の門』を読むきっかけとなった作品、広瀬正『マイナス・ゼロ』(集英社文庫)にも少し触れてみたい。こちらもタイムパラドクスを扱った作品で大型古書店で見つけた一冊なのだが……。

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気まぐれビーライフ めこたま @mekotama

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