第3話
3話 不死身の後藤さん
仄暗い湖の底に沈んでいるかの様な感覚が全身を包んでいる。
身体は重く、気怠るい。何もしたくない。。光なども射さず何処までも真っ暗で、自分が何処にいるのかどんな格好をしているのかも分からない。。。
どれくらいそうしていただろうか、上部から光が射し徐々に明るくなっていく感覚がある。日向ぼっこをしてるような、ほんのり温かい感覚だ。。気持ちがいいなこれは。。
しばらくすると、女性の声が聴こえてくる。。優しげな落ち着く声だ。。
《女の声:あなたはまだ死んではなりません。せっかく蘇った生命です。もっと人生を謳歌して下さい。そして、貴方には秘めたる力があったはずです。筋肉ではありませんよ?その力を使用し生き返るのです。。。。》
女性の声が途中で途切れて聴こえなくなる。
その後から上部の光がどんどん広がっていく。
光が広がっていくにつれ全身を温かい光が包む。その瞬間! 熱い血液が全身を廻るような感覚になり、身体が熱くなる。全身が沸騰しているようだ。
熱い感覚は時間が経つ感覚と共に徐々に収まっていき、しばらくするとその感覚も無くなっていく。
すると、今度は眠い感覚に襲われる。ああ、眠たい。。何時間でも眠れそうだ。。。
「ーーーーーーーーーーーー。」
どれくらい眠っていたのかわからない。目がさめて重い目蓋を開ける。
目を開けると視界に一面真っ白な景色が広がる。
「ううん?…?ここは…?俺は…。」
まず、目だけ動かして辺りを見回して見る。真っ白な景色は天井だったらしい。見たことがない部屋のベッドだ。身体はベッド上で、仰臥位 の体勢だ。
うーん。記憶がない。誰か運んでくれたのであろう。
大層重かったに違いない。俺は体脂肪が5%と筋肉の塊なので体重は80キロ近くになる。何人かで運んだのだろう。迷惑かけてしまったな。。
身体を起こそうとして身体を動かす。特に痛みもなく、何の異常もなく起き上がる事が出来る。
周囲は白色が主体の病室らしき部屋だ。ベッドの両端には柵があり病院 のベッドだなこれは。
ん?腹部の辺りから管が出ているぞ!管はベッドの柵の下部にフックでぶら下がっている。
まるでBrチューブ(尿道に管を挿入して医療的に排尿を促す。管から排泄された尿はBrパックに貯留していく)
みたいだな。いや、みたいなじゃなくてBrチューブだなこりゃ。
「ん?首のあたりから配線みたいなのが出ているな…。」
今度は頸部の片方から配線が出ており子機(モニター)に接続されている。大きさは大体スマホくらいだ。
上着をはぎ胸部を見ると子機からの配線が3つある。赤、黄、緑の電極が右鎖骨下と左鎖骨下、左胸部下につけてある…。
やっぱり心電図モニターが俺に装着されている。モニター装着は心臓の波形を見るためか、生死の危険がある時に主に用いられる。
俺は心臓などには異常は無かった為、明らかに後者(生死の境目)であったのであろう。。
心電図モニター
[心電図モニターとは、胸部または手足に電極を装着して心臓活動電位を計測し、心電図波形を連続してモニタ画面に表示する医療機器およびそのシステムのことである。種類はベッドサイドモニター(さっき雅史に取り付けてあった子機)とセントラルモニターの2種類がある。セントラルモニターは大体、ナースステーションにある。心電図の波形や心拍数、呼吸回数などを一括して管理し何か異常があったら直ぐにわかるようにアラームがなる。]
周囲を見渡し、今現在の自分の状況を簡単に掴めた所で少し気持ちが落ち着いてきた。
改めて何故今ここにいるのか。を思い出す。。。
「そうか。。。駐車場で車の案内係をしてたら、車が突っ込んできて撥ねられたんだったな…。」
「ホントに生きてるんだな…。」
俺はそう言って安堵のため息を吐く。こんなにも生きてる事を実感したのは45才の人生で初めてだったかもしれない。
筋肉を鍛えていた時も生きている実感を感じる事はあったが、ここまで大きく実感するのは初めてだった。。。生きてて良かった。。。
大分安心して頭が冴えてくる。そうすると、ん?
事故ったって事は身体の異常や欠損はあるのか!?
痛みなどはないみたいだが。。大丈夫か俺の筋肉ーー!!
しばらく全身を触ったりつねったりしながら確認していく。
「うーん。どこも変わった所は無いみたいだな。異常なし!!俺の筋肉!ーー!!」
そう言うと、俺は両上腕筋を片方づつ、顔を擦り付けて可愛がる。
「よーし。よしよし良い子だ。筋肉を鍛えれば何でもできる!我ながら素晴らしい筋肉だ!ワッハッハ!!」
そんな事をしていたら、心拍数が速くなったのか看護師らしき人(100%看護師でしょ)が病室に入ってきた。
「大丈夫ですか!?どうもないですか!?」
と言いながら入って来る。。。すると、、
「え!?意識が戻ったんですか!?すごい。。」
と、病室に入って来た20才後半の看護師の方らしき人が驚いていた様子でこちらを見ている。
俺はそんな看護師の方らしき女性にこう言う。
「俺の筋肉に誓ってどこも悪くありません。もう大丈夫です!!」と。
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