びい、お前、どん底?


 俺がいろいろ、真実ってわからないよな、と思っている間、びいの方はどうも最悪にどん底らしかった。タロット占い師が「そんなの相手はお前のことなど想ってない」と捨て台詞したせいで、本当にこっちは大変で、でもやっと、諦めてくれるような気配になった。


 泣きながら戦記の人関連の本やデッサンなどを一旦片付けた。一旦、って書いたのは、翌日にはまた半分くらいが目につくところに戻ったから。


 たくさんの占いでまあ、生年月日なんかの占いだが、性格を見ると、戦記の人の性格、すごくまあアレだった。いわゆる「ツンデレ」。


 俺がそれを見つけて「あーあ」と思わず呟いた。難しければ難しいほど、ツンデレであればあるほど嵌るに決まってるから。うまくいかない難しい高嶺の花であればあるほどに……。びいの場合、自分が好かれるとあっさりと飽きたりしてしまうことがあり、正直怖いよな。


 だから案外、あんまり恋愛しない方のはずなのに。


 で、自分からこの恋に決着つけられないというのは、もう見ててはっきりしてた。俺が「ちょっとかわいそうなので、言葉ではっきりと振ってやってもらえませんか?」と、何度言おうと思ったか。

 裏からそういう手を回すと、バレた時にすごく恨まれるので、できずにいた。


 それをあのタロット占い師が「猫の首に鈴」をつけてくれた状態になり、俺もホッとしていたのがあった。でも、逆にいろんなところをあろうことか、びいは恨み始めた。


 まさかの展開だな、おい。


 びいはそういう感じの人でないのに、戦記の人以外を全部恨み始めた。いやはや、気持ちは分かる気も……いや、分かんない。なんでいきなり他を憎み始めるのかな。


 人の心の動きってわかんないね。


 Bのこととか、過去の男とか。


 俺が「あんま関係なくない?」と言ったら、今のような自分になったのは、そのせい、と。


 いやいやいやいや……Bはともかく、そんな古い話まで。


 びいのおかあさんが「人のせいにしすぎじゃない?」と言っていた。うん、それはそうだね。俺もそう思う。


 多分びいは悲しすぎて、怒りの持って行き場がないようだった。自分はこれ以上頑張れない、疲れていて死にたい。それで他の人を恨むって、わけわからんが、これが悪霊的な心の動きだな。


 しかもびいのように、優しいタイプの流されやすい、なんでも許してくれそうな人が、そうなるというのは驚きだ。今まで人を恨むとか、なかったよな。あんま聞いたことない。


 ま、びいが誰も信じられないという理由、この話、したか忘れたが旦那のBがびいに「キミは誰のことも信じてないよね、僕のことも」、と言った時、びいはそこで初めて気づいたらしかった。自分は誰のことも信じてないということについて。


 まあ、神を憎むとか、男を信じないとか、びいがなぜそうなったか、なんとなく俺は知ってたけど、それにしても、ここにきて、まさかそんなことが白日の元に出て来るとは。


 無意識で押し込められていたことが、封印されていた鉄の箱がこじ開けられたようだった。

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