Bの真意
まさかなあ。
俺は頭を振った。昔のBならともかく、それは買い被りすぎだろう。
それにしても、人はここまで変わるものか、と俺も思ったけどね……。俺の知るBとは全く違う人みたいに見えたから……。
びいとBが別れることになったのも、この世界のBは俺の知ってるBとは、まあちょっと違ったからなんだよね。こっちの世界のBは案外、繊細なのか。あ、まだ別れてないな、ごめん。びいからツッコミが入った。
俺はつい今日、たまたまネットで、Bの若かった時の写真を見つけた。ネットで見つけるって驚くが、何か写真サービスの終了で、たまたま開けたびいのボックスに、5枚だけ2005年の写真が入っていた。びいとBの若かりし? 日の写真だ。
こんな時があったのか。
びいはあまり変わってないが、それでもとてもしあわせそうに生き生きとしていた。新婚だな。
Bはすごく若く、別人のようだった。西洋人は年取るの早い。
それにしても……
俺は、自分のちょっとした思いつきが怖かった。Bは、びいが思いがけず、愛国主義に傾いていって、戦争も始まるから、配偶者として側に置いておくのは危険だと……思ったんじゃないか?
Bは他国とも……密接に繋がってる仕事をしていた……
半官半民……出向で……毎週のように海外に……
ちょっとタフすぎて、何かがおかしい気もした……
まさかな。
それにJさん……。
Jさんはびいとたまたま出会ったんだ……散歩中に……。
何かが引っかかる……偶然にしては。
Jさんは元々軍警察だからな……。びいとBを見張るような……役割というのは深読みのしすぎだな……。
どっちにせよ、俺もびいも、確かに日本に帰った方が安全には違いないな……。まあ、全滅させられるような事態は、まだなかなか難しいだろう。
欧州のコロナは日本のコロナと違い、死亡者も桁違いだった。
俺たちは日本で、結構のほほんとしていたが、それは早い時期に「これってもしかして、コロナなんじゃないか」という風邪を引いたからだ……。今でもちょっと疲れると、痰が絡む。
なんつーか、俺たち悪運、強すぎる。
何年か前、Bがびいに言ってた……
「君はとてもいい人だから、何かないと、別れるきっかけがつかめない……」
そして飛行機に乗る別れ際……
びいが「まるでこれで最期みたい……」と言って半泣きになり……
ゲートをくぐってから、慌てて戻ってきて、ノートパソコンがない、と……
Bに電話をして……
Bは「駐車場の車の中だろうから諦めたら……」と……。
びいはそんなわけない、さっきカートに乗せてきたから、カートに乗ったままだと……走って出てきて……
Bは車の中にあるから、大丈夫だから、と言ったのに、と……どこ行ってたの、と入り口で待ってないからびいを探したよ、と……
本当は……わざと手渡す荷物の中から、ノートパソコンをこっそりと外したんじゃないか……?
ノートパソコンを持って帰国しないように……いろんなデータが入ってるから……。
最初からもう、びいを日本に返したら、こっちに戻ってくるな、というつもりだったんじゃないか……。
まさかな。
俺のこんな荒唐無稽な想像を裏打ちできる証拠は何もなかった。Jさんだっけな、リクルートのやり方、俺に教えてくれたんじゃなかったっけ。
Bのいた大学では、諜報員をリクルートしないだろう。ものすごくピンポイントに、優秀な学生に声をかける。ターゲットはグランゼコールの学生だと言っていたか? 年齢も関係ある。
俺の世界で聞いたはずだから、全然記憶が定かじゃない。そう言えば、今更だが、Bはアメリカにいた……ちなみにBはグランゼコール出身でない。
転職した今の会社も、直属の上司がアメリカに転勤になった。転職した今の会社は、ビジネススキルの指標となる新しい資格試験を開発した会社だったが……。
Jさんが言うには「どうしても金が必要」という人間は都合が良い、と言う。
ま、それもそうだ。
俺のように金を積まれても嫌なものは嫌、と言う人間はやりにくいだろうが、Jさんの見た範囲では、話を持ちかけられ断れる人間はいない、とのことだった。民間人に協力を要請する時、弱みを握ってチラつかせてから近づくから、と。断ったからといって、その弱みを使って何かするわけではないが、まあ、断れないんだ、と。
Bは比較的、俺とは真逆だからな。スマートで話が早い。どちらかといえば、金ですんなり話がつくタイプだしな……。
そんなBが、ここまで強固にどうしてもびいと別れたいと言うのだから、よほどなんだろう。Bの場合、カッコ悪い選択などしそうにないのに、今回は本当に「病んでるのか?」というような動きをしているからな。
だいたい、びいといたって何しても自由なんだからな。そう強固に別れなきゃいけない理由はない。相手の女がうるさいのなら、その女のところにずっといればいい。まあ、車の運転できないびいは困るだろうが……。
奴らしくない……。何かあるのかもしれない。
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