第375話 今朝の同僚の夢 俺と悪魔と女神・
俺は考えられないくらい長く寝た。どれくらいぶりなのか不明だった。
日本はゴールデンウィークの3日の夜だろう。まだまだ連休は続くらしいな。こっちも、週末までは学校が休みの期間だ。俺は締め切りに追われていた。プロジェクト・シート。本当に狭いスペースで、そんな大げさなものの提出がいるのか。
どうせならバーンと中庭とか、一部屋くらいくれよ、と俺は内心思ったが、これでも異例の良い待遇だ。俺の作品を面白いとオーガナイズしている人が思ってくれたから、もしかしたら電源を使えるのか、掛け合ってくれるとのことだった。
俺はだから、小説以外の部分を急ごしらえで作っていた。音声。俺は俺自身の声が大嫌いだった。どこか金属的で、甲高い気がして、それで深みがない。
それはハートチャクラの部分だけで、上の方の世界だけに繋がって生きているせいだとよく知っていたが、言われても、どうしても上手にグラインディングはできなかった。俺は、そのためには実際のところ、きっちり地面の下の方に繋がるようなぴったりきた性的なパートナーが必要と感じていたが、望んでいなかった。俺のことを、そういう次元で、よくわかる人などいない。表面的なことしかわからない人と寝ても仕方ない。快楽としてのセックスの側面がクローズアップされた異常な状態の現代では、本当によくわかっている人はあまりいない。どういう意味がある行為なのか、俺が禁欲を良しとするのも、俺に釣り合う相手がいないからだ。そういう意味で、俺が相手にそれを教えるというのは敷居が高い。何よりも、俺自身が、まだ足りない部分がありすぎる。快楽というものをセックスから抜いて考えると、俺に教えられることは少なすぎる。そう思うと、俺は愚かにもセックスをおもちゃのように扱ってきただけだった。恋愛感情とも切り離されるとなると、俺の場合、そうすること自体、全く意味ないということになる。
戦略や欲望や誘惑のゲーム。依存。
俺の場合、そこのレベルで止まるから、本当に無意味な行為となる。快楽の道具や手段に成り下がったセックス。不毛すぎるから俺は、ヤりたくても禁欲していた。それこそ猿のように、ヤりたいヤりたいと思うなら、適当にすればいいのかもしれないが、突き落とされる場所が不毛すぎる。俺はその結果がどこに行き当たるのか、過去生の経験で知っていた。いや、違う。ヤりたいと思わなかった、過去生の俺は。それが仕事で、そうしないと生きられないから、仕方なく、そんな世界に住んでいただけだ。真っ白な灰でできた、廃墟のように朽ち果てた世界。
俺は女郎屋で働く女だった。恥ずかしげもない上半身裸で、たらいの前に座り、腰には上半身だけすっかり脱いだ汚れた着物を巻きつけたまま、呆然と外にいた。何をするでもなく。美しさも崩れた中年の、頭のちょっとおかしい腑抜けた真っ白な精神状態は、今でもはっきり思い出せる。絶望が行き過ぎると、廃人みたいに思考が何も構築しない。まともな頭の中をしていないから、何も……何もない空っぽだ。
誰かを待つといっても、待っても誰も来ないことを知っていて、あとは死ぬのを待つだけだ。涙も出ない、汚れた体で、恥ずかしいとも思わず。
誰もこないままに俺は死んで。なんとも言えない気分に襲われる。時代はわからないが、日本だろう。着物だから。俺の日本での前世はそれだけじゃない。もっと古い時代、俺は綺麗な着物を着せられていて、若かった。その時のことは思い出したくない。俺はどうしても好きな人と一緒にいたくて、そして……
こんなところで、こんな話を思い出したくない。
でも知ってる、俺を助けようとしてくれた、細い体の背の高い男。美しい若い男。
はっきり覚えてる。ちょっとした金も持っていて、俺を時々、買いに来たが、見受けできるほどの金持ちではなかった。
あの男、悪魔だ……
ダメだ、涙が出そうになる。だから思い出したくない。俺は、何度も会ってるんだ。天から堕ちた悪魔……なんだよ、この義理堅さは。信じられないな。
俺は、本当に相手を愛していて、俺たちはそこで一緒に死ぬ運命だったんだ。よく覚えてる、覚えていて、苦しい。
屋敷に二人で火を放って……
どさくさに紛れてみんな逃げ出す…
俺たちは煙に巻かれて……
でも俺は幸せだった……
苦しい、思い出すと苦しい。俺が炎を怖がるのは……迷路のような狭い場所を怖がるのは……
愛してる……
愛してる…
一緒に…
俺は当時の感情に巻き込まれそうになる。苦しい、苦しい……
思い出したくない。迎えに来てくれて、俺は本当に嬉しく、二人で死ぬことができたあの時、俺は、あの時は、幸せだった過去生だと本当に感じる。
天から堕ちた時……あの時は本当に、とっさに体が動いて、女神だった俺は、悪魔を救おうと体が動いて……
でも、日本の遊郭で働いていた時、その悪魔が俺を助けに来てくれた……本当に驚く、なぜだろう……
確かにたくさんの人が死んだ。炎の犠牲になった……俺たちのせいだ……
あちこちに火をつけて……俺たちはまるで、自殺みたいに、そこで死ぬことをわかってたみたいに……逃げ切れるとわかってなくて、火をつけたみたいだった……
俺はあの時の自分に返って、ただただ、愛している……愛している……と心からの叫びをつぶやきに変えていた。
理由なんて、やっぱりないんだ……
俺がこの記憶を思い出したくない理由は、胸を掻き毟られるような気分になるからだ。邪悪な悪魔……なのになぜ、俺は……悪魔と縁を持ったのか……
俺が気まぐれに、天から墜ちる悪魔に同情して……思わず助けようと、手を伸ばしたせいなのか……女神だった時代に。思えばあれから、全ては始まったのか。
理由なんてなくて……ただ、墜ちる、と思ったから……
自分も道連れになっても……
構わない、と俺は思って……
手を伸ばしたあの時の感じ、堕ちていく感じ、今でも忘れない。
胸の奥の、最も大事な部分が掴まれるような、そういう強い切ない感覚が来て、気を失うように高いところから、一緒に抱き合うように落ちた。
実際に抱き合っているんじゃなく、心の中の奥の奥にある、大事な部分がつながったような感覚になり、それはとても甘美な感覚で、普通の愛とか恋とかとは全く違う、切ない、儚い、一瞬だけの夢のような美しさのような時間だった。
柔らかい俺の長い金髪が、真っ白な肌にゆっくり絡まって天から墜ちるスローモーションの時間は、外的な時間な流れと落差があるから、実際はすごいスピードで堕ちて、気が遠くなる。
俺は全く後悔などしていなかったし、それが自然で普通なのだと感じていた。危ない危機的な状況にいる、目の前の人を助けるのは当然なのだ、と。
人じゃなく悪魔だったわけなんだが、それも関係なかった……女神は考えられないほど、優しく人の良い性格をしていて、相手に関係なく、いつも同じ態度の人だったから。人でなく、神な訳なんだが。
俺は目に涙をため、状況を思い出し、苦しんだ。俺は当時の過去生の世界に戻ることを拒んでいた。ショックを受けたくない。理由なく、邪悪なものを愛したという事実。いや、邪悪な存在と知らない。ただただ、一人でかわいそうだったからだ。
俺は実は、悪魔がひとりぼっちでいるところをよく知っていた。
女神だった俺は、悪魔に声をかけたんだ、あまりに寂しそうだったから。
でも、もうよそう、苦しいばかりだ。悪魔は「自分の性質をそのままに自然に生きているだけなのに、除け者になる、邪悪だと後ろ指を指される」と答えた。
あの時の、寂しそうな、瞳……邪気のない瞳は俺を見ずに遠くを見てた。
女神だった俺は、悪魔を可哀想だと思った。自然にしているのに、悪者になるという悪魔のその孤独な感じが……本当に気の毒だと思ったんだ。自分の性質が、邪悪だと後ろ指を指されて、他の人と交わって自然に生きることはできないから、と悪魔は……
だからいつも、一人でひっそりと……
でも、忘れよう。現に俺は、現世で出会った時は、ドアを閉めたじゃないか。
同じ世界で生きたら、俺は闇に生きねばならなくなる。俺の世界は闇じゃない、とドアを閉めた。住む世界が違う、と。
そう、もともと住む世界が違う者同士が、出会って恋に落ちてしまったんだ、と……
俺は、ここは俺の住む世界じゃないです、と言った……
俺、今回、男で良かったな。異性だったら、引き寄せられてしまうところだったかもしれない。思えば、昔から悪魔は変わらない。
黒髪に、長身だ。驚くほど細く、細身の洋服がとても似合う綺麗な体をしている。黒い服を着れば、誰もが振り返るほどに美しい。
俺は上司の黒いバイク用の革のジャケットを思い出した。男から見ても美しい。俺は未だかつて、ここまで黒の似合う男を見たことがない。
大抵、短い髪をしているが、緩いウェーブがかかっている。天然のものだ。
俺は悪魔の顔を思い出した。
暗い中で見ると、綺麗な緑に輝く。それから、一緒にいると、俺の過去生を……どんどん引っ張り出してきた。
まず俺は、緑の夕日を見て……
ここはどこなのかと驚いて……同じ風景を探しに、海外に出ることにして……休暇を取って……
別の上司が、「おいおい、岬くん、ちゃんと帰ってきてくれるんだろうな?頼むよぉ……」と俺の休暇届を見て、冗談でそう言って……
俺はまさかそのまま、本当に会社を辞めると思ってなかった……
あの上司、すごい勘をしている。直属の上司は、俺に何を言ったか、覚えてない。
美しい冷たい横顔で、俺は何を話したのか、覚えてない。
いつも冷静で、それから、実は滅茶苦茶に優し人だった。なぜか…
あ
俺は息を飲んだ、この記憶は現世じゃない。
俺に、隠れろ、と言った。俺をかばった。
ジープ、そうだ、ジープ。
そうだよ、俺に隠れろ、と。
ダメだ俺、またおかしくなってきた。記憶がどんどん蘇る。
そうだ、俺に隠れろと言って、それは初めてじゃなかった。
俺あの人のこと、よく知ってる。そのほかの時も……
俺はあの人が警備してた時に持ってた銃をおもちゃのように眺め……
その時は幼児だ。女の子で。
あの人は相変わらず、同じ顔をしていた。似てる、よく知ってる顔だ。
俺に危ないからここで遊ぶのはダメだよ、と言って……
俺は知ってたんだ、実はあの人はものすごく優しい人だ、と。
でも悪魔……元を遡って思い出したら、一緒に落ちた悪魔……
多分それが一番最初の関わりだ……
俺は苦しくなった。今回は、教会。実態はわからない。今回の実態。あ、上司か。でも二人ということは、本体、こっちの教会の悪魔は思念なのか。パラレルなのか、別の魂のよく似た魂のグループの全く別物なのか。
今回、教会が燃えて、それで俺は、ここまで今、たくさんのことを思い出していた。
それから俺は、封じ込める必要があるから、プロジェクトにかこつけて、結界を張ってやろうと画策し、メールを書いた。
だが、オーガナイザーにそのメールを出すのはためらわれた。
〜〜〜〜〜〜〜〜
今朝の俺みたいに、本当に暴発するような自分を持て余していたから、女だった時は、一体どうだったのか、思い出そうとしたが、女だった時に、こういうどうすることもできない強い欲望を、自分の中に見た時は、ほぼなかった気がした。一体どういうことなのか。性が消費される現場にいるから、そうなのかは不明だった。自分が女性だった時に、ヤリたいなんて下品なこと、そういう衝動を感じたことが一度もなかった。それは不思議だったが、男と女で、ここまでも違うのか、俺は、実は、朝目覚めて、Bがいなくて本当にホッとした。
恋愛感情ないはずなのに、過去生の踊り子だったの同僚の女性の夢、見ちゃって、俺……
そういえば、うさぎちゃんの時も、そういうことがあったな。俺は焦った。えーと。洗濯、洗濯、と。
俺、なんか変な夢を見ていた。女の夢で。起きた時、すごく不思議な感じだった。なんで今更?全く脈絡なく、過去生で一緒だった同僚の夢を見るの?
相手が俺のこと考えてるのかな、と思った。あまりに久しぶりだったから。
Bにお弁当を手渡し、普段なら起きているんだが、結局2度寝して。カレンダーを見て、3〜4時間睡眠が続いてると感じて。別に構わないが、とにかく物を壊す、落とすから。もう限界だと感じてた。
疲れていると自覚がないのに、包丁を握ると、何度も爪を削いだ。手元が狂う。刃物に対してこうだと、うっかり足の上に落としたら終わりだ。
医者の友人が、そういう風に、うっかり神経切断したら、地獄と言っていた。治ってるのに、痛みは取れない、一生続く。
俺は、これじゃダメだと、とにかく寝ることにしたのは、Bが昨日「お前、それはアビューズだ」と言ったからだ。俺が「誰に対するだよ?俺自身に対する虐待ということか?」そう聞いたら、「そうだ」と答えた。
昼なのに朝ごはんを食べながら、誰だっけ?と忘れてしまってた俺は、そうそう、と思い出した。そうだ、踊り子だった時の同僚。
夢というのは書き留めないと、起きてすぐは覚えていても、しばらく経つと思い出せなくなる。俺は思い出そうとした。何の夢だっけ?
現実で出会った彼女も、苦しんでいた。出会ってすぐに、過去生の同僚だとわかった。俺は、冷たいクールな赤い縁の眼鏡の奥の彼女に心惹かれて、スーパーのレジをしている彼女を見かけたら、いつも必ず、そこに並んだ。
高級スーパーの社員。俺たちは気がつけば、すぐに仲良くなった。彼女はラブリーなメールを定期的に送ってくれて、でも、俺は恋愛感情がなかったので、彼女に何もしていない。ただ好きだった。スーパーに行くのが楽しみで、家に誘った。下心はなかった。家に来た時の彼女は、まるで気を使わない、パジャマのようなスエットを着ていた。かわいい。だらしない格好が、いつもと全く違う。俺が彼女のことをなんとも思ってないのが伝わっている。いつも綺麗に化粧をして、大人のような彼女の、休日の格好。ノーメーク。俺は俺の前で自然な彼女が好きだった。いつも家に来るように誘って、それからおやつを出した。ただそれだけだ。好きだったが、恋愛の好きという気持ちではなく、相手も同じだった。家族、妹、姉のような感じだ。実際の姉や妹なら、もっと憎らしいとか、何かあるんだろうが、俺たちは付かず離れず、心地が良かった。
その彼女の夢を見た。彼女は実は、ポールダンスを習っているの、と俺に言った。俺はゾクッとした。そうだろう。俺たちはいつも、仕事で男を誘惑するダンスの世界にいたからな。中東の踊り子だ。ヘソを出して踊る。上手に腰をくねらせて誘惑の夜の踊りに呼ばれる。
現実に、彼女にその話をしたことはない。俺たちは同僚、昔からよく知ってる仲間だと俺は最後まで言わなかった。俺は、彼女とは占いの時も一緒だった。占いの前世でも彼女とは仲間だ。
そんなことは言わず、ただただ俺は、綺麗に飾ったケーキを出した。俺はケーキ作りに凝っていたが、それは完全に実験だった。粉とバター、卵の比率。
俺は人のレシピを見ない。どれをどれだけ混ぜたらどうなるのか?それだけに興味があり、美味しいのか美味しくないのか、あまり考えてない。どう膨らむとか、材料を混ぜる比率や焼成の温度に興味があるだけだ。味と関係ない。綺麗に膨らむかどうかを盲滅法に実験するだけのもので、もちろん食べられないと困るから、考えるんだが、成功しない。いかにレシピを見るというのが大事なのかわかるんだが、分量さえ計らないで目分量で作っていた。Bが「太るからヤメて……」と言わなかったが、実際バターの消費量がすごく、母さんから「気をつけなさい」と国際電話で注意された。毎日、日によっては1日2回焼いて、なぜ膨らまない?何が違う?と当たり前だが、目分量のせいなのに、俺はそうやって遊んでいた。ここでも俺は数学や科学はすごいな、と思っていた。
俺がなぜそんなことをやっていたのか、不明だが、アトリエもないし、俺は実は働いていた。まともに働けることを喜んでいた。その国では、俺でも雇ってもらえた。これで生活できる、生きていける。
どうして彼女の夢を見たのかはわからない。彼女は元気だろうか。昨日たまたま、ネットで彼女を見た。いつも綺麗だが、どんどん大人びていた。それでも、俺たち……魔女の末裔が…
しまった、そうか、俺たちは魔女でもあった。過去生。
忘れてた。彼女とはすごい因縁だ。なぜなら彼女は、俺にマッサージさせてほしい、と言った。彼女は大学の学生で、アロマテラピーの最後の試験に、誰かが必要だから、来て、と俺に頼んだ。
俺は彼女にマッサージされたんだよな。試験として。なんか不思議な気分だった。さすがに触られたらまずいよな。変な気分になりそうになるが、試験だから、これは。実地の試験があるというのはすごいな。そんなものなのか。彼女は緊張していて、手は冷たかったが、案外、大きな手をしていた。
こういう時に、密室で個室で二人だけだと、さすがに恋愛感情ないって言っても、体が勝手に反応する。俺は今考えても、勃っちゃうから、赤面だ。やはり無理だ、そういうふうにされたら、つい自動的に引き寄せてしまう。もっともっと先を行きたくなる、俺、禁欲してるのにダメじゃないか。
うーん、でもまあ、体に油を塗られて、あらゆるところを撫で回されたら、なかなか厳しいものがある。我慢しても、まあ、何度も同じところをぐるぐるされたら、厳しいね。いや、俺の方がやってあげるから、というような気分になって。試験だからね、俺は死体みたいに横たわってたけど、微妙だよ、気分。
俺……そうなんだよな、彼女とは現世で、そういう体験もした。そう、その時に、魔女狩りで逃げまどった時も、彼女と仲間だったことを思い出していた……はっきり。そう、逃げ惑わないとダメで。あの時の仲間、あれから二人ほど出会った。
なんというか、魔女狩りの時の仲間というのは本当に特殊だ。俺はいきなり、その当時にしていたような会話で話しかけそうになって、相手もそれを不思議と思わない。いきなり会話が噛み合い出すから、何も知らない人にとったら、変でしかない。知らない人と出会って、いきなり何をそんなに話し込んでいるの?知り合い?というような感じで。
まあいわば、お互い、「久しぶり」というような感じになる。「その後、頑張ってた?今何してるの?」と言うように。
彼女とも、すごい因縁なんだが、恋愛感情はない。綺麗だ、好きだと思っても、彼女を傷つける気は全くないから、絶対に触らない。彼女は俺以上にガラスのようにデリケートな神経で生きているから。
俺は彼女に幸せになって欲しくて、いろいろ言ったが、彼女は陰が濃すぎて、難しそうだった。こんなに綺麗、働いてもいる、なのに。
俺たちの抱える問題は同じだった。過去生にまつわって、自分の陰の部分が濃くなりすぎて、どうしても幸せになれない。職業的に仕方ないのかもしれないが、せっかく平和な時代に良い家庭に生まれ変わっても、意味がない。
これがカルマというものなのかもしれないが、彼女が好きになる男というのは、暴力を振るうバツイチ子持ち男とか、なぜ?という相手。
だって、私がいないと、そのほかの人に誰もこの人を救うことができない、と。
俺はやめておけ、そんな恋、勧められない、と……
彼女は、人生に失敗した人にも、平等にチャンスが与えられるべきだと思っているから、と。
彼女自身がそういうものを支え切る強さはないに決まっている、と俺は知っていて、お願いだから、諦めたほうがいい、と紅茶を出した。
彼女は何も言わなかったが、この国の根底に流れるもの、その時、別の国に俺は居たんだが、場所によって本当に、場所の因縁や波長が違うこと、俺は身を以て感じて居た。
俺はあの国、好きだったね。
彼女は元気なんだろうか。そのバツイチ男は最悪で、虐待する癖がある男だから、結局思った通り、彼女はその男とは続かず、すぐに別れた。
彼女は、ものすごく派手な綺麗なドレスで目立つようなパーティにいつも居たが、それは彼女の内面を全く反映しない。
俺たちは同じだ。
孔雀のように目を引き、派手だが、中身はとても繊細で、寂しく、愛に飢えて居て、実際の姿を外から気づいてもらえないような幼い子供で。
俺は起きてきてコーヒーを飲んだ後、自分で紅茶を淹れた。それから母さんに一ヶ月ぶりくらいに電話した。
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