第344話 金髪の子の店の前で
俺はなんとなくスーパーマーケットに向けて歩き出した。小雨がぱらつく。
傘を持っているが、この国でこの程度の雨で傘をさす人などいない。俺はチンピラみたいな格好も手伝って、傘など要らないと歩いた。
金髪の子の店を覗く。しばらく見かけてない。
店は閉まっていた。時計を見る。19時40分。
俺、小説の中じゃ、店を20時まで開けていることに書いた気がした。いきなり彼女を襲っちゃう小説。俺、一気に書き上げた後、失敗したと思った。
その直後、彼女にマッサージしてもらう予約を入れてて、思い切り挙動不審になっちゃったから。この気持ち、兄貴なら理解してくれると思う。
俺、照れて照れて照れて、彼女がクスクス笑うくらいだったから。
ここまで照れるのには理由があるの。
俺は、その理由を言うわけにいかないから、心臓をバクバクさせていた。だって、めちゃめちゃにえっちなマッサージに感じてしまうから。単なるハンドマッサージなのに。
俺、もう、腰が引けて引けて困った。彼女が、やりにくいから、もうちょっと前に乗り出して座ってもらえますか?とにっこり笑った。
俺、ほんとね、人生の中でここまで恥ずかしい思いしたことないと言うくらいに恥ずかしくて。
やってもいないえっちを、詳細に書いちゃいました、しかもレイプ気味です、なんて、相手にわかったらもう俺、死んでしまう。
俺ここまで、ナイーブな男じゃなかったと思う。もうちょっと、なんとも思わずに意識せずに女の子と接してたよ。
あまりに絶食期間が長すぎて、禁欲すぎて頭おかしくなってるのか、と真剣に思ったけど。
B、お前のせいだよ! お前と住んでるせいだよ!
やはりね、一人で住んでるのと、他の誰かと住んでるのは違う。Bが出張の間、本当にそう思ったもん。
パン屋の子だってそうだったよ。あ、Bいるからダメ、いない時に来て、と言ったら、当たり前だがドン引きしてた。
俺めちゃめちゃ恥ずかしい。
いや俺、こんなままじゃ問題だろうと、暗い店を覗き込んだ。
これねえ、ほんとね、この店のこの時間帯に彼女を襲っちゃったからねえ、小説の中で。
設定が3月ってことは今より暗い。でも、この店シャッターないのか。シャッターないのなら、中は丸見えだから、さすがに難しいね。
いや俺、本当にそんなことしないです。そんなことしたら犯罪者一歩手前。
合意でない行為、まずいです。
俺は誰に言い訳してるんだ、と苦笑した。俺は赤面しながら、こんなことだから、年上女性にDTなんて、不名誉なこと言われる、と怒ってた。
案外俺に、リアルでそんなこと言う奴って、一人もいなかった。いやほんとにいないから。だって周りにいつも女がいて、そんなふうに見えない。どんだけ遊んでるのと思われて。俺めちゃくちゃ、真面目なのに!
でも、今周りにいるのはゲイばっかだから!
俺はなんか選択、間違えたかな〜と思いながら店を離れた。いつまでも暗い店の中をじっと覗いてる俺、怪しすぎる。
わかった。アジア人の男は西洋で比較的モテにくい。日本の方が当たり前だがモテる。全くモテないわけじゃあないが、やっぱりね、西洋の女は肉食だから。
俺は何を分析してるんだ。はあ。
スーパーに向かおうとして、ふと時計を見た。45分。 ん〜
時間がギリギリすぎる。止めとくか。着いた途端に閉店だ。運悪いと、ギリギリ入れないんじゃないか。
俺はくるりと踵を返した。
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