第340話 自分のエロを分析する
世間は休みなため、俺は忙しくなるはずだが、今日はまたBが飲みで遅くなる。
こっちはゴールデンウィークと全く関係ないが、イースターのバカンスで学校もアトリエもない。2週間。俺は家に缶詰で作業。ちょうど締め切り前。
俺はいくつか終えたが、締め切りをまだ持っていた。真面目にギリギリなくせに余裕こいてアテナイを書いていた。ははは。なんて酷い言葉遣いだ。
Bが顔をしかめるのはわかってる。あいつ日本語わからないくせに、俺が酷い言葉を使うと、反復するんだよ。
ある日突然、車を運転していて「ポリ公」とつぶやいた奴に、俺は驚愕した。
俺さあ、そんな言葉、古いし、使わねえよ。どこから知識、得たの?
「アメ公め」
Bが言うから、
Bは日本の古いやくざ映画のタイトルを言った。日本人が誰も見てないような、すごいマイナーなアメリカ合作のヤクザ映画。1970年代?60年代?
Bは一度聞いたら忘れない、まるでAIみたいな知能だから、自然と学んで勝手にそうやって、突然アウトプットされる。俺は引いた。
「お前、俺が教えたと思われるだろ!日本で絶対そんな言葉使うなよ、皆から目を丸くされるぞ!」
俺は、差別用語には敏感だが、実際の会話では使うことがある。特に母さんがいない時。うるさい常識的な大人がいないネットで。
腹筋が震える。笑える。
それはそうとして、俺のイメージはDTだったそうだ。神原さん談。俺、その人間地雷に爆死して、赤面して、ゴールデンウィーク企画で書いたアテナイのサービスのえろシーンを慌てて削除した。
は
恥ずかしい……
DTか。俺のイメージ。
なんだよそれ。
俺は真っ赤になった。ダメだ、恥ずかしすぎる。
したいな、したいなを
俺は思わず叫んだ。車の中で。
「なに?DTって?」
Bが言う。……しまった。
「お前、その言葉忘れろ、覚えなくていい。」
俺は冷静になって、Bに言った。デリートボタン。
な? 俺はBの後頭部を押した。
百戦錬磨の年上女性にエロシーン読んだ後、「岬くんて、DTと思ってたんだけど」と言われたら恥ずかしいだろーが。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
だからと言って、ちがーーーう!と、迫ることもできない。フラストレーション。
俺は、窓の外を見た。恥ずかしいわ。
そういやBも同じことを言う。
「岬、お前、妊娠とか、結婚とか、性病に感染する危険性とか、全てのことから、自由になったとしても、お前がセックスしまくるとか、それ、全然イメージじゃない」
俺は赤くなったまま黙った。「知らねーよ」
なんでなんだ。なぜなんだ。
俺だって自由に普通に、そうしたい。なぜできない?
なんかブロックがかかるんだよ。最後までは絶対しちゃダメだと。
俺は手のひらで自分の顔を覆った。あーーーーッ、何かストレス溜まるッ。
「B、お前な、俺のことなんて何も知らないだろうが。俺が前に誰と付き合って、どんなセックスしてたとか、お前、俺のこと、実は何も知らねーだろうが。なんでそんなこと言えるんだよ」
Bは車を運転しながらクールに言った。
「だってお前の恋って、いつも好きだ、好きだけどできない、好きだ、好きだけどできない……そういう恋じゃね?」
俺は赤面した。わ、悪いかよ。って言うか、俺だってお付き合いしてた彼女くらい以前には……秘密にしているだけ。
「お前さあ、不可能なのがいいんじゃないの。愛してる、でも不可能、愛している、でも不可能……」
「知らねえ、知らねーよ」
俺は、昔書いたエロをチェックした。一個しか一般公開してないはずだ。「秘密の庭」他のは全部、どこか古いPCの中だ。もしくは、ウェブに下書き状態だ。
読み返して、考えた。
うーん、エロいというよりは……
コンセプトだな。
その時のお題に沿って、ちゃんと事前にコンセプトを立てて書いた、企画ものだった。俺はちゃんと忠実にコンセプトを最初に固めたうえで、その範囲の条件で書いた。
今のように公式になってない企画ものだったから、ランキングに乗るための戦犯扱いされた主催者や参加者は某巨大掲示板に晒されて、退会者も出たが、何人かの読者の人から、俺が出したやつも「エロい」と評価されて、良かったと思ってた。今、読んでみると、表現を頑張ってはいるが、コンセプト通りに沿って書いた感じが、ありありだ。俺だけの感覚で書けば、こういう感じというのはあまり出ない。何より主人公の女の子が、あまり俺好みの子じゃない。主人公のサイドのムッシューも、俺にしてみたら、ラノベに出てきそうな年配男性。
どういうコンセプトがあったのかって、クライアントさんがいたからさ。物語を貫く「カラー」というものがあるだろう。全体の。それを先に作ってから書いた。そのカラーは、最初から指定があったからね。
うーん。
アテナイはほぼ俺の日記。コンセプトなどない。適当にその日あったことを書いて忘れないようにしているだけ。
このコンセプトでエロを描けば、「さらっとラノベ」になって仕方ない。俺の日記だからな。
疲れてたら軽い文体になるし、その日、あったこと、思いついたことなどを忘れないように書き留めるのが目的だからな。
読む人を突き落とすような究極の官能みたいなのを書きたいと思えば、最初のコンセプトが重要だ。
俺はコンテストに出すやつはそれでいこうと思って、ほぼ書き上げたものがあるが、中途半端だった。
それは俺のキャラが結局、そこまで突き詰めた感じの鬼畜なエロができるキャラじゃないから。なんか半端。俺。
文体も設定も全てが中途半端。俺色が消えない。
……うーん。
俺は自分のサディスティックな傾向を否定しない。だが外からは見えない。外からは逆に見える。俺の見た目のせいだ。……かといって、そういう俺の芯を剥き出しにして、女性に迫るというのは、それはできない。隠してるから。
やはりそういう、誰も知らない俺を見せることができるというのは、密室の人間関係だけだろう。物理的なものじゃなく。
毎日隣で一緒に寝ているBでさえ、本当の俺を知らないのだから。
俺は心がざわつくのを感じた。俺は隠してる。外からは見えない資質。
俺が勝手に買った銃の専門誌を見つけ、Bは火がついたように怒ったが、俺はもともと、すごく凶暴な面があって、それは隠された資質だった。俺の奥の奥がざわつく。まるで別人みたいで怖いと言われたら、むしろ、その資質が自由に解き放たれる気がする。めちゃくちゃ凶暴なやつが、俺の奥から出てきそうで怖い。理屈も何も通用しないような奴。
俺はぶるっと身震いした。相手によってはまずい。そういう相手に出会ったら、自分が別人になる。もしも俺が、そんなとんでもない奴を内に秘めてたら、理性でなんとかしようとするだろう。でも、勝手に出てくるような時というのは、相手と自分以外に、他に誰も存在しない時だろう。相手の女性との相性に寄っては、何が起こるかわからないから怖い。
まあさ、爺さんみたいにわかりやすい人は別にしてだな、俺の場合、絶対に外からわからない。見透かされたことはない。一度もない。だから、俺自身も、そんな自分がいることなど、普段は知らない。俺自身、本当に知らない。
でも、善も悪もないところで、誰もいない密室で、自分がどうなるかなんて、俺は自信がない。
愛って何か、俺はよく知らない。それはすごくまずいことのような気がした。俺は相手を自分の思うままに感じさせたいという気持ちが強すぎる。相手を服従させて、思うままに操りたいというような、全能感をセックスに求めすぎる。だから本当に好きな人とはできない。自分が溺れるわけにいかない。
愛がない、技巧に走るセックスがまずいと言うのは、俺はなんとなく肌で感じていた。だからあまり関係を持たないように気をつけていた。本当に好きな人とはできないというのがそもそも、歪んでる。
まあ、平たく言えば、Bが家にいなかったから、そういう時に家に飛び込んでくる女がいたら、危ないということだ。この間みたいな悪ノリを気分でしてしまうから。
だからそれを素直に書いたんだが、イメージじゃないと言われてしまった。100倍くらいに薄めた軽いラノベ調の微エロのつもりだったのに。
じゃあ、もっと、衝撃的なやつを書いてやろうか、と思う俺、別人のようで怖い。どんな自分が出てくるのかわからなくて怖い。
玉ねぎの皮のように、向いても向いても中に到達しない構造。だから、誰も俺の中身を知らない。
俺は赤面しながら、右手で俺の唇、顔半分を覆い隠すように抑えた。恥ずかしい。
Bがミラー越しに俺を見て「ちっちゃいちゃん」とからかった。
「ちっちゃくねえよ!」
俺は即座に言い返した。子ども扱いすんなよ。
俺は幼児のようにわかりやすいそうだ。恥ずかしい。Bが「小さい」という形容詞の幼児語「ちっちゃい」という言葉を知ってるのが驚きだ。
小さい子のように、なんでも顔に出て、わかりやすいから「ちっちゃいちゃん」。
B、お前俺のこと、わかってねえ。真面目にわかってねえ。
母さんもお前も、俺のことわかってないから。
兄貴はどうだか知らないが、とにかくお前も母さんも俺のことわかってない!
兄貴は、俺が凶暴なこと、知ってるだろう。仲間だからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます