第341話 感じさせてやる
俺は「あなたDTでしょう?」と言われたことについて、剥き出しの闘志を燃やしていた。
「そんなこと、どの口が言うんだ?」
俺の凶暴な部分が、急に顔を出して、俺は慌てた。まずい。
いつも同じだ。狼狽した後、怒る俺のパターン。
純粋で素朴な俺が、真っ赤になって恥ずかしがった後、別の俺がそれを許さない。
俺は冷静になろうとした。まずい。
悪魔にノせられてる。俺は途中から気づいてた。
「岬、お前なら書けるだろ。とんでもない鬼畜なエロでも」
悪魔が嗤う。
「読む人を崖の底に突き落とすようなもの、書けるだろ?」
悪魔が挑発する。
俺は胸がザワザワするのを止められなかった。やってやろうじゃないか、と言いそうになる。
ミイラ取りがミイラになる。まずいとわかってるのに、挑発されて、まるでこんな簡単に手に乗ったら、バカじゃないか。
俺はそもそも、競争心とか、あまりない方で、プライドだって高くないし、どこにそんな自分が隠れているのか、本当に謎だった。
これは本当の俺じゃない可能性が高いな。
俺は冷静になろうとした。一体誰だ?
俺にそんなこと思わせるのは。
息が短くなったような気がしていた。圧倒的な官能の中で、息もできないような体験をさせてやりたいというのは、生死ギリギリの場所に決まってる。
俺は何度も死にかけているから、そういう場所を歩くことに慣れているが、ごく普通の人をそんな場所に連れ出すのは危険すぎる。
単に、アトラクションやアミューズメントで歩く場所じゃない。
俺は胸の鼓動が抑えられなかった。その辺に歩いている人を、そういうとんでもない空間に引きずり落とそうというのは、絶対に悪魔に決まっているから。
俺はとんでもないプレイボーイに見られることの方が多かったのに、なぜ今、その逆なのかがわからない。俺が禁欲的に、気をつけて、気をつけて、生きているせいなのか。
そして俺は、息苦しくて堪らなくなってる。自由にやりたい。好きな女と一緒にいたい。
こんなにも強く、ブレーキがかかる理由がよくわからない。確かに、本当に好きな人じゃないと嫌だし、ダメだという気持ちは強い。それでも、ここまで苦しまなくても良いだろう。
自分にも理解がうまくできない。
首につけた金の鎖のせい?
俺は、この鎖を最近になって身につけていた。一年も経ってない。これがダメなのか?
確かに、彼女との間にできた子が母の日にプレゼントしたもの、と聞いてしまうと、俺を縛っているのは当たり前だ。
もし本当に俺の子なら、俺も覚悟して、あまり浮ついたことを考えず、真面目にこのまま生きるしかない。
まさかというような、そんな気分だった。
でもパラレル・ワールドの話だろ?
ギクリとした。
そういや、俺とそっくりなタイプの奴、見かけた。
高校の時、先生を妊娠させた奴。
俺はゾワっとした。他の人の作品の中のキャラ、俺みたいだ、そっくりだと思って、読んで。
俺、こういう女はちょっと。と思ったのに……意味不明。
自分が知らない間に、相手が妊娠してこっそり産んでるというのは恐怖だ。
知らされてなくとも、全身の毛が逆立つ衝撃だ。
一体、悪魔は何がしたいんだ。真面目にわかんねえ。
俺に鬼畜なエロを描かせて、人生全体のレベルを引き下げたいとか?
俺は笑った。そのプラン、あまりにもなんというか、お手軽な堕落作戦。
それに、俺にそこまでのものが描けるか、大いに疑問だったが、できないだろうと言われると、挑戦したくなる。
真似する人が出たら、簡単に死んでしまうぞ。
俺はどうしようかと長い息を吐いた。
具体的な描写はまずいだろ。真似して死なれたら困るから。
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