第307話 Yさんに、俺、何を言った?

 

 俺は、土曜日のことを思い出そうとした。


 アテナイはYさんが読むかもしれないから、ちょっと事実と違えて書いたはずだった。


 俺と試してみます?


 俺、実はそんな野蛮なことは言ってない。


 俺が言ったこと。


 俺は記憶を辿る。たかだか土曜日のこと。昨日は日曜。今日は月曜。


 記憶の時系列がおかしいな。


 俺は兄貴に会いたい、と突然、思った。兄貴、生まれてくる前のことを覚えてるか?


 兄貴は覚えてる、と言った。俺と兄貴は、数少ない、こういう感覚を共有できる仲間だった。


 誰かと話したい。


 俺はYさんがあまりにしつこいから、Yさんに言った。


「俺、Yさんに会いに行きますよ」


俺は「驚かないでください」と言った。Yさんは怖い、関わらないで、と言った。


俺は軽くショックを受けた。


そうだ、俺の中で、Yさんは。



……そうか、母さんか。


 突然、書いている最中に思い出した。だから、Yさんとはに決まってる。俺、まさかそんなの、母さんが相手とかありえない。


 腑に落ちた。Yさんは母さんのパラレルか。そういえば名前が同じだ。


 何故、気が付かなかったんだろう。自分で驚いた。



 そして……俺は誰なのか。


 俺は突然に思い出した。ごくごく子供の頃、6歳くらいの頃のことだ。




 ……ああ、ビンゴなのか。そうかもしれない。



 俺はパズルが次々に嵌っていくことを怖く思ってた。俺だけが怖い。


 何故なら俺がいたら、誰かが死ぬことを思い当たった。


 既に兆候が出てる。



 ……俺、最悪だな。



俺はBに聞いた。お前、どんな未来がいい?


Bは、別に、と言った。



 お前さあ、結婚とか女と暮らすとか、ごく普通に人生行きたいよな?


Bは、そうだな、と言った。



 ……そうだよなあ。



俺は、ここ数日、近況ノートの書き込みに膨大な返信をしていた。


たまたま阿瀬みちさんが書き込んで、俺が返信をするうちに、阿瀬みちさんを俺が怒らせた。


その時に俺は、高校生の俺が見えた。



でもな、それはこの現実の過去じゃなかった。



その子、俺に言った。


「誰も彼もが、あなたのこと好きってわけじゃないのよ」


俺は「はあ」と返事した。結構、間の抜けた返事だな、俺。


「女の子みんなが、自分のこと好きだって思わないでよね」


俺は、その時、なんと答えるべきなのか、と黙った気がする。


「可愛くない」ともちろん言わない。


なんか怒ってんだよ、俺、なんか悪いことしたかな。


俺はそう思ったが、これは俺の経験じゃない。だって俺、女子からそんなこと言われたことなくて、その映像はちょっとショッキングだった。


そんなふうに「自惚れないでよね!」と言われたこと、一度もない。



うーん、と俺は考え込んだ。女の子は大抵、俺のことが好きだから、それが普通だった。だから、そう言われたら新鮮で、初めてだけど、ショック受ける。



かといって、今の子は全然可愛くない。


なんというかショック受けただけで、俺、そんなに自惚れてるかな?と思っただけだ。だって事実じゃないか。女の子は俺のことが好きなのは。



 まあ、全員が全員、そうだとはもちろん言わない。だからこの子、わざわざ俺に「みんながそうじゃないんだからね!」と言ったんだよ。それはわかる。



 俺がすごく単純なことを考え込んでると、藤浪くんが「なんだよお前、考え込んで」と言った。


 この世界の藤浪くんは、結構、美形なんだよ。本人の自己申告はフツメンとのことだが、こういう男はフツメンとは呼ばない。俺はリアルの藤浪くんを知らないが、俺の知ってる藤浪くんは結構な美形で、だから俺は一緒にいても落ち着いた。


 だってさ、あんまりにも差があると、気を使う。なんかジェラシーっていうか、お前は見かけがいいから、となんか言葉にならない嫉妬心を燃やされる。そういうのが鬱陶しいから、俺は自分と似たような奴としか決してつるまない。だって、そんなのおかしいだろ、何もしてないのに、存在だけで俺、ダメなのか?



 俺はさっきの女子のことを考えていた。俺なんか、あの子にした?



うーん。



 俺と阿瀬みちさんとの会話は実際は全く違って、いつも俺のことを心配して、分析して助けてくれるのにもかかわらず、俺が真正直に思ったことを言って、常に怒らせて終わっていた。


 母さんみたいな、なんというか、多分、年上の女性なんだろう。俺はすごくまっすぐに思うままに言ってるだけだけど、それがどうもダメらしい。同じようなことになる。



 俺は、この現実で女子にそんなことを言われたことがない。自惚れてる、云々とか。


 いやだって、俺、別に自惚れてないよ。自惚れてたら、もっと幸せなんじゃねーのか。


 まあいい、と思ったが、藤浪くんにしても、俺の解釈は一元的と思ってる、みたいなことを阿瀬みちさんが分析し、なるほど、と思った。


 確かに俺は頑なで、決めつけが激しいところがある。


 一元的というか、二元論の世界に住んでるんじゃないか。オール・オア・ナッシング的な。


 俺は、俺が誰なのかわかった今の段階で、俺の存在、本当にまずいと気づき始めた。Yさんが「関わらないで」と言った意味も。



 母さん。


 別に母さんのせいじゃないだろうが、ややこしいことになってる。


 とにかく、俺が一億円稼げば、ちょっとは解決に近づくんだ、とわかった。母さんのためにとか、それは無理だから、とにかく借金は返すことにする。


 家から借りた状態の一億円を俺が母さんに返せば、俺は自由、そういうことだよな。熨斗つけて返してやるよ。



 そうだよ、そういうことだよ。そうして、Bはごく普通の結婚がしたいわけだ。うーん。俺が出て行けばいいってことだよな。


 ま、一億を稼いでから考えよう。どうやって稼ぐ?リミットのある中で、どうやる?


 俺は考えた。すごい勢いで回転させたら、どうにかなるんじゃねーの。






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