第149話 この屋敷に賭けるどんな夢?


 俺は、少なくとも、建造物は無理でも、庭や壁は触れると読んでいた。ローマンモザイクのような壁画程度なら、俺一人でも実現できるだろう。問題は金だが、仕方ない、今パラサイトで、このまま引っ張れるとこまで引っ張りながら、考える。



 まず、入口部分の蔦を引き剥がし、密かにローマンモザイクの壁に変えてやろうと俺は、地道に蔦を剥がし始めた。これが後で大騒ぎの元凶になるのだが、密かに剥がしていたのと違い、Jさんがバリバリに綺麗にしてしまったら、Bが発狂する羽目になって。


 俺は、まず白く塗って、それからモザイクを考えているんだ、とBを説得したが、Bはなにも聞いちゃいない。俺は、近所のアート教室でモザイクをやっていることをいいことに、通い始めたのだが、そこはもともと油絵のアトリエで、俺はある意味、結構迷った。ちょっとピンとこないのだ。


 適当にデッサンしながら、考えた。モザイクのタイルを割るのは、俺、握力ある方なんだが、ちょっと厳しい。手のひらの真ん中がすぐ痛くなるのは目に見えていた。どうもカルシウム不足で、俺はある時からガクッと重いものが持てなくなっていた。そんなものかと驚いたが、手術というのは恐ろしいな。うさぎちゃんが言ってたが、手術して悪いところを切っても、体はまだ治っていません、と。そんなものなのだ。


 庭のモザイク計画は暗礁に乗り上げたが、俺は密かに、花を植え庭を触った。本当は石を入れたり、ガンガンに設計した大掛かりなことがやりたいのだが、Bがいちいち反対し、全く進まない。俺は「英国風の庭にしたい」というBに、「草ぼうぼう適当なんて無理だそ」と何度も行ったが、この話した?


 B、本当になあ。適当に花の種をばら撒き、水もやらないし、耕してもない。もちろん、花なんて一つも咲きやしなかった。


 ええッとねえ、B、お前には付き合いきれねえ。


 俺は敷石を引いたり、花壇を石で詰みあげたりしたかったが、Bが馬鹿みたいに反対し、まともに何もできない状態にうんざりし、アンティーク・ヴィンテージのの大きなつるバラ用ゲートを買いたい、とBに言った。ちょうど良いのがいつも行くブロカント屋に出てた。


 ものすごく可愛いんだけど高い。


結局、俺はそれも諦めた。狭いから、バラには閉口していたのだ。ただでさえ、家の戸口につるバラが大して花も咲かないくせにつるばかり伸ばし、正直持て余し気味だった。花が咲かないことには、なんともしようがない。


 その蔓バラアーチのゲートを置けば隣のムッシューがうちの庭をトイレがわりにするのも、ちょっとくらいは入って来にくくなる。



 Bが家の真ん前に置きたいと言い張るため、俺はドロップした。これ以上敷地を狭くしてどうするんだ、B。Bは庭を広く取るという考えに欠けているらしく、どんどん庭が狭くなるように、いろんなものを配置した。


 イベントで使った屋外用のデカいベンチ。


 テラスでご飯が食べたい、と俺は、最初の夏だけは頑張って外で食べたんだが、Bが事もあろうにそのテーブルをごみ扱いしやがった。Bは自分が気に入って、ブロカントで買って来た普通の大きなやつで、椅子込みで4〜5万の中古のものだった。そんな値段のものをホイホイ買って、ホイホイ捨てんなよ。


 俺はとにかくBの気まぐれにはうんざりしていて、自分で買ったものもすぐにゴミにしてしまうBにほとほと呆れていた。まだ真新しい一人がけの真っ白なソファも、真っ赤なソファも、この家に合わないと、捨ててしまったB。


 なのに、また椅子ばっかり買いやがって。3脚もデカい用途のない一人がけの肘掛椅子を買うB。


 気がつけばBに対する愚痴ばかりになってしまうが、とにかく、実は俺たちは、庭のマグノリアの木の手前まで、ガラス張りのテラスのように張り出した建物部分を増築したいと考えていた。そうなると俺のチャペル計画は無理になるんだが、狭い家を広げないとどうしようもないから、俺はエッフェルがデザインするようなやつならいい、と一応、測量の人だけは呼んだ。


 予算が全く足りなくて、将来までお預けだとはわかったが、とにかく、毎日できることをやるしかない、と、俺らは地道に本当にこの家のために頑張ったのだった。まずは、一回の電気をなんとか直さないとダメで、電気工事屋の友人の親戚が最初の5日間は一緒に泊まりがけで生活した

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