第148話 この屋敷に賭けたい俺の野望


 最後の最後の段階で、あと500万円ぐらい値切りたかった俺は、この屋敷の購入を断念しよう、とBに言った。予算がギリギリすぎて、買っても、基本的な工事をする金がない。


 Bは、絶対に欲しい、と言い張った。そうでないと、物別れで俺たちコンビもこのまま終わりだな、と。


 俺は、学生の時だったら、250万くらい、常に口座にあったのにな、と悔しく思った。俺は金にこだわらない方だから、稼いで、普通に使って、残ったら貯まっていっていた。母さんがその金をかき集めて、父さんの遺産を足して、俺にマンション買ったんだよな。


 俺は通帳なんかも全然管理してないから。


 社会人にあるまじき無茶苦茶さで、俺はよく呆れられたが、実のところ、何度も転生していると、年齢とかあんまり重要じゃないから、俺は自分の年齢を聞かれると、いつも戸惑った。だいたい、今がいつなのか知らないのだ。今年って何年でしたっけ?というレベルだ。自分が何歳かもしれないって、それはアルツハイマーのようでまずいですよ、と医者から言われたりしたが、全くこだわっていないのだから、考えるまでもなく、すいません、知りません、と。生年月日さえ俺は、「フェイクなんじゃないか」とパスポートを眺める疑い深さなので、実のところ、全てを疑うって、まあ普通じゃないよな。


 まあ、そんな俺なんだが、この屋敷を購入してひそやかな野望があった。この屋敷を広げ、歴史に残るような建造物の場所にしたいと思っていた。


 庭にチャペルを建てる。見たこともないような珍しい建造物を作り、遠方からでも人が見に来たいような、変わった場所にしたかった。暖かい水の中を移動するような建物や、俺にとって、土地って、そこからくるインスピレーションで何か作るというのは、壮大な夢だった。別に自分の手でなくていいんだが、俺に大工的な知識がないことについて、今更ながら、悔しい。


 もちろん、Bにはあんまり言ってない。鼻で笑われるだけに決まっているから。俺が考えるプロジェクトはいつも、とんでもなく現実離れしていて、いつも人から馬鹿にされたから、俺はあまり人に言わなくなった。実際に実現を手伝ってくれそうな人にしか言わないのだ。俺がやりたいことというのは、ほとんど無意味なことだから、人には絶対に理解されない。


 広大な砂漠を買い取って、ユートピアを作りたいという計画は、はるか昔から持っていたが、砂漠をドロップしたのは、アメリカの治安があまり良くないせいだった。アメリカでなくてもいいんだが、ちょっと行ったら緑がある程度の砂漠じゃないと、住むのが辛い。実のところ、俺、すでに砂漠に住めるような体調じゃない。カナダの山の中でもいいんだが、鑑賞できる人が本当に限られる。個人で飛行機を操縦するような人が、間違って見つけて、なんじゃあこりゃあ、と驚くようなものを作りたいのだ。それはかなり長いこと、俺の頭の中にあったものの、飛行機、冬、という条件が厳しく、とにかく金が要ることだった。


 この場所、こんなちっちゃな場所なら、なんとでも実現できそうだ。隣の敷地を買い取って、徐々に広げる。俺は、インベーダーとBからよく言われたが、徐々に食い込んでいくようなタイプだった。俺は世俗的な魅力があるらしく、そういう意味で面白がる人は気まぐれに俺のことを応援してくれたりするから。


 俺的には、この平べったい俺らの屋敷を、正方形に近づけたい。それには真裏の誰も住んでない夏の家の敷地が欲しかった。だが、裏は裏で、マンションを建てたい、と。それはこの屋敷を買い取ってから知ったのだが、そんなに甘くはなかったのだ。俺は、ほんの数メートルでもいいから売ってくれないか、と持ちかけ、ダメだと言われた後に、その理由を知った。裏は裏で、馬鹿でっかいマンションを建設して、そこの土地から利益を得たいと考えている。


 裏の人もやるなあ、完全に手放さず、家賃収入か、と思ったが、モダンな画一的な建物を建てられては、こっちにも影響する。こっちの建物は美術館のように古い内装の屋敷で、小さくとも、日本だったら個人美術館になるようなレベルだ。


 俺は、せめて、このままでもサロンや何かに流用したいと最初からこの屋敷には、かなりポテンシャルを感じていた。日本人にとったら、こんな場所は本当に珍しいのだから。そのためには、裏が空き地なのは本当に夢があった。普通の家が建っているが、林のように緑が多い。俺はあわよくばごっそりそのまま買えたら、と何度も夢想した。一大拠点のように、大都市に負けない、観光で人が呼べるような企画を立てたら、すごい町おこしになる。俺がやりたいことが町おこしなのは面白いが、俺は、すでにそこに何かあるものに、自分がハマるのは嫌なんだよ。


 俺は自分で何かやって、そこを自分で大きくしたい。既にあるところに頭をペコペコ下げる気はない。もしも、この計画が失敗したら、もっと奥に行けばある、広大な土地を買えばいいんじゃないか、と思い始めるくらいに、俺は、執着し始めた。これは闘いに近い。



 この屋敷は現地の国の人にとっても、うっかりすると機嫌が悪くなるくらい立派な家なのだ。それは、ハリボテにせよ、隣のムッシューがアンティークで計算づくで設計した美しい珠のような家なのだから、とにかく、このまま埋もれさせるのは惜しい。小さいくせに美しいのだ。俺らが住まなければ、もっと良い状態で保存できたバスルームなんかは、本当に悔しい。布張りのバスルームなんて、見たことがない。天蓋も布で、半面が鏡張りのため、狭くとも抜け感があり、とてもチャーミーなのだ。俺は、この部屋を設計したムッシューを密かに尊敬した。すごいセンスだ。面白い。


 この家の買取は、市も名乗りを上げていたと聞くくらいだから、それが本当なら、なぜ買うのを諦めたのか、また、ムッシューがノーと言ったのか、わからないものの、とにかく、俺の最期の賭けは、この場所を使って何かやることだった。

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