第114話 入社したらヤクザ企業


  なぜ俺らが田舎の国から飛んで逃げることになったのか。

 

 俺は、このままでは死ぬ、この国は医療って意味で野戦病院だから、もうちょっとまともな国に移動するわ、とBに言った。俺はめまいにフラフラしてて、何もできなかった。まさか、あんな簡単な手術で?


 B、今回、もうお前が一緒でなくても、俺は移動するな。じゃっ!


 俺がそう言った翌日、Bにも急転直下で人生の転機が訪れることとなった。


 実はBは、とあるホテルのNo.3だったんだが、どうも不穏な噂を耳にする、と最近漏らしていた。


 実は社長は、隣国で指名手配されているお尋ね者、という噂がまことしやかに従業員の間で流れていた。ジャンルは言えないが、まあ違法な方法で隣国で荒稼ぎして、金を持ってトンズラしたらしく、仲間からも追われている身。隣国で打ち立てた事業、ヤクザな事業だから荒稼ぎで、その売り上げを持って逃げて、追われている、と。その金を元手にホテルを経営し始めた……って噂らしい。Bはそれを知らず入社してた。金払いが良い会社、だとBは言ってたんだが。まあ、わかんないぜ、ヤクザがオーナーの会社かどうかって。俺の先輩でもそうだったもん。いきなりオーナーに抜擢されて、頑張ってたら、実はヤクザから金が出てた。マネロンのペーパーカンパニー的に、稼いでも稼がなくても、どっちでもほんとはいいんじゃないか。よくわかんないんだけど。


先輩も、なぜヤクザ企業を引き当てたのか知らないが。これって、運だね。面接時にこっちはわかんない。ヤクザ企業か、どうかなんて。


 で、Bは経理も全部見られる立場にいたから、あらゆるところにアクセスし、何かがおかしい、と感じ始め、調べ始めた。ん?この辺、なんかおかしい。隠し帳簿でもあるのか?的に。


 ある日、社長室に呼ばれ、幹部になるか迫られた。会社に忠誠を誓うかどうか。Bは確認のために、Bがアクセス不可能な、「隠されてる書類」などの提出を求めていた。そのタイミング。社長とナンバー2から、会社に本当に首をつっこむか、否か、迫られたらしい。Bがリーチした、隠し帳簿の存在。Bはその話、断った。まあ、賢明だ。俺にはまるっきり相談もなかったが、Bのことだ、打診されたその場で瞬間的に断ったんだろう。当たり前だけどな。


 そうすると、断ったその日、その場で「即クビ」になった。すごい、この話は今でもゾッとするが、社長室から自分のデスクに戻ったら、全ての端末にロックがかかり、すでに何も見ることができなくなってたって。劇的だな。証拠をコピーして持ち出されるとまずい、と思ったんだろうな。いきなりクビだ。一瞬で。


 B、もしもお前、ノーと即答してなかったら、俺まで気づかないうちに、ヤクザファミリーの一員になってたよ。こええ。こええぞ。


 青ざめて帰宅したBは、俺についていく、と言った。俺、会社、今日、辞めたから、と。すげえタイミングに俺は驚いた。俺は身支度整えてたから。なんせこの国、俺は咳き込んで、咳が止まらない。何かがおかしい。チクチクする。手術で抵抗力が落ちてる俺は、この国の大気汚染かなんだか知らないが、ずっと咳が止まらなかった。


 Bに聞くと、従業員の間で、金回りについて、そういう不穏な噂は流れていたらしかった。金の出所が不明だと。まあ簡単に想像つくが、マネロンのために立てた会社か。街の中心、大きなストリートにドカンと立ってる有名なビジネスホテルが、そんなホテルだと誰が知るかよ。ラブホじゃねえぞ。


 それにしても、Bはその会社でNO.3のポストだったのだから、引き込まれる直前で良かった。自分たちも気づかずに、悪事の片棒を担がされ、お尋ね者になってるところだ。入ったが最後、抜けられない。


 会社としては、Bが何か証拠を押さえて、当局にチクられたり、急なクビ切りをBに訴えられる可能性を考え、その前に俺らを消すって動きがあるかもな、と、

俺は蒼くなり、出国準備した。飛行機抑えて、あっさり行くわ。人間関係が希薄な俺は、そうやって消えたって大丈夫。世話になって必ず挨拶に行きたい人は一人、二人くらいだ。俺はすぐ、借りてた20ユーロを持って、出かけたが留守だった。ポストに入れても良かったんだが、じかにお礼を言って返したい。俺、未払いの給料が実はあって、それが20ユーロくらいだったから、まあ、トントン。でも、やっぱり、それでも返したいよな。俺は、仕方ない、また会うこともあるし、と出国した。


 Bは怒っていて、不当な解雇だ訴える、と言っていたが、それどころじゃないだろ。相手は、当局に密告されたら会社がまずいから、全力でBの口を塞ぎに来るぞ。


 速攻でその国から逃げ出さないとまずい。俺は、荷物まとめて、飛行機ですぐ逃げた。幸い荷物とかほとんどない。この時ばかりは良かったね〜


  俺、極貧生活だから、何も持ってなかったんだよね!



 実のところ、Bは陸路で逃げた。B、根性あるよ。一応、荷物ないって言っても、車に積める分くらいは、持って行きたいんだと。そうだよな。サンキュー。俺の荷物。


 トラックを運転し、船で海峡渡るB。ごめん俺、命の方が大事だから、先に飛行機で行った。Bは寝ないで船に乗り、一直線に、自国へトンズラした。俺らはそっちで落ち合った。住むとこないけど、どうしよう。




 

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