第64話 もう一軒の医者に電話


 もう夕方だが、音声案内だけでも聞こうと、俺はもう一軒の医者に電話をかけた。


 ガイダンスが流れる。


そう思ったら、なんか知らないが、ご用件はなんでしょう?という機械のボイス。


すげえ、最近はすべて自動なのか?


 俺は、じっと聞いていたが、試しに挨拶した。


向こうも挨拶する。AI?


 俺は試しに、現地語無理です、英語でいいですか?と言うと、英語は話せないと言う。だから現地語に戻る。えっと、こっちのかかりつけ医がですね、膵臓に炎症あると、で、エコーと血液検査は終わってますが、MRIが7月だから、それまでに、日本人の医者にセカンドオピニオン、聞きたくてかけました。こっちの医者だとわかりにくいんで。俺はつっかえながら言った。だって、AIみたいに、流暢な声。機械なんじゃねーのか?


 すると、医者と話したいだけで診察は要らないのですか?と言う。やっぱり音声ガイダンスにしか聞こえないが、俺は「いえいえいえいえ、違う、診察してもらいたい」と言った。


じゃ、@月@日@時はどうですか。


 俺は慌ててメモする。それって明日じゃねーの?


違います、1週間後です。ガイダンス声。


 俺はなんか話しかけてみようとした。


 えっとですね、俺がこんなのは、声がですね、機械音声みたいだから、本当に人間かな?と……


 そう言うと、相手に狼狽が見えた。笑ってはいないが、声に変化があった。


「名前をお願いします」


 結局、名前、携帯番号を言って、その建物のコード番号をもらい、予約の電話を切った。


俺は、AIボイスの人と初めて喋ったけど、あれ機械じゃないよね?


 だとしたら、脈絡ないことには答えられないんじゃないかと思い、いろいろ説明したが、ちゃんと会話が通じた。機械じゃないらしい。


 一応、後で後悔しないよう、セカンドオピニオン。母さんに、高くついて馬鹿らしいけどどうする?と言ったら、「あなた、普段どれだけ無駄なお金を使っておいて、医者ぐらいのお金、ちゃんと行きなさいよ」と切れかけた。


 俺は無駄なお金なんて使ってると思わないんだけど、俺の存在自体がほとんど無駄だから。


 俺は医者の友人に、お前、信じられない、この歳で実家から仕送り?と言われたことがあり、それを正直に母さんに言った。


それを言うと母さんは「医者になるのに親がどんだけのお金を学費に積んだと思うの?それはあなただって同じじゃないの?それ親に全額返してるの?」


 母さんは鋭いが、多分そいつは国公立の医学部だから、私立の医学部ほどじゃないぞ。


 俺は何か知らないけど不毛な気持ちになり、何でもいいから何とか稼ぐ生活をしていたはずだった。それがこんなふうになったのも、理由があるが割愛する。


 よく考えたら、全世界の人に俺の最低な人生を懺悔しなきゃならないはない。


 俺がそんな時に思い出すのは、一度書いたことがあるが俺の尊敬する先生の話だった。

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