第57話 ネットの友人の看護婦と俺の双子

 

 俺はさっきネットの友人とチャットした。彼女は本当に長い間、俺のことを知ってる。俺の名前も顔も知らない。俺は彼女の恋愛を応援したり、お互い、いろんな話をして、過去、会いたいと言われたこともあった。ネットの中の人とは絶対に会わないと決めていて、俺は残念だが、会えないと答えた。でも、きっといつかすれ違うと思うよ。会えば俺はわかる。


 俺の方はネットで顔が見えなくとも、大体のプロファイルで知ってる人ならすぐわかるという変な自負があった。世界には似ている人が三人いるという。だから時に、そっくりなプロファイルの人に出会い、俺は首をひねった。そっくりなんだけど、違う。何もかもそっくりなんだけどな。やはり世界に「自分とそっくりな人が三人いる」のは本当だな。表面の条件だけを取り替えて、すっくりパラレルに同じような人生を行っている。


 俺自身も、俺とよく似た別バージョンの人生を行く子に出会って驚いたことがある。その子は女の子で、俺はその子を見た時に、前世で俺たち双子だった、と突然に思い出した。その子は年上ですごい物知りだったが、色白で、ストレートのボブカット、俺のことを親しみを込めて呼んで、その冷たい眼差しの中にあるかすかな温もりに、俺は当時とそっくりだ、と驚いた。


 俺が彼女と双子だった時、俺も彼女と同じ仕事をしていた。多分、稲荷系か何かの神社の巫女だ。赤い袴を履き、双子だけれど、彼女の方がネガティブ・バージョン、俺の方は、ポジティブ・バージョン。そっくりな顔、俺の方は長い黒髪で、彼女の顔は今でも当時とほぼ同じだ。俺は彼女の冷たい声をよく覚えていた。鈴が鳴るような声だ。彼女から呼びかけられると、俺はいつも嬉しくなったことを覚えている。その理由はわからないが、彼女はそんなでいて、双子の姉妹の俺を今も変わらずに、なんというか、何も知らないのに親しみを持って接してくれていた。


 俺が、彼女を妊娠させた奴を……突き止めて、会いに行くまではな。


 俺は彼女にどこまで深い話をしたのか、すっかり忘れてしまった。俺、前は女で……君とは双子だったけど、覚えてない?そう言ったかどうか覚えてない。今の彼女を助けてやろうと、俺は、そう思って、それが裏目に出た形になって。


 前世で双子だとは、はっきり言わなかったのかもしれない。言ったとしても彼女は驚かないだろう。とにかく彼女は……幸せになれたのか、俺は全く知らない。彼女は、中絶しないといけなかった経緯を、遠く離れた俺に手紙で詳細に知らせてきた。男には黙って中絶したんだ、と。その手紙を読んで俺は、すぐさま電話して、彼女と話し、彼女が止めるのも聞かず、そいつの居所を探し当ててしまった。旅先の行きずりの相手。短い恋。


 彼女は……


 その話はまた今度、書こうと思う。俺のパンドラの箱が開いてから、俺の過去と今が繋がり、断層のように途切れていた場所がどこかで接続され、どんどん現実の過去が勝手に芋づる式に出てくる。


 

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