第58話 ストレスの理由
俺は、母さんが変なところに引っかかってきたことについて「そんなの当たり前だろ、ネットで身元がバレるようなこと、言うわけないよ」と微かに、まるで何か、導火線に火がついたように、俺は気づかずに攻撃的になった。
「カッコ悪いとか……そんなのないだろ、誰にも気づかれないんだから」
母さんは昨日寝られなかった、と言っていた。当たり前だ。地震の不安もあるだろう。余震、ないんじゃないのか、ないって言ってたじゃないか?
俺は「ドクターはストレスの原因はなんともできない、とりあえず痛みを取る、気持ちを楽にした方がいい、それから、根本的な問題はその先に、解決した方がいい……って。今、ストレスが多すぎる、それが原因じゃないか、って」
さっきまで母さんは散々「人の言うことを聞かず、自由にしておいて、病気になったって、当たり前じゃない」と俺を
俺は早い段階で、俺には無理と……兄貴は、感覚的に人身御供みたいな気分だろうな。俺の予想は当たっていて、俺が全部背負って支えてるんだ、苦しい、自分の人生を生きたい、楽にやりたい、と母さんを通して、ことあるごとに耳にすることになった。
特に俺が挫折してからは、投資物件として、失敗だったと家族から
俺は、なんとか取り返そうと必死だったが、勝ち目がないように空回りする。目標設定の場所が悪すぎる。負け癖がついている。
俺は、集中しすぎで寝食など全く構わない、めちゃくちゃなことするとか、俺が悪かったと思ってるよ、でもここ1ヶ月、本当にストレスだったんだ、と言った。
何がストレス……医者に聞かれたから、実家の会社の経営がまずい、閉めることになりそうで、どうしたらいいのかって問題と、今……あれもこれも、問題が吹き出して……
母さんは遮り「ちょっと、人聞き悪いこと言わないでよ、こっちは大丈夫よ、そんなのないわ、潰れるとかないのよ、それはあり得ないのよ」
声を少し荒げた。会社がなくなるとか、そんなのは……
右と左の話が常に矛盾するのは母さんの癖だ。俺はBに指摘されたが、俺は子供の頃からいつも「右を選んでも左を選んでもダメ」という、アンビバレントな状態に置かれてきた。Bに言われるまで自分では気づかなかった。
俺は、離れてて、しかも会社にぶら下がった状態。俺はどうするべきなのか、でもほぼ、どうすることもできないだろ、どうするべきか。
俺がここからできることは結構ある、何か言え、俺は何でもできると言っても、お前の手を借りてやりたいことは何もない、と常に兄貴には言われた。兄貴は母さんには逆を言う。あれもしろ、これも。もっとどうにかならないのか?
母さんはそれを俺に伝える。俺がこうしたらどうか、というような案は、すべて的外れだと言う。俺が解決を言おうが、結局その解決は気に入らない。
今になり、ああしてたら良かった、と言うから、俺が早い時期に言ったと言うと、でもそうしたくなかったのだもの、と言った。
俺はそれ以外にもちょうどこの1ヶ月、どうすることもできない問題で、少なくとも、のべ1週間くらいは徹夜していた。あまりに頭を使うから、全く寝られないで朝が来る。俺は、冴え渡りすぎて寝られない、眠くならないと翌日も普通に過ごし、夜が来てもあまりに頭の中が興奮していて、寝てないのに寝られないというように、時に非常事態の時に、よくなるような緊張の中に置かれた。
そこまで俺がナーバスになった理由もわかる。俺だって、本当にまずいことの当事者にはなりたくない。後悔したくない。誰にも相談できない。人生が詰んでいる。
たとえネットの中であっても、絶対に相談できないと俺は思い、リアルの友人はもちろん、誰にも言えない。
ドクターは短い俺の人生の問題点のポイントをいくつも聞いて「それは……どうしたらいいかわかりませんね」と言った。ドクターは頭がいいから、俺が言わんとしたことがすぐにわかったんだろう。楽だ。これならたとえ録音していたとしても、証拠としては使えない。もともと、録音に証拠能力はないはずだが、俺は、常にそういうことを考える。
俺は「……Bが心配なんですが、Bは大丈夫ですか?」と聞いた。
ドクターは、会ってないし、具体的なことが見えないから良いとも悪いとも言えないが、まあ……いいわけないから……解決に向けて、本人に動いてもらうしかないと当たり前のことを言った。
Bは、耐えて耐えて耐える方のやつだ。例えば血だらけになっても平然としているようなところがあり、激痛も黙って薬を飲んで涼しい顔をする。そういう奴が、本当に不味くなってるのを感じ取るのは、苦しいのはお前だけじゃないぞ、と俺に言うからだ。
「まさかB、一年くらい前から、何かがおかしいと知り合いの医者に処方箋を書いてもらってたが、まだおかしいのか?痛いとか、何かあるのか?」
Bは答えない。「お前、医者行けよ」
俺の診断結果をみたBは「ほらな、何もないだろ」と言った。Bは、死ぬ間際でも、「なんともない」というようなやつだ。俺は、Bの部屋で、Bが時々、うっかり流し忘れてるのを見ることがある。
チョコレート色の尿……大の方も、俺は、これが恒常的というのは異常だぞ、と気にしていた。Bは、なんだよお前、詮索すんなよ、と言った。
「Bは全く、俺の言うことは聞かないんです……それがすごくストレスで……なんか最近、あいつおかしい。怒りっぽいし、気分の浮き沈みが激しすぎる。俺が、もう今日は飲むの止めといたら、というと、冷蔵庫の前に立つ俺をのらりくらりよそ見させて……」
ドクターは言った。それは良くない兆候だね……
俺、近くにいて、何かおかしいぞ、と感じて……一緒にいて、すごいストレスがかかってきます……大丈夫かな、と心配で。
ドクターは、まずできることをやろう、と言った。
君が病気になるくらいストレスに感じていると言うのは良くない、そのストレスを感じなくする薬を出すから、と。
「俺はそんなの、飲みたくありません……薬がないと調子悪くなる人をたくさん見てきたし、飲んだこともある……緩い薬でも必ず副作用がある……俺は、本当にパニックでどうしようもない精神状態の時に飲むものなら飲むかもしれないけど、飲み続けないといけないやつは嫌です。依存したくない」
ドクターはとにかく、とりあえず処方するから、と言った。痛みや辛さが飲みたくなったら飲むことを考えてみて、と言った。
間で、受付の人がノックしてエスプレッソを持ってきた。それは、もうタイムオーバーの意味だった。俺は慌てて立ち上がり、握手した。それから、ドクターは俺を送り出して、受付で「頑張ってよ」と言った。
俺は、ドクターがそんなこと言うのは珍しいと思い、自分の話をしたことを少し後悔した。
「9月の22日に***チャンネルで、テレビに出るから見てよ」
ドクターは受付に診断書を手渡しながら、俺を見て、ちょっとおどけて、そう言った。「何時なんですか?」と俺が聞くと、まだわからないんだ、と笑った。
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