第25話 さみしい共鳴


サンバのねーちゃん達のギラギラとは打って変わって、ユニクロは大きな店舗なのに、どこか静かだった。


入口を入ると、巨大な売り場のまっすぐ前から、一人の男が歩いてきた。


その男は俺を見て、すごく寂しそうに笑って、俺の横をすり抜け、ユニクロを出て行った。


俺は、あいつもさみしそうだな、としばらくして振り返ると、離れた店舗に入る横顔が見えた。


 背の高い黒髪、巻き髪の天パ。俺は、Bの従兄弟に似ているな。だとしたら頭は良くても、意地悪だ、とふっと笑った。


 俺がユニクロの商品を見ていると、サイトにあったかな、というようなものがたくさんあった。俺は最近、先にサイトで見てから買い物に行くようにしてた。どの服もそうだ。


 俺は結構洋服には詳しいし、うるさい方だ。たかだかユニクロ、されどユニクロ。コラボの商品は、よく考えてあるな、と思った。でも、日本人向けの縫製で、ヨーロッパで通用するのかどうか。


「楽」な縫製じゃダメだ。そこがユニクロが生き残っていけるかどうか、ってところだ。平べったいんだよ、日本の服は。


スペイン発のZARAはさすがにラテンだ。H&Mみたいに、縫製がちょっとというのに比べ、ユニクロはその点で安心感がある。


ZARAなんかファミリービジネスなんじゃないか。すごいな、大富豪だ。


 そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられた。さっきの男だ。


ここって、日本発だろ。他にも店舗があるね?知ってる?


 俺はスラスラと、そうなんだ、ある意味ドリームだよね。広島の小さな衣料品店から始まったらしい。ファーストリテーリングがコンセプト。創業者は当時、まだ若かったのに、ここまでの展開に広げた。小さなジーンズの小売店が、日本の中でチェーンになり、今や世界進出だ。夢だね。


 俺はまるでカメラが回ってる前かのように説明した。男は俺がそんな流暢なリポーターみたいな返事すると思ってなかったんだろう。俺が言うのを最後まで聞いて、何を言ったらいいのか困ったみたいだった。


俺は、どこから来たの?この辺の人?と尋ねた。俺は相手に主導権を握らせないようなナンパのタイプだ。自分のことは言わないで、相手のことを聞いて、分析して、という癖がついている。


 その男は住んでいる場所をなんとなく言った。電車の路線。


俺は突っ込んで、どこ?といい、どの駅?と言った。


男は素直にどことは言わなかった。言ってもわからないと思ったんだろうな。俺はいつもそんなのはある。誰でもそう思う。でも大抵知ってるんだ。


〜とか?


それは外れていたらしく、男はこの辺、ともっとわかりやすい情報を俺にくれた。


俺は、へえ、結構遠いね。なんでこんな田舎に?ユニクロは実は、あなたの住む地域、もっと近くに店舗があるのに。



 男がこんなところまで来た理由。単に多分、混み合っているのが嫌だからだろう。同じ時間で繁華街に出るのと、こことじゃ、ここの方がのんびりできるから。そういう理由だろう。でも、出会いを求めるには向いてないな。遠すぎるだろ。俺はそう思い、こういうナンパは成功しないぞ、距離があるから、と思った。



ん?


ふと気づくと、Bが俺たちの間を割って入るように、仁王立ちしてた。


俺は「ああ、この人ね、お前の従兄弟にそっくりじゃない?」


Bは「似てないね」と取り付くシマもなく言った。


俺は「いや、あなたはね、そっくりなんです、こいつの従兄弟に」


その人は狼狽しながら「いや、いろいろありがとう、俺行くね」と行って去って行った。


レジに向かうBと俺。


おれはBに「な。俺って、1日でも一人でいたことがないんだよ、実は」


Bは「自由、自由にしていいぞ、皆さん、ここに独身者がいまーす!!」


Bは俺を指差し、レジのお姉さんたちに向かって、叫んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る