第4話 うさぎちゃんを口説く俺。
すごいかわいいから、つい話しかけてしまった、気に入った、と、俺は小出しに言った。なめられたくない。俺は絶対に下手には出なかった。とにかく女をおだてて、上手にそんなふうに持っていく男たちを知ってるが、俺はそういうのはごめんだ。
そういうスタンスで口説くと、いつまでも女のわがままに振り回されることになる。女は厚かましい。
あれもこれもと、強欲だ。
俺の女性観が歪んでるのかもしれないが、女の本性というのを、俺は知ってるつもりだった。金とステイタス。
一緒に出歩くのに、当たり前だが、それでいて、見栄えのいい男がいい。金、ステイタス、見栄えがいいこと。そういう三拍子揃った男にターゲットを定めて狙い撃ちしにくる女というのは、みんな似ている。
正直、自分の周りの女性は、まあ、なんだろう、「自分の欲しいものはどうやってでも、手に入れる」と思って生きてる女ばかりだった。
うっかり普通に会話したら、素性が分かって、子供扱いされるかもしれない。俺は警戒した。上からグイグイ強引目に押すことにした。もともと俺がちょっと強引なのは、これは家系なんじゃないかと思う。医者は結局のところ、人の命を預かる仕事だから、何を置いても、自分の決断を信じて人を救わないといけない立場にある。また、人の死に立ち会っても、冷酷なくらいに感情を揺らしてはいけないから、ある意味、普通の職業とは違う。俺には医者は無理、と思ったのは、その特殊性だった。
女のルームを見ると、クライアントが三人。俺は思わず「今、忙しいんだろ?俺は、うさぎちゃんが他の奴とも同時に話してるとかでなくて、俺だけと話して欲しいから、また来る。うさぎちゃんが時間できたら、連絡してきてよ」
我ながら無茶なことを言った。……連絡して、ってどうやって。でも、押したら引くのは、定石だ。押してばかりだとダメだ。グイグイ押した後に、肩透かしになるくらい、俺はあっさりと引いた。
とはいえ、おばさんがログイン中にメールしてこられても、困るのは自分。この口から出まかせ、どうするか。
おばさんがいないからって、パソ開けてまだこのサイトが表示されたままの可能性って……。自分のアカウント作るか?
でも、課金するには、日本の銀行口座情報がいるし……。
まあでも、あのおばさん、「抜けてる」からきっと、ずっとログインしっぱなしかも。どうせ家にいる時はずっと仕事してるし。
俺は、念のため、こっそりと登録メアドとパスを控えた。これって犯罪だな。おばさんのパソ以外からでも、これでログインできてしまう。最悪、ネカフェからでも。
本当は今すぐだったら、とも思ったが、三人と並行でチャットしながら、チャットだけでセックスに持ってくって、そんな高度な技、俺にできるのか?
俺は苦笑した。
すげーな、俺の想像力。
一体どうやって女をノセるのか、俺は、適当に女にあしらわれるのだけは避けたくて、「絶対に女が一人の時じゃないと無理」と考えた。俺の目的は、自分が、というよりは、女にイッて欲しい。
なんつーか、無茶じゃないか、と思った。実際に触れもしないのに?
俺は、相手が既婚者だというところに目をつけた。初心な女ならともかく、経験積んでるような女だったら、いけるんじゃないか、って。チャットだけでその気にさせる……。自分で触ってもらって。
なんというか、受験勉強せずに、東大受けに行くような俺。
とにかく三人も客がいたら、気が散ってしまう。俺は、彼女が一人でネットする時間じゃないと無理、と考え、無駄な会話せず、さっと引いた。
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