片腕の天秤

何かの尾っぽ

プロローグ 六月の花嫁

「…雨か、早く帰りたいんだけどなぁ」

そう呟きながら少年は両端に倉庫がある小道を歩いていた。今日は運悪く傘を

持ってこなかった、そんな日に限って突然の大雨が降り始めたとはとんだ災難で

ある。

「まぁ品物は届けた後だしよかったかな…っと」

ズボンに入れていた携帯端末が鳴り始めたので少年は画面を確認したあと電話に出た

「もしもし?」

『もしもしロウィル?ちゃんと品物届けれたか?』

「あぁちゃんと届けたよ、お嬢さんも笑顔で喜んでたよ」

『そりゃぁなにより!なんたってこの俺があの娘に合わせて作ったんだからな!』

通話相手は自信満々に少年、ロウィルに話した

「そーだな、あんたが初めて会ったときに目ギラギラさせて迫られて引きつった笑顔じゃなく、無邪気な笑顔だったよ」

『しっ仕方ないだろ!?あんないい素材持った娘見たらこう…仕事魂が唸るっていうか…』

「変態の間違いだろ…で、なんの用事で電話したの?」

『失礼な奴だなぁ。あぁ雨降り始めたからそっちは大丈夫かなぁって』

「大丈夫じゃねぇよ、店に着く頃にはずぶ濡れだよ」

『おーけーおーけー、やっさしいこの俺が風呂炊いといてやるよー』

「はいはいありがとさん」

ブツッ

「まったく、わざわざそんなことで電話かけてくることないだろうに」

とロウィルは苦笑しつつ、小道を歩み進めた。

「近道とはいえここ狭いなぁ、ごちゃごちゃしてるし」

小道の両端には小さな工場がいくつか並んでおりそれぞれの工場の中では従業員達が黙々と働いていた。いや訂正しよう、数名と数体が機械の加工や溶接などの業務を

行っていた。作業服を着た社員が金属を加工し少し離れた所にいる不格好な人型の

ロボットが加工された金属を溶接するという淡々とした作業である。

少年は小道を抜け屋根のある大通りに出た。そこは色々な店が並ぶ商店街で金属を

加工したアクセサリーを扱う店、食品を売る店、衣服を販売する店など様々な店が

あった。店員をよく見てみると若い女性や老人に少年少女、そして先ほどの工場とは打って変わったスタイルの良いロボット、接客用の機械人形〈オートマタ―〉も

何体か見受けられた。


今の時間を確認するため右手にはめてある腕時計を見ると15時、雨のせいで

普段より遅くなってしまったがおおむね問題ない…とそのまま歩き始めようとしたが右手の甲を見ると小さな切り傷があり血が少し垂れていた、先ほどの小道を歩いて

いる際に何かに引っ掛けてしまったのだろう。

「ま、いつものことかぁ 帰って手当てしよう」

少年は切り傷の血を拭うと何事もなかったように商店街を歩き始めた。


帰路の途中にある協会の鐘が鳴り響いた、教会の方を覗いてみると複数の人々が

タキシードを着た男性とウエディングドレスを着た女性の二人に向け花びらを巻いて祝福していた。

「ここら辺はこの時期雨降らないのにあの人たちも運悪いなぁ、ジューンブライドって縁起のいい日なのに災難なことで」

と少年は独り言をつぶやきながら遠目でにぎわっている人々を見つめた。

少しずつ雨が強くなり始めた、店まではまだ距離があるのでこの雨の中帰ったら

風邪をひいてしまう、少年はうんざりしながら雨宿りのため協会近くにある小さな

建物の中に入った。

「はぁぁはやく帰らないとあとの段取りが困るんだけどなぁ」

そう呟きながらロウィルは建物の中にある椅子に座り外を眺めていた。

…ふと何かの気配を感じた少年は小さな建物の奥、妙な気配を感じた。

最近は追い払ったので居なかったがまた溜まりだしたか、とロウィルは立ち上がり

少し荒い口調でぼやき始めた。

「チンピラが悪さをしてるのかはたまた浮浪者が住み着いたのかは知らんがこの協会は大事なお得意先の一つなんだわ、雨宿り目的でないならとっとと出てっ…て?」

いたずらや新たな住居を設けようとしているのなら少々手荒な手段をとろう、少年が喧嘩腰で奥の物陰を覗いてみると

「お……お?はぁぁぁほんと今日は厄日か何かかよ!おいあんたっ大丈夫か!?」

ロウィルはそこにいた人物の方へと駆け出した。


そこには真っ白な髪に真っ白なウエディングドレスを着た少女が横たわっていた。その幻想的な光景はただ少女が横たわっていただけならロウィルも呆然と眺めていただろう…




小さな血だまりと傍に千切れた右手が転がっていなければ

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片腕の天秤 何かの尾っぽ @liburajune

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