チキン・オレンジの【6.暗雲、再び】

 それから数日間は平穏に……とはいかなかった。

 次の騒動が起きたのは、たった2日後。まだ誰の禁も明けていない時だった。

 その日、ながるたち3バカトリオと揶揄やゆされた3人は、またしても真王なおに使いっ走らされた帰り道だった。

「ねぇ、あれからそっちも苦労してるんじゃない? グループの頭数も2人足りないんだしさ」流はみどりんとチキンに尋ねた。

「そんなことないよ。それでもこっちは6人いるし」

「確かに、クロシーと赤音ちゃんって有力者が抜けた穴は小さくないですけど、それでも、ねえさんとバカ殿がしっかり切り盛りしてますから」

「あぁ。そっちはブレインが抜けてないか。こっちはユッスーがいないから、グループが機能不全になっちゃって。話し合いはまとまらないし、誰もどうしていいのか分かってなくて真王に怒られるしさ」流は溜息をついた。「改めてユッスーの偉大さを知ったよ。俺、あきら華琉はるの3人が束になっても敵わないくらい、ユッスーは大きな働きをしてるんだ」

 一行は通用門から校内に入った。

「あ。あそこの植え込み、何か引っかかってる」体育館横の植え込みを指してみどりんが言った。

「え? どこ? どこ?」上背タッパのない流とチキンは精一杯伸び上ってみたが、何も見つけられなかった。

「待って。取ってくる」

 みどりんはツカツカと植え込みに近寄って、枝の間に隠されるように置かれていた何かを拾った。次の瞬間、彼は血相を変えて駆け戻ってきた。

「ちょっ……これっ、これっ!」彼は拾った物を差し出した。そこには黒い油性ペンで“果たし状”と殴り書かれていた。

「え……果たし状⁉」思わず流は叫んだ。

「どうします?」心配そうにチキンが言った。

「一応、兄さんに見せて、どうするべきか聞こう」みどりんは言った。

「そうしよう、行こう」

 3人は部室へと急いだ。


 「明日夜7時。五星橋いつぼしはしの下……」険しい表情のまま真王は言った。「ベルギーじゃなくて、お前らを狙ったか……」

 普段、ユッスー主宰の水曜定例の勉強会『ミミル』で使われる以外に、余り使われない第2部室では、上層部会ウルズが緊急開催されていた。

 上層部会とは、彼らの所属している『世界樹イグドラシル』という、生徒同士の互助会的な同好会の経営会議のような場で、運営方針などの重要案件を扱う合議制の会議だ。

 この会への参加資格は、部の運営に関係する何らかの役職についていること。

 流は金曜定例『何をしても構わない日』の主催者であったので、資格を持っていた。

 しかし、チキンとみどりんはヒラの部員だ。緊張してるのかな? 流は思った。

「聖! キョーちゃん!」真王は言った。

「お前ら手分けして、ユッスー、クロシー、ベルギーを呼んで来てくれ」

「分かった」伝令部隊の長と副長は、揃って部屋を飛び出して行った。

「伝令部隊の帰還まで、一時休止だ」真王は宣言した。「マキコ、ヒカル。マサばんとゴシばんの動きはどうだ?」

「マサ板は異常なしよ」マキコが言った。

「この間の件は1つも出てないよ」

「ゴシ板はバンバン流れてるよ」とヒカル。「だいぶ尾鰭おひれがついて、……というか、背鰭せびれ胸鰭むなびれ腹鰭はらびれくらい付いちゃって、大変なことになってる。聞きたい?」

「いいや。止めとく」真王は断った。

「え~つまんない」ヒカルはむくれた。

「ねぇ、流」みどりんが呼んだ。

「こっち来て」彼は流の腕を掴んだ。


 流は廊下へ連れ出された。みどりんはチキンも呼び出していた。何のつもりだろう。

「ここじゃなんですから、こっちへ」そう言ってみどりんは廊下を歩き出した。

 彼が立ち止ったのは、校舎の同じ階で逆端にあたるポイントに来た時だった。

「流、この1件、俺らでなんとかしねぇ?」みどりんは言った。

「この騒動の火種は赤音あかねちゃんだ。でも、一応、果たし状の宛先は俺らだ。ということは、俺らが何とかしても構わねぇ、ってことじゃないのか? だったら一旗揚げようぜ」

「でも、真王に散々脅されたばかりじゃん」流は指摘した。

「それはこれでお願いします」チキンが秘密にしてくれ、というジェスチャーをした。

「だけど……」流は反論しようとしたが、チキンとみどりんに、「上層部会では適当に流しておいて下さい。僕らはこれから作業に戻るので」と押し切られてしまった。

 その後、議場に戻った流は、五東いつとうの果たし状を完全にガン無視する、という案に賛成することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る