色褪せないで 【11:思わぬハッピーエンド】

 改札口を抜けた僕らは、いつも集合場所にしている、駅前ロータリー脇のベンチ群へ

向かいました。

 ペンキのはげかけたベンチは、夕陽に照らされ、いつにも増して哀愁を感じさせます。

 その中の一つに僕は彼女を座らせました。

「ヒカル」悲しくて悔しいのを隠して、僕は言います。

「昨日の返事については、ごめん。僕は君の役には立ってあげられません。君にはもっと、紳士的で何でもできる男の子がお似合いだし、そんな人はたくさんいると思います」

「チキン!」突然、彼女は立ち上がりました。

「なんで……なんでそんな風に考えるのっ⁉ 確かに、チキンは周りから役立たずって思われてるかもしれない。……でもっ! 自分の身の丈に合った範囲内では、十分に力を発揮してるじゃない。違うの? ケンカなんて、一生弱くていい。あなたができないことは、あたしが一生懸命助けてあげるから……」

そう言って彼女は声を上げて泣き出しました。

 ……あぁ、泣かないで。この状況で泣かれたら、問答無用で僕が悪者になっちゃうから……

「ヒカル……」僕は彼女の肩を掴みました。

「ありがとう」

そうして。僕は彼女の唇に口付けをしました。

 ……まさかこんなことしちゃうなんて。どうしたんだろう、僕。そんな心積もり、してなかったのに……

 ふっと唇を離した時に感じた、人生初キスの味は、温かくて、少ししょっぱいものでした。

「チキン……?」

突然の展開で、戸惑い気味にヒカルは尋ねてきました。

「君がそこまで言ってくれたから、前言撤回。こんな、弱くて、情けなくて、頼りない僕でいいなら、交際つきあって下さい!」

「うん」彼女は嬉しそうに微笑んでくれました。

「チキ……、……ううん。これからは、カズくん、って呼んでいい?」

 ……悪いどころか、大賛成。ぜひぜひ呼んで下さい。

僕は答えます。

「もちろん」

「ありがとうっ!」

彼女は僕に抱きついてきました。

 ……ハッ……ハグ、ってやつ⁉

「また、どこかにデートに行こうね」

それだけ言うと、彼女は僕から離れました。

「うん。また行こう」

 僕は空を見上げました。

 すっかり陽の落ちた夕空は、オレンジ色を通り越して、淡い紫色へと変わってきていました。間もなく、深いナイトブルーへと変わるでしょう。

 ……この空のように。色が移ろっていくことがあるかもしれないけれど。褪せて変わるようなことはあって欲しくない。……できれば一生。この気持ち、この勇気。

「帰りましょうか、ヒカル。送って行きますから」

 菫色の西空には、一番星が一つ。駅舎を始めとする周囲の建物は全て、シルエットのように黒くなりつつあります。

「そうだね」

 僕らは、夕闇に染まる街に歩み出しました。

 ……明日は今日以上に良い日でありますように……

 今日の夕空に、僕は願いました。

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