変わるもの変わらないもの

カゲトモ

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「人生を宝石に例えるなんて、我ながら恥ずかしい奴」

 天井から落ちる水滴と共にそんな言葉を零す。昨日、といっても今から五時間くらい前の出来事だ。俺がそんなことを口にしたのは。

 デザイナーとしての夢を叶え始めた女の子が、憧れていた煌びやかな日々がくすんで見えると悩んでいたから。現実で夢が叶っていくにつれ、見ていた夢とのズレが生じたんだと思う。それは俺にも身に覚えがあるから。

「でもまぁ多分、星見さんなら大丈夫だろ」

 ロリータ服を身に纏う彼女は、お人形さんのような見た目に反して多分、いやきっと強い心を持っているだろうから。そうじゃなきゃ、あの若さであの仕事は出来ないに決まっている。それに覚悟を持った人間は、瞳の中に炎が宿っているから。例えそれが今は弱い炎だとしても。

「んんー」

 時刻は深夜三時。いつもなら仕事から帰ったら軽くシャワーを浴びてすぐにベッドに入るんだけど、今日はなんだかゆっくり浸かりたい気分だった。ちょっと肌寒かったからかな。少しだけ熱めの湯が心地いい。

浴室に漂うのはティーツリーの香り。俺は昔からウッド系の香りが好きなのだ。あー、癒される。

「俺も年を取ったってことか」

 あの頃、まだ彼女と同じ年の頃は深夜まで仕事をしていても昼まで飲み歩いていたし、仮眠だけとってまた仕事に行けるくらいのパワフルさは持ち合わせていたし、湯船にゆっくり浸かるなんて一ヶ月に数えるくらいしかなかった。それが今や身体を休めることを優先にしていたりして・・・年を感じずにはいられない。

 同い年でもリンは違うんだろうけどさ。

「あいつは特別か」

 こういうのはスポーツと一緒で日頃から鍛えていると体力がつくてもんで。日頃遊んだりしていないと、つい休息を求めてしまうんだろう。年寄りクサいなんて言わないで。

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