その後世界のアフターストーリー

優白 未侑

プロローグ『エピローグ』

長い戦いが終わった。

異世界に転生して三年余り、俺は、様々な冒険をし、出会い、別れた。

そして、今日、魔法公国エルスダムから、遠く離れた魔族の根城、魔王城。

俺は、ついに魔王に勝利をした。

しかしそこには、達成感などなかった。

「……終わったのですね、所有者(ご主人)様」

崩れ行く魔王城、その場には似合わない、綺麗な粟色のセミロングの髪の毛を揺らすメイド服の少女。唯一残った、異世界に転生してからの相棒、聖剣カリバーンの化身ガブは悲しそうに話した。

「楽しかったぞ……ガブ……」

「そんなに悲しそうな顔で楽しかったという人がいますか……所有者様」

「悲しそうって、俺だって色々失った……それで手に入れた勝利だが……高揚感の残るハッピーエンドっていうのは、難しいことなんだな……」

俺は、ここに来るまでの間に、仲間を失い、恋人も死んでしまった。魔王との戦いだって、怒りに任せた泥臭い勝ち方だった。

だからこそ、俺は、終わった後になにも残っていないのかもしれない。

しかしガブは、いつの飄々とした口調とは、打って変わり、言ったって真面目な雰囲気で語りだした。

「いいですか、篠崎伸介(シノザキシンスケ)あなたは、この世界に転生してきた中でも、最も苦労したかもしれません。だからこそ、今日のこの結果が得られたのです。失って何も得られないより、失ってでも成し遂げられたのならきっとジャンヌだって……満足……です……」

「ガブ……」

残っていた……すべてを失ったと思っていたが、ガブ……彼女の成長が残っていた。彼女は、あった時は、ただのロボットの様だったのに今では、仲間で、俺の恋人のジャンヌの死を悼んで、涙まで流していた。それだけでも俺は、異世界に転生してきた意味があったのかもしれない。

「ありがとうな、ガブ。お前のおかげで少しは、救われた気がする」

「なにを……言っているのですか……?救われたのは、私達……です。あなたが居なきゃもっと人は死んでいました……本当は、一番報われないといけないのは、所有者様なのに……やっぱり世界は、理不尽です……」

「泣くなよ……ガブのその言葉だけで俺はもう満足だから……」

段々と体の感覚が、なくなってきていた。決して致命傷を負って死にかけているわけではない。俺に起きているのは、世界の修正力による元の世界への帰還であった。

いつか、聞いた話がある。この世界の異世界転生者に関して、ことあるごとに呼ばれ、世界の歪みが解消されると異世界転生者は、元の世界に戻るのだと……光に包まれて、徐々に感覚を失うなんて……なんか死ぬみたいで物凄く当時は、怖がっていたが、いざ本番になると、その光はどこか暖かく、一切の恐怖は感じなかった。

「所有者様……本当に逝ってしまうのですね……」

「……死ぬみたいに言うなよ。別に元の場所に戻るだけだろう」

「なら、イってしまうのですね」

「ニュアンスを変えるな……変態みたいじゃないか……この性剣め」

「てへぺろ?です」

……前言撤回、人間味がありすぎて少しこの聖剣の将来が不安になってしまう。いや、本当に最初に比べたら、人間らしくなったのだが、少し空気が読めなくなってしまった……たまごっちの育成は、昔から、なぜか変な方向に育ってしまったが、まさか、相棒の育成すら変な方向になってしまうとは、思っていなかった。

「たく……緊張感とか不安はなくなるよな」

「それが人間にはできなくて、私にはできる唯一のことですから」

ニッと頬を緩め笑おうとするガブだが、嘘のつき方は、教えていなかった。頬は緩められていても、その目は、涙でたまっていた。

「ありがとうな……ガブ。楽しかった」

「私もです……ではまた……」

最後に見たのは、俺を見送ってくれる一人の少女であり、決して、ロボットではなかった。

こうして、俺の旅は、終わったのだから……

「所有者様……いなくなってしまいましたか…………ぐす……ぐす……うえぇぇぇぇん!」


 終わった何もかもが……ほとんどの生き物は、戦いが終わってよかったと思うだろう。一つの種族……魔族を除いては。

「……なんでかな。私は、みんなが仲良くなれるようになればよかったのに、気が付いたら、呪いや恨みを振りまいて……バカみたい……」

一つの種族が繁栄を終え、それ以外の種族が、繁栄を再開する。私はすべてを救えなかった。自分と魔王様が、唯一の悪となり、死ぬことで、自分の種族を守ろうとしたが、残ったのは、迫害に差別。私は、何も残せなかった。

『たく……アンタは自分の事に後悔をしない女じゃなかったの?魔雁(まかり)エリーゼ』

瓦礫の下で、瀕死状態の私に話しかけてくる声……亡霊とかではなく、恐らく、私が殺してしまった、最初で最後の人間で、親友が残した魔法。もしくは走馬灯。

だから、声は聞こえても、姿は見えない。

「ようやく私が死ぬのよ……ジャンヌ、嬉しいんじゃない、貴方を殺した魔族の幹部が死ぬのだもの……」

『……親友の死を喜べる外道がどこにいる。それにエリーゼだって、シンスケと同じ転生者だろう……死なないよ。お前は、戻るだけ』

「戻る?親友を殺した私が?地獄の間違いよ」

『……アンタ、そこまで自分のしたことに後悔する様な愁傷な性格だったかしら?』

ジャンヌの声は、私の、脳内に直接嫌味を言ってくる。走馬灯の中でも最後まで生意気な走馬灯に少し安心感を覚え、私は、苦笑いをしてしまう。

「違うわね……けど、貴方に会って直接謝りたかった……助けられなかった、全種族にも謝りたい。私の指示で死んだ魔族にも、私の指示で死んだ人間にも」

私は救えなかった。何もかもを……救うと言ってやっていたのは、ただの虐殺。

こんな私に幸せがあっていい筈がない。私に訪れるべきは、恨みや呪い。そう思っていたが、私の周りに温かい光が現れ、私は、一人その光に包まれ始めた。

「……はん、本当に帰るのか。笑っちゃうわ」

『うれしくないの?』

「三年前、この世界に転生したての頃なら、喜んでいたかもね……今は、謝りたい気分。ジャンヌにも、そして、光の勇者……シンスケにも」

『シンスケには絶対エリーゼじゃ、謝れないわよ……ふふふ』

ジャンヌの声は、笑う。

おかしそうに、確かにそうかもしれない。私は、アイツが嫌い。

……いいや、本当は……だったけれど、自分の気持ちに嘘をついているだけ。

けれど敵対していたし、そんな気持ち忘れようとしていた。歪んでいて、歪で気味の悪い私の本当の気持ち……けれど今なら……今だけなら認められた。

「ジャンヌ……アンタには怒られるかもしれないわね」

『怒らないわよ、バカ。むしろ私の代わりに頑張りなさい』

「アンタは、変わらないわね……バカ」

こうして、私は、光に完全に包まれ意識を失った。

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