2-14:圧倒的な三対一
頬に冷や汗が流れたマクリエは、なおも
「けけっ、なーにが聖クラトラス騎士団よ。そのくらいの脅しで、マクたちがビビるとでも思ってんの?」
「そうだな。すぐに終わっては私の気が収まらぬ」
言うなり、レアッサは片手を振り上げた。柔らかな唇が高速で詠唱の言葉を紡ぐ。
「――大気を
鋭い金属音。
次の瞬間、周囲の空気がさらに張り詰めた。同時に部屋の外から聞こえていた野犬や虫の声が、覆いを被せたかのように聞こえなくなる。
「結界を張った。これでどれだけ暴れようがわめこうが、外には伝わらない。もちろん、増援が来ることもない」
「あんた。まさかとは思うけど、マクたち相手に一人で戦うつもり? 本気で?」
「この役は他に譲れぬ。貴様らは私が叩きのめす」
「けけ。そう。舐めてんのね。マクたちを」
「そう思うならさっさとかかって来い」
「ぶっ殺す!」
「――我が敵を焼き撃て――!」
ヴァーテが火の魔法を放つ。
レアッサの体がゆらりと動く。まるで風が障害物に沿って流れを変えるかのように、彼女は全ての火球を
「はあああああっ!」
正面からマクリエが突っこむ。
両手の短剣を交差させるように振り下ろす。
よろけた。空振りした勢いに流され、体が泳いだのだ。
唇を噛んだマクリエは、柔軟な体を利用して回し蹴りを放った。左足を軸にして器用に回転し、相手のこめかみ目がけて踵を振り抜く。
次の瞬間、ふくらはぎに衝撃が走る。
右腕一本で止められていた。大木に素足のまま蹴りを放ったような重い痺れが脳天まで駆け抜ける。
レアッサの瞳が
足首を掴もうとレアッサが左腕を上げたとき、その腕から腰にかけてイシアの鞭が絡みついた。
「大丈夫!?」
「ええい、くそ! ホントにムカツクッ!」
刹那に感じた恐怖を紛らわせるため、犬歯を剥き出しにして怒りを露わにした。
「よくもこの女――えっ」
視界からレアッサが消える。
直後、自分の腹の辺りから凄まじい殺気が湧き上がる気配を感じ、マクリエは二の腕に鳥肌を立てる。
触れ合うほどに密着した、レアッサの姿がそこにあった。
鞭が絡まっているにも
マクリエは前屈みになり、息を詰まらせる。
まるで全ての衝撃を体の中に凝縮されたように、体の自由が
間を開けず
さらに――
「マクリエ、危ない!」
イシアの悲鳴が響く。
気合でレアッサに向き直ると、女騎士はいつの間にか長剣を抜き放ち、大上段に構えていた。
殺気の強さに息を呑む。――この一撃はまずい。
痛手が足に来ていたマクリエは、必死になって後ろに飛ぼうとした。
結果、尻餅を突くように上体を反らした無様な姿を
空気が
一閃の輝きと化したレアッサの一撃は、マクリエの脇腹に薄く赤い線を刻んだ。
マクリエの脳裏に、肩口から血を噴き出す自分の姿がよぎる。
あとわずか、躱すのが遅れていれば完璧に肉を断ち切られていた。
レアッサは息つく暇を与えない。一閃が躱されたと見るや、すぐさま構え直して突きの姿勢に入る。
いまだ体勢を崩すマクリエに、避けることはできなかった。
二の腕を深々と貫かれる。
「ああああああっ!?」
「マクリエッ!」
イシアとヴァーテが同時に叫ぶ。
レアッサは自分に絡みついている鞭を掴むと、強引に引っ張った。
鞭の柄を握り続けていたイシアは前のめりになり、そのままさらに別の方向へ体が持って行かれる。
まるで彼女自身が鞭の先端になったかのように宙を舞い、今まさに駆けつけようとしていたヴァーテの小柄な体を真横から殴打する。
「痛ぅ……あれ、え、ええっ!?」
戸惑いの声を上げ、再びイシアが宙を舞う。レアッサによって引き寄せられたのだ。
イシアは痛みと
引き寄せられた先で、鞘を構えたレアッサが待ち受ける。
二人が接触する瞬間、レアッサが逆手に持った鞘を剣のごとく振り抜いた。
壁に激突し跳ね返り、さらに横手の壁へ体を打ち付けてから、イシアは床に倒れ込んだ。
大量の脂汗と苦悶の声が溢れる。あまりに激しい衝撃に呼吸困難に陥り、激痛で背中が細かく
髪を掻き上げるレアッサ。ちらりと背後を見た。
貫かれた腕を垂れ下げたままマクリエが走り込み、無事な方の腕で渾身の斬撃を放つ。
火花を飛ばして二つの剣が
二
後はすべての斬撃をレアッサに躱される。獣のように唸り声を上げ、次第に闇雲に腕を振るい始めたマクリエを、レアッサは厳しい表情で睨み据える。
「貴様らのような野蛮な者どもが」
斬撃の間を縫い、剣先がマクリエの太股を裂く。剣を振る度にマクリエの動きは目に見えて鈍っていく。
汗だくになって顔を上げた彼女の眼前に、長剣の
「あの人を縛っているのだ!」
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