可愛い日本人形

マムルーク

第1話 とある人形

 会社の帰り道、俺はなんとなくある骨董屋へと立ち寄った。

 俺の名前は一潟錠(ひとがたじょう)。どこにでもいる平凡なサラリーマンをしている。今年で23になる。

 骨董屋など一度も入ったことがなかったのだが、なんとなくやってきた。

 お店の中は古く、おまけに狭くてかび臭かった。

 壺や掛け軸などいろんなものが置いてあった。すると、あるものに目がいった。

 それは−−日本人形である。

 赤い和服をきており、おかっぱの頭で白い肌をしている。俺はその人形と目があった。

「買ってください」

 誰かに言われた気がして周りを見たが、誰もいない。

 なんだ、気のせいか。

 すると、お年寄りの女性が俺に近づいてきた。

「その人形が気になりますか?」

 女性はかなり歳をとっているように見える。このお店の店長だろうか。

「あ、いや......」

「その人形は三年くらいまえからあるんだけど、誰も買わなくてねぇ。良かったら買うかい?」

 俺は再び人形の方をみた。この人形、よく見るとなんか可愛い気がする。

「買います!」


 俺は人形を千円で購入した。

「ふう......買っちゃったな」

 ガラスケースに入った人形をテーブルの上に置いた。

「今日からよろしくな、赤子(あかこ)」

 人形に名前をつけた。俺は冷蔵庫の方へと向かった。

「こっちこそよろしく」

「ん?」

 誰かの声が聞こえた気がしたが、やはり俺以外、誰もいない。というか、一人暮らしだしいるわけがない。

 疲れてるのだろうか。


 その日以降、俺は赤子をひたすらに可愛がった。

 櫛で髪を整え、食事の時もそばに起き、時には愚痴も聞いてもらった。

 今日も赤子に愚痴を聞いてもらっている。

「赤子、聞いてくれよ。課長がさー、俺に仕事押し付けて本当、迷惑なんだよなぁ」

 気のせいか、赤子はどこかむすっとしたような表情をしている。


 次の日、会社にて。なんだか、職場が騒がしかった。

 すると、部長がやってきてこんなことを言った。

「えー、内村課長ですが、電車内でズボンとパンツをおろすというとんでもないことをしたため、警察に捕まりました。そういうわけで今日から別の課長が配属になりました」

 う、嘘だろ......何やってるんだ課長。

 でも、まぁいいか。嫌いだったし。


 帰宅後、赤子に話しかけた。

「いやー、今日さぁ。なんか課長クビになってたよ。お前の力か? さすがにそれはないか」

 その日の夜、寝ていた時だった。

 寝るときはリビングのテーブルに赤子を置き、寝室で寝ているのだがリビングからなんだがガタガタと聞こえてきた。

 なんだろう? そう思ったとき、俺は突然、金縛りにあった。

 全く動けない。

 すると、キーーンと金属音のような耳鳴りがなってきた。

 コツコツと足音が徐々に近づいてきた。


 ギーと扉が開く音がなってきた。

 俺は怖さのあまり、目を閉じた。目を開けたらやばそうな気がする。

 開けちゃダメだ。開けちゃダメだ......

 俺は好奇心に負けて目を開けてしまった。

「やぁ!」


 目の前におかっぱ頭の少女の顔が近くにあった。

「うんだばぁー!」

 

 目が覚めた。

「なんだ夢か......」

 朝になっており、身体から大量の汗をかいていた。

 心臓がばくばくとドラムのような音を刻んでいた。

 しかし、ふと思った。あれは本当に夢だったのだろうか。

 よくよく考えてみれば不可思議なことが今までたくさんあった。

 

 朝になると人形の位置が変わっていたり。

 気のせいと自分に言い聞かせていたが、髪が若干伸びていたり。

 たまにテレビにノイズが混ざったりと赤子が来てから不思議な出来事が起こるようになった。

 なんか、リビングに行くのが怖い。

 重い腰をあげて、リビングに移動した。


 すると、リビングではさも当然のように赤い和服を来た、おかっぱ頭の幼女が椅子に座っていた。

「よ!」

「よじゃねーよ!」

 さっきまでの恐怖心を忘れて思いっきりツッコンだ。

「なんだ? 朝っぱらから。いつも私を可愛がってくれてるのに。さては、錠......照れてるんだな?」

 うふふと不敵な笑みを幼女は浮かばせた。

「ちげーよ。お前、本当に赤子か?」

「その通り。おかげさまで自由自在に動けるようになったんだ。ありがとうな。錠!」

 赤子は俺にお礼を言って来た。

「なぁ、お前は一体、何者なんだ? それに、課長を首にしたのはお前の力か?」

「その通りだ。錠にはよくしてもらってるからお礼にな。ちょっと力を使って電車に乗っていた奴のズボンとパンツを落としてやったんだ」

「いやぁ、それはちょっとやりすぎだぞ......」

 さすがに課長が不憫になってきた。

「まぁ、気にするな。それで私の正体だが......それは乙女の秘密ってことで」

「はぁ、なんだそりゃ?」

「とりあえず、お腹すいた。何か作ってくれ!」

「しょーがないな。チャーハンでも作るか」

 赤子が駄々をこねて来たので料理をすることにした。

 キッチンに向かうとドシンという音が聞こえて来た。

 振り向くと、紫色のドレスを来た少女が立っていた。

「見つけましたわ。明子」

「スミス。お前も目覚めていたのか......」

 スミスという少女と赤子が睨み合っている。

「明子。あなたの使命は人間を呪い殺すことです。さっそと、その人間をやりなさい」

「断る。私はそんなめんどくさいことなどしない」

「そうですか、なら......」

 スミスがどこからかナイフを取り出した。

「私があなたの主人を殺して差し上げますわ」

 ゆっくりとスミスが近づいて来た。やばい、殺されるのか......

「エバポレーション」

 赤子はスミスの肩に触れ、そう呟いた。

「うがぁぁぁぁ!」

 スミスの身体から煙を上がり、徐々に蒸発していった。

「なぜこんなことを......」

「錠に手を出そうとするからだ」

 スミスは跡形もなく消えて言った。

「なぁ、赤子。さっきのは?」

「スミスっていう元フランス人形。やつも具現化して私に会いに来たんだよ。私たち人型人形は宿主を呪い殺すのが使命らしいけど私は錠が好きだから放っておいたらわざわざ私のところまで来やがった。本当迷惑」

 ムスッとした表情で赤子が説明した。

「なぁ、またあんな奴が来たりするのか?」

「多分ね。ま、大丈夫でしょう!」

「嘘ダロォ!?」

 赤子の出会いから俺はとんでもないバトルに巻き込まれて行くのだった。

 




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