でんしゃのなかみ

沼米 さくら

GTO-VVVFインバータと運命

 ある日のことである。車両基地の中で、少女達がしゃべっていた。

「いったいどうしたんだ?」

 そう聞くのは、かご型三相交流誘導電動機。交流モーターだ。ボーイッシュな雰囲気を持つ長身のかっこいい系の美少女である。いちいち正式名称で呼ぶのもわずらわしいので、”ゆりかごちゃん”と呼ぶことにしよう。

 それに答えるのは、小柄な、黒髪ロングの文学少女タイプの美少女だ。

「いや、なんでもないの」

 この子は、GTOゲート・ターン・オフ・VVVFインバータである。”ゲートちゃん”と呼ぶことにする。

「なんでもないわけ無いよね、先輩。すごく落ち込んだ顔をしてるよ?」

 明るい口調で話すこの少女はIGBTインステイレ・ゲート・バイポーラ・トランジスタ・VVVFインバータ。明るい性格でみんなから愛されるアイドル的存在の美少女で、”アイちゃん”と呼ばれている。

 ゲートちゃんは語りだした。

「・・・ねえ、209系の機器更新のことは知っているわよね」

 それは、ゲートちゃんことGTO・VVVFインバータ制御が使われていた車両のことだ。

「ああ、アイのやつ、また仕事が増えるって喜んでたぜ。それが何だ?」

「その反面で、あたしはまた仕事が減ったわ。それだけじゃなくて、最近あたしを使った車両がどんどん廃車されたり、機器更新されて、あたしが取り外されて・・・。あたしはもう必要ないのかな・・・」

「「・・・」」

 二人は黙った。新しいものが生まれていく裏で、古いものが消えていく。そんな自然の摂理を忘れて―――いや、見て見ぬ振りをしていた。そんな自分たちを恥じたのだ。

 そこに、老人が現れた。

「なにしけた顔をしとるんじゃ。幸福が逃げるぞ」

「お、お師様!?」

 彼は、抵抗制御。鉄道が電気を使い始めた頃から存在する制御で、長く使われてきている。改良されつつ今も現役の制御方式だ。

「何を話しておったんじゃ?」

 彼は、泣きそうになりながら話すゲートちゃんの話を聞き、答えた。

「そうか・・・。大変じゃったのう」

「うん。昔はあなたを倒すことに夢中になってたけど・・・今ではおんなじ立場だわ。なんで、あたし、生きているんだろう」

 誰にだって訪れる運命。それは彼にもわかっていた。むしろ一番わかっているのは彼なのかもしれない。

 しかし。

「お前には生まれてきた意味というものがあるではないか」

「・・・え?」

「のう、そこの若いのや」

 老人はアイちゃんに話を振った。彼女はそれによどみなく答える。

「はい。・・・あたしは、先輩のおかげで生まれてこれたんだ」

「・・・それって、どういう意味?」

「私たち、VVVFインバータは先輩が一番最初でしょ?だから、先輩がいなきゃ私たちが生まれてくることもなかったんだよ。生まれてきてくれて本当にありがとね、先輩」

 続いて、ゆりかごちゃんも話し始める。

「ああ、あたしが使えるようになったのもゲートがいたからだ。あんたがいなきゃ、あたしがここに来ることもなかったんだよ。ありがとな」

 二人は微笑んだ。

 ゲートちゃんは、そんな二人の言葉に涙を流し、抱きつく。

「・・・こっちこそ、ありがとう!また明日からがんばるわ。これからもよろしくね」

「お、おう!」

「うん、よろしくね!」

 老人はそれを見て優しい微笑を浮かべた。


 とある日の大宮車両センターでのことであった。

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