第2話春(2)

次の日、私の声が届いたのかリオが丘のところへと再びやって来た。


「おーーい、誰かいますかー?」


やっぱりバレている……。息を潜めていると、リオはちぇっと口をとがらせ、


「やっぱりいないのか。」


と少し悲しそうに呟いた。


「あいつにめちゃくちゃ声が似てたんだけどなぁ……。」


あいつとは誰だろう?もしかしたら、私のことを知っているかもしれない。そう思い、私はその少年の目の前に降り立った。


「あの!!」


「うわぁ!!!」


少年は 驚いてキョロキョロと辺りを見回した。


「どこだよ!!姿を見せてくれ!!」


どうやら私の姿が見えていないようだ。


「今は無理です!!」


咄嗟に口から嘘がこぼれた。少年は私の声に目を輝かせた。


「こずえ……なのか?」


「わかりません。記憶を無くしているので……。」


リオはそうか……、と少し神妙な面持ちで頷いたあと、ふにゃりと笑った。


「そうか、俺の名前はリオ。おまえは?」


「わかりません。」


「そっか……。じゃあ、木の近くにいるから、キノはどうだ!」


単純すぎでしょ……。頭の中で突っ込みをいれるが、それを口にはせず、


「お好きにお呼びください。」


と言った。


「じゃあ、キノって呼ばせてもらうよ。あと、敬語じゃなくて普通に喋って欲しい。」


「……わかった。」


そう私が言うと、リオは嬉しそうに何度も頷いた。


「これからは、毎日くるよ!じゃあ、またな!!」


彼はそう言うと、すぐに丘をかけ降りていく。


「リオ……。」


なぜだか胸にじわじわと暖かいものが広がっていくのを感じた。


あれから毎日リオは私の元を訪れた。毎回楽しく、彼と会うのが待ち遠しい。そんな楽しい毎日が日課になってきたころ、サクラの木を見上げると、花びらがヒラヒラと舞い散っていて、春が終わるのを全身で感じた。

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