She is his self 「シーズヒズセルフ」
初書 ミタ
第1話
1.既知の仲
僕は 私立手塚山学園中学校1年
名前は 春野 望夢
中学受験に失敗して、
滑り止めのこの学校に来ました。
でも、まぁこの学校でもトップなら
京杜大学にいけるでしょう。
何よりもこの学校の売りは
女子生徒が圧倒的に多い。
しかも、お嬢様!
今日は入学式、壇上で校長や生徒会長の
挨拶が終わると新入生代表が出てきた。
イギリスから帰って来た帰国子女で
ケンブリッジのトリニティを
10歳で首席卒業したらしい。
数学ミレミアム懸賞問題を解いて、
フィールズ賞の受賞も決まっているようだ。
オマケにお金持ち。
アーニャ・ハートシルトというらしい。
長くてプラチナブロンドの髪で
身長も高くモデルのようだ。
まぁ、あれは少し高望みが過ぎるか。
だが、成績優秀者はクラスが固まっているため
同じクラスになりそうだ。
「そこのあなた!」
流暢な日本語でなぜかそのハートシルト嬢に
声をかけられた。
いきなり女子便所に連れ込まれた俺は
混乱していた。
第一声はきちがいかと思った。
「私は あなたよ。」
はい?この人は何をおっしゃっておられるのですか?
「あ、あいあむ あ ぺん。」
日本語が理解できないのかと思い
小学校でたばかりで英語のわからない俺は
同じくらいむちゃくちゃなことを言っていた。
「私は ペンです。」
「私って、そういうジョーク言うタイプだったかしら?」
ハートシルト嬢はそう言って少し考え込んだ。
「あなた誕生日は2月22日?朝の5時に、
仮死状態で生まれた?赤ん坊のときに2回腸重積にかかってる?」
さすがの俺も驚いた。すべて当たっている。
どこまでリサーチしているんだとも思ったが、
世界有数の財閥の後継者が俺のことをそれほど
調べる理由が見当たらない。
俺の家は、どちらかといえば貧乏な一般家庭だ。
有名人などいない。
こいつの家は、ハックフェラーとならぶ
世界一の大富豪、英国の貴族だ。
騎士爵などではなく、本物のロード。
「学校には私から言っておくから、
これからちょっと私に付き合って。」
そうお嬢様はおっしゃられると、
自家用のベントレーを呼び出して
彼女の自宅へと向かった。
高級マンションだった。
8階建てで、ホテルのようなラウンジがあり
50人近い人が働いている。
目の前には緑地のような公園があり
ヘリポートや大きな湖があった。
「すごく高そうなマンションですね。」
俺は何気なくそういった。
「そうよマンションよ。あなたの言うマンションは
高層アパートのことだけど、ここは本物のマンション、
一軒家、大邸宅よ。」
「いっけんやー まじですかー。」
驚きのあまり、素でしゃべっていた。
昼食をご馳走になった俺は、
意外に純和食なのには驚いた。
「俺に何か用ですか?」
「私ね、未来から来たの。」
「もともとは 春野望夢という男性。
つまりあなたね。」
「絶望的な未来を変えるため、
ジョイ・ハックフェラーや
エブリン・ハートシルトと一緒に
この世界にやってきたの。」
「未来の知識があって、株や為替で常勝して
2京円儲けたとしても、大物と知り合いじゃないと
保身は出来ない。殺されるだけね。
タイムトラベラーなんてそんなものよ。」
「あなたいったいいくら資産あるのですか?」
俺は思わず聞いてしまっていた。
「株だけで4000兆円 世界の株式市場の
75%を支配しているわ。日本の土地バブルでも
儲けたし、プラザ合意もよかったわね。
220兆ドルくらいは持ってるわ。」
「ちなみに、世界の総資産っていくらくらいですか?」
「う~ん、現物に限っての地球の価値なら
430兆ドルくらいね。レヴァレッジ無しの。」
ハートシルト嬢は即答した。
「え~とつまりあなたは一個人で
世界の半分以上を保有していると?」
「そうよ、そして、ハートシルト家の娘として生まれ
育った。ちなみに220兆ドルは個人資産。」
「実家のハートシルトも50兆ドルくらいは持っているわ。」
「旧4大財閥と芙蓉グループも系列会社よ。」
「あのう、タイムトラベラーといわれましたよね?
つまり他人の実績とかを盗用している可能性も
あるのですか?」
俺は失礼だとは思っても聞いてしまった。
「そうね、私の論文 ポワンカレ予想は
ロシアの科学者がもっと後に書いたものだし、
フェルマーの最終定理も盗作よ。」
「あんた泥棒かよ。」
俺は憤慨した。
「少なくとも論文を書いて理解して議論できるだけの頭脳を
持ってから言って欲しいわね。君には。」
ハートシルト嬢は物でも見るような目で俺を見ていた。
「私のことは アーニャでいいわ。本名はグラツィアやハンナ
だけど、自分自身に苗字で呼ばれるのは、妙に不愉快だわ。」
「あんたが俺なんて信じられるかよ!」
「ふ~ん、私の立場であなたを騙す理由なんてないと思うけど、
ちなみに処女でも奪ってみる?」
「いえ、いいです。ほんとに自分自身だと気持ちが悪いので。」
「あ、っそう、まあ、いずれはあなたと子作りしないと
いけない理由があるけどね。私としても
人工授精と代理母出産を希望するわ。」
「男にまったく興味ないし。」
彼女はその後の世界がどうなったかを語ってくれた。
ハックフェラーもハートシルトも協力する理由があった。
そして、未来の俺、彼女以外は過去へのタイムトラベルを
コントロールできない理由も。
理解した、理解してしまった。
2 みほりん
次の日 学校では噂になっていた。
ハートシルトさんがチビでヨワムシな俺など
眼中にない、そういう噂だった。
「だいじょうぶ~だった~。」
同じ小学校出身で、登下校も一緒にしている
中村 美穂が話しかけてきた。
俺の家は母親が入院中で、
弁当も作る技術ないから、
学食で済ませるつもりだったのだが、
こいつの母親が気を利かせ、
「1人分も2人分も同じよ。」と
無償提供してくれている。
そういう負い目はあるものの、
ハートシルトが、俺自身でなければ
恋愛対象外だろう。
直接的に言えば、顔面偏差値だ。
帰りに、ハートシルトが送っていったことを
知っているため、なにやら心配しているようだ。
学力が、楽南レベルで、楽星なら
確実に合格といわれていた、
奈良で北大寺学園、出来立ての将来伸びるであろう
北大和学園、に次ぐ名門手塚山学園、
ちなみに北大和学園は無試験特待生でのオファーがあったが
母親が馬鹿にしていたため、蹴った。
ちなみに銅志社大学は白痴のいくところだと
親は本気で信じていた。
手塚山には入れたのが奇跡とも言える、美穂
とはスタート位置が違うのだ。
ハートシルトはどうやら、生後半年で日本語と英語がぺらぺら
3歳で高校レベルの学力はあったらしい。
そりゃ、時間遡行者だからね。
10歳でケンブリッジ首席とか、すごいけど
卒業したのは実質、中身はおっさん、
試験内容も予測できるいんちきだし。
フィールズ賞確実、IPSを泥棒してノーベル賞候補とか
まだ芽が出てない川中伸弥さんに謝れといいたい。
10歳でノーベル賞候補、フィールズ賞受賞とか
そりゃ、ケンブリッジも首席にするしかないだろう。
美穂がハートシルトに話しかけると
意外に好意的だ。
まあ、中身が俺なら、好意的なのも頷ける。
数十年ぶりの再会だろうしな。
「おかし~、たべる~。」
美穂はハートシルトにお菓子を勧めていた。
意外に単純だな2人とも、そう思い、
親のように見守る俺に美穂は、
「ちっ、」と舌打ちし、
太ればいいのに。などと呟いていた。
こいつは天然キャラではなく、演じているだけ?
しかし、お菓子を食べさせて太らせるというのは
かなり知能が低い発想だぞ。。。
知能は天然だろう。
演技でこの知能は怖いが、
なぜこの学校には入れたのかも謎だ。
「ハートシルトさんは帰らないんですか?」
俺はそう言うと、部活やる気いっぱいの
ハートシルトさんの帰りが遅くならないか聴いてみた。
「ぁあ、ヘリコプターあるから、大丈夫。
それと昨日言ったけど、私はハートシルトじゃなく
アーニャね。」
寝小便漏らしてた時期、ばらすぞと
ありえない圧力をかけるアーニャに
美穂があんぐりと口をあけていた。
「えぇーっ、いつまでおねしょしてたんですか。
私も知らない。。。」
「ふ、ふたりは そういうご関係なのですか。」
どうやらこいつは本当に天然らしい。
うたがってすみませんでしたっ。
「あぁ、私 男に興味ないから。」
爆弾発言やめてください。
実質の女子高で百合とか生きにくいですよ。
4
新学期そうそう、
今日は生徒会選挙の日だ。
俺はまるで興味ないし、存在すら忘れていた。
そもそも、女子校そのもののこの中学で
男子が生徒会に立候補するなどありえない。
おれは、午前の授業が終わり、
邪魔なやつが、教室にいないので
落ち着いて、美穂の母親の作った弁当を平らげていると
美穂は、この卵焼き私が作ったんだよと
何気に主婦力をアピールしてきたりしていた。
だが、美穂の作った卵焼きは、不味かった。
そんなことは一切表面に出さず、喰らう俺だったが
どれを美穂が作ったのかがわかりすぎるため
辛かった。あまり将来嫁にはしたくない、
少なくとも料理教室に行ってもらわないと。
幸い生徒会選挙だ、校内放送で、古臭い雑音楽が
流れるのかなることはないだろうと、
どんな馬鹿な公約を掲げるか、校内放送を聴いていると、
「現在の日本は、女性議員が総理大臣になったことがありません。
男女の比率は、女性のほうが多いのにです。
これは差別ではなく、女性による怠慢です。」
もっともな正論だ。そう思いながら、この自信100%な
口調には聞き覚えがあった。
生まれも育ちもイギリスなのに、帰国子女を名乗っている
大卒の女子中学生。
本来1年生は、生徒会長にはなれない。
校則で決まっている。
校則にコンプライアンスはないだろうが、
どんな手を使ったのか、他の立候補者がすべて
辞退したらしい。理事長や校長も多額の寄付を受けた上
フィールズ賞のメダルが、学校の正面玄関で
来客をお迎えしているののを見れば、
だいたい現実は理解できた。
だが聞き捨てならないことがひとつあった。
「女子校である、我が校が、男性の生徒会役員を立てることで
問題の本質を探りましょう。」ときた。
あいつに他の男の友人はいないだろう。
間違いなく俺だ。もはや詰んでいた。
ああ、美術部、無理だろうな。
生徒会役員は部活動できない。校則だ。
俺はやつじゃないから、コンプライアンスは遵守だ。
さよなら、俺の青春。
She is his self 「シーズヒズセルフ」 初書 ミタ @yuukioka2263
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