6話
ケンの言うとおり、確かにプロメは感情表出が豊かなのだろう。いままで
机上のデータ端末が解析終了のポップアップを閃かせ、デルタは物思いから浮上する。
家内ネットワークから抽出した過去六時間の映像データを、データ端末に入れてある軍用の解析プログラムは十分とかからず走査し終えた。
結果は不可解ではあるものの、半ばデルタが予想したとおりだった。屋敷は自然に発火したように見え、時限爆弾を設置する不審な人影は存在しなかった。時限爆弾は忽然と姿を現して炸裂したように見えた。その前後には明らかに映像がいじられたノイズが残っていた。犯人の細工が巧くなかった、というわけではなく、意図して残されたものであるとデルタは判断し、ノイズに格納されている領域を展開する。そこにはデルタがよく知っている全地球測位網に則した座標数値が記されていた。犯人からのメッセージであることは明白だった。
データ端末を終了させると、デルタはクローゼットの把手に触れる。
認証――扉が開く。
電磁フィールド上に浮かぶ抜身の直刀を手に取り、カーボンファイバー製の鞘に納める。素振りのそれとは違う、刀身を自己再生するナノメタルで覆った、軍事サイボーグ戦用の
使うことがないといいのだが――チャーリーに連絡が取れなかったので、そうはいかないだろう。私物のタクティカルベストを着込み、腰のハードポイントに直刀を吊る。
(まさか、プロメが妻と同じような怒り方をするとはな)
とデルタは思う。
ほんとうにおれはなにも変わっていない――だから今度こそは守らなければならない。
そうだ、認めてしまえば楽になる。おれはこの数ヶ月の暮らしを、プロメのいる生活を心地いいと思っている。
デルタは部屋から出るとプロメを探す。一度、声をかけて出かける――いやこれは出撃だ。であるならば、やはりきちんと話をすべきだった。
しかしプロメを見つけられなかった。意図して隠れている、そういうことなら無理に声をかけることもあるまい。デルタはそう考えた。プロメにも頭を冷やす時間も必要だろう。無事に帰ってくればいいだけのことだ。
屋敷から出る。ふり返ることなく、駆け出す。
屋敷に刻まれた
C→D
CがDを援護する。あるいは、CがDを攻撃する。どちらにも意味がとれた。ただひとつ気になったのはアンクの死体で隠されていたことだ。デルタが前線にいた当時、符牒を死体で強調する意図はひとつしかなかった。
おまえもアンクのように壊してやる――。
視界が開け、デルタは座標に記された場所に到着した。
湖――座標が示したのは、プロメと来た、それ以前には妻と娘とやってきた場所だった。
岸に座礁した魚雷艇から熱源を探知。大きさから成人男性と判断――犯人かどうかはわからない。
デルタは慎重に近づいた。まだ勘は鈍ってはいなかった。
ただ場所がまずかった。ここはかつての記憶を、失った妻と娘を刺激する場所だ。
きゃはは。
娘がいま、足元をすり抜けて走り去った。妻がその後を追いかけた。
気を取られた瞬間、熱源は急激に強さを増し、閃光と爆轟をともなってデルタを押し包んだ。
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