episode1 ロゼ

 勇者記念魔術学園には、毎年多くの入学希望者が集まる。


 人気の理由は、創立者であり、学園の学園長が世界を救った英雄のヒカルである事も確かだが、ヒカル自らがスカウトした優秀な教師達、そして他の学園にはない実践的な授業があげられる。


 この学園の授業は、午前中に座学。午後に実習と分かれている。


 実習は選択制で、【総合戦闘】【魔術理論基礎】【生物医学】の三つを毎日自由に選び、学ぶことができる。


 毎日選べる理由としては、今自分に何が足りないかを自ら考え、見極め、選択することを習慣付けるためだ。


 ここの生徒の大半が国が保有する軍に入り、前線へと送られるため、今から必要なことなのだ。



 時は遡り、約四ヶ月前。


 実習で初めてテストが行われた日の事だ。


「事前に説明した通り、今日はテストを行うぞ。テストの内容は今配った紙を参考にしてくれ」


 訓練場の中心で整列した生徒達に紙を配布する教師。


 生徒達の顔は初めてのテストだけあって強ばっており、ピリリとした緊張感が訓練場に張り詰めている。


 第九訓練場。


 中等部と高等部が存在する六年制のこの学園では、それぞれの学年に専用の訓練場が存在する。


 高等部は一学年につき、二つの訓練場。中等部は一学年につき、一つの訓練場なので、この学園には九つの訓練場が存在している。


 レイオス達中等部一年生は、訓練場の中でも一番小さな第九訓練場が割り当てられていた。


 一番小さいと言っても【総合戦闘】を選択した百人を越える生徒が入っても充分な余裕がある。


 イメージとしては小学校の運動場に屋根が付き、二階に観戦席がある感じだ。


「一応読み上げるぞ」


 今回のテストは学園を取り囲む森を使ったタイムレース。


 スタートは裏門。ゴールは森の裏手にある一番高い木になっており、距離的には十五キャロ(キロメートル)ほどで、途中にはヒカルが配置した低級の魔獣が現れるため、闘うか逃げるかは各自の判断に委ねると記載されている。


 注意書きで中級以上の魔獣は事前に排除してあるとのことと、タイムの早さがそのまま成績に直結する小細工なしの実力勝負だという事が書かれている。


「魔術の使用は可。武器に関しては訓練場外の武器庫にある木製の武器を使用してくれ。低級の魔獣相手ならば木製のものでも充分だからな。では解散」


 解散の合図で生徒達は各自動き出し、武器庫に向かう者や、体を伸ばしたりとウォーミングアップをする者も見受けられる。


 第九訓練場は学園でも一番裏手にあるため、裏門には近く、慌てて移動する必要は無い。


「いきなりテストとかついてないな~」


「もうっ、文句ばっかり言ってないで早く行くよ、カーリ!」


「あーあー!聞こえなーい!」


 頭の後ろで腕を組み、文句を垂れるカーリに、ロゼが口うるさく注意している。


 ロゼとカーリは同じ村の出身で、入学当初から一緒に行動していた。


 一方レイオスは…


「チッ…ロクな武器が無いな。」


 一人だった。


 貴族としてのプライドが高く、生まれてからずっと父親から厳しい指導を受けていたレイオス。


 パーティーや披露宴などへの参加は最低限で、貴族の知り合いも少ない。


 未だに廊下ですれ違っても挨拶するよな知人どころか、名前を知っている生徒すらいなかった。



「全員揃ったな。一応言っておくが、低級の魔獣だからと言っても決して油断するなよ?」


 この世界には魔獣と呼ばれる魔術を使用する獣が存在する。


 全ての魔力の元であり、空気中に存在する魔素が異常に溜まった【魔素溜まそだまり】と呼ばれる場所から自然に生み出され、その個体によって名前が付いており、その強さで低級や中級といった階級分けされている。


 低級の魔獣は小型のものが多いが、見た目は禍々しい。


 だが、自衛のために幼い頃から戦闘を親から教育されるこの世界では低級の魔獣一匹くらいならば、八歳くらいの子が素手で一人で倒してしまう。


 なので、脅威と認識しれることはないが、低級の魔獣も複数集まれば少なからず危険はあるため、油断はできない。


「それでは、全員位置について…よーい、スタート!」


 教師のスタートの合図と同時にレイオスが、耳を塞ぎたくなるような轟音と共に飛び出す。


 その姿は他の生徒にはもう見えておらず、あまりの衝撃に全員が驚き、スタートを忘れている。


「負けてられるか!」


「す、凄いね」


 レイオスに感化を受け、意気込んでスタートするカーリ。


 カーリも、中等部にしてはかなり足が早いほうなのだが、レイオスと比べるのは些いささかこくだろう。

 カーリのスタートでテストを思い出した生徒達がワンテンポ遅れてスタートし始める。


 全員の顔がかなり引きつっているのは気のせいだろうか。


「一位は予想通り、フィエルダー家のレイオスか」


「二位は…カーリくんですね」


「レイオスに関しては問題ないだろう。カーリは心配だな…」


 生徒達の後を気配を隠しつつ、追いかけながら今年の新入生を見定める教師陣。


  その頃、レイオスは…


「他愛ない。普段のランニングの方がよっぽどハードだな。」


 現れる低級魔獣に次々と剣を叩き込み、倒していた。


 もちろん、走るスピードは減速するどころか、加速している。


「レイオス=フィエルダー。タイム、二十分三秒」


 ゴール地点の木の下にいた測定係の教師がレイオスのタイムを読み上げ、持っていた帳簿に書き込む。


「レイオスくん、まだ時間はあるがどうする?」


「そこら辺をぶらついておく。」


「わかった、あまり奥にはいかないようにね」


「ああ。」


 そう言い残して、その場でフワリとジャンプすると、木の枝の上に着地するレイオス。


 少し辺りを少し見渡してからどこかへと、木の枝から枝へと飛んで移動するレイオス。


 十五キャロをとんでもないタイムで走ったのにも関わらず、息をきらすどころが、汗一つかいていない人離れした子供らしくない生徒に記録係の教師はため息を一つこぼした。



「次から次へとキリがないな!」


 レイオスがゴールしていた頃、カーリは低級魔獣である黒狼ルプス・アーテルに囲まれていた。


 黒狼は通常の狼より一回り小さく、中型犬のような大きさだが、特徴的な長い牙と、二本の尻尾が厄介で、群れで動くため一人で対処するには時間がかかる。


「らぁ…!」


 黒狼の特徴であり、弱点でもある二つの尻尾を、上手く後ろに回り込んで切り落としていくカーリ。


「よし、これで全部だな」


 最後の一匹を倒すと、カーリはスキップでもするかのように足取り軽くゴールへと再び走り出した。


「あいつには負けただろうけど、この調子なら二番取れるぞ!」


 鼻歌交じりにそう呟くと同時に、カーリの足元に大きな魔術陣が現れる。


「な、なんだこれ!」


 慌てて魔術陣から距離を取るカーリ。


 次の瞬間、魔術陣から耳をふせぎたくなるような地響きと共に、大きなゴーレムが姿を現す。


 ゴーレムは目の前のカーリには目もくれず、丸太のような大きな腕で周りの木々をなぎ倒していく。


「なんかよくわかんないけど、倒しておいた方がいいよな?」


 カーリは持っていた木剣を強く握りしめ、ゴーレムに向かって駆け出した。



「なんだこれは…!」


 教師達が見たのは、森の中にいくつもの巨大な魔術陣が現れ、そこから多くの魔獣が出現したという信じ難い光景だった。


 魔術陣から現れた魔獣のほとんどが中級だが、中には上級の魔獣が見受けられる。


「このままだとまずいぞ!生徒の安全を第一に、上級を優先して倒すぞ!」


「「「はい!」」」


 リーダーである教師の指示に従い、散開する教師達。その顔には焦りが浮かんでいた。



「何事だ?」


 森全体が急に騒がしい雰囲気になったのに気づいたレイオスは、ゴールでもある一番高い木の上へと向かう。


「トロールの亜種と、土竜が一体に、サンダーバードが二体か…場所がかなり離れてるな。」


 広大な森にバラバラに現れた上級の魔獣に心の中でボヤきながら、既に動き出していた教師達動きを元に、冷静に判断していく。


「トロールの亜種だな。」


 優先的に倒すべき魔獣はトロールの亜種だと判断したレイオスは木を飛び降り、トロール亜種の方へと走り出した。



「…っ!らっ!」


 カーリが相手しているのは中級魔獣のストーンゴーレム。


 ストーンゴーレムはその名の通り、石でできた大型の人型魔獣で、その巨体は周りの木々と遜色ないほどの大きさで、歩く度に地面が地響きをおこす。


 ゴーレムが大きな右腕を勢いよくカーリ振り下ろす。


「あぶねっ!…ぐぅ!」


 カーリは後ろに大きく飛び、ゴーレムの振り下ろしをかわすが、振り下ろした際の衝撃で地面が砕かれ、衝撃波と共に石や土片がカーリを襲う。


「いっ…!よくもやりやがったな!」


 カーリは反撃とばかりにゴーレムの振り下ろした右腕に飛び乗ると、そのまま腕を足場に、ゴーレムの巨体を駆け上がる。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ゴーレムの不意をついて、振り下ろされたカーリの木剣は鈍い音と共にゴーレムに弾かれてしまう。


「っぅ…硬すぎだろこいつ!」


 ゴーレムに弾かれた反動で痺れる手を振りながら、次の手を考えるカーリ。


 だが、ゴーレムも考える隙を与えるほど馬鹿ではない。


 魔獣は人間と同じように魔術を使うことができる。つまり、魔術を使うだけの頭を持っているということだ。


「うおっ!」


 ゴーレムは自分の頭の上にいるカーリを振り払うために、体を大きく揺らす。


 揺れる巨体に必死にしがみつくも、咄嗟にしがみついたため、上手く掴めずに振り落とされるカーリ。


「っ…いってぇ!この年で腰痛になったらどうしてくれんだ!」


 受け身も取れず振り落とされたカーリは腰をさすりながら、ゴーレムに文句を言う。


「このままだと勝てないな…さて、どうしようか」


 再び振り下ろされるゴーレムの腕を避けながら、考えるカーリだが、連続で振り下ろされる腕を避けながらだとまともに考えることは出来ず、徐々に追い詰められていく。


「っ…!」


 ゴーレムの腕が振り下ろされた場所にあった岩が砕け、その破片がカーリの太ももに深々と刺さる。


 カーリは苦痛に顔を歪め、悲鳴にならない叫びをあげる。


「無様だな。」


 太ももの痛みにカーリが膝をついたろその時、不意にカーリの後ろから声がかけられる。


「…レイオス!」


「こんな雑魚に一方的にやられるとは、滑稽だな。」


「なんだと!」


 カーリが振り返ると、そこには木剣を片手に握りしめ、自分を見下しながら嘲笑を浮かべるレイオスの姿があった。


「この程度で手こずるようじゃまだまだだな。」


 カーリは以前、レイオスに模擬戦でやられて以来、レイオスを一方的にライバル視している。


 レイオスにその気は無いが、少しばかし意識はしているようだ。


「俺は急いでいる。貴様はさっさと学園に戻るんだな。」


「あっ…おい!まてよ!」


 レイオスはカーリの制止を無視して、ゴーレムに向かって走り出す。


 レイオスはゴーレムに向かって手のひらを向けると、手のひらから魔術陣が浮かび上がる


「邪魔だ。土人形如きが調子に乗るなよ。【放雷サンダーボルト】」


 レイオスが魔術名を唱えると、魔術陣から数本の細い雷が飛び出し、その巨体を粉砕する。


「初級魔術にも耐えられないとはな。今度からその脆さを売りにすることを勧めてやろう。」


 粉々になるゴーレムに向かってそう言い残すと、レイオスはそのまま森の中へと走り去った。


 カーリはその光景をぼうと見ることしかできなかった。



 森中に響くトロール亜種の叫び声。


 その声は重く、低く、どこまでも遠く響き、絶望を告げる鐘のようにも聴こえる。


「あっちか。」


 トロール亜種の声を頼りに走るレイオス。


 暫く走ると、木々の隙間からトロール亜種の横顔を捉える。


「っ…!」


 トロール亜種の顔を見た時、レイオスは奥歯を強く噛み締めた。


 トロール亜種の口から生徒のものと思われる腕がぶら下がっていたからだ。


「間に合わなかったか。」


 そう呟いたレイオスの声はどこまでも冷淡で単調で、だが明確な怒気が含まれていた。



 レイオスがトロール亜種の元へと駆けつけた時、トロールの口には先程見えた腕はない。


 だが、トロール亜種の足元には真っ赤な血溜まりができていた。


 トロールは中級に属し、群れではなく、単体で行動することが多い超大型の人形魔獣だ。


 頭に特徴のある捻れた角を持っており、深緑の肌とボテっとしたお腹が印象的だ。


 今回現れたトロールの亜種は深緑の肌ではなく、ドス黒い赤い肌に、通常よりも長い角をもっており、その体に余分な脂肪は存在せず、筋骨隆々としていた。


「ぁ…あぁ……」


 ふと、声がした方をレイオスが見ると、腰を抜かして真っ直ぐとトロール亜種の方を見つめている麻色のローブを被ったロゼの姿があった。


「生き残りがいたか。」


 ロゼを一瞥したあと、レイオスはすぐにトロール亜種の方へと視線を戻した。


 いきなり現れたレイオスに対して不思議そうな声をあげたトロールは足元を見る。


 新しい獲物を見つけたトロール亜種はその顔を楽しそうに醜く歪めた。



 トロール亜種が生まれたのは、ある洞窟の奥底。


 そこは魔素が色濃く、様々な強い魔獣が生まれていた。


 だが、トロール亜種は他のどの魔獣よりも強かった。


 そしてトロール亜種は悟った。


 自分は特別だと。


 他よりも強く、賢く、気高いと。


 実際に、トロール亜種は強かった。


 亜種というのは、別名、強固体と呼ばれるイレギュラーな存在で、同じトロールでも腕力一つから全てが通常のトロールより上だ。


 そして今日、洞窟の奥底にいたトロール亜種の足元に光った魔術陣にトロール亜種は抵抗するも、抵抗虚しく、魔術陣に吸い込まれた。


 そしてトロール亜種は気がつくと、その両の眼は初めて見る光景を映していた。


 青々と茂る草花。自分の身の丈と変わらない木々。


 そして、洞窟では見たことのない生物がいた。


 人間生徒達だ。


 人間は、小さく、脆く、何よりも弱い。


 トロール亜種は辺りにいる人間を手当りしだいに殺し、食べた。


 人間があげる悲鳴は麻薬のようにトロール亜種にとって心地のいいものだった。


 そしてトロール亜種は、自分はこの新しい場所でも強いと感じた。


 自分がこの世界で最も強いと。


 だが、トロール亜種の前に新しく現れた人間レイオス。 


 最初は、先ほどまで殺した人間と変わらないと思っていた。


 だが、トロール亜種は気づいていない。


 自分が敵に回したのは、先ほどまで殺していた人間とは全く別物だということに。



「フィエルダー家は代々、戦場の先頭に立ち、国を守ってきた。それがフィエルダー家の使命だからだ。」


 レイオスが何を言っているのか、トロール亜種には理解することはできない。


 だが、トロール亜種はここで本能的に感じ取った。


 【死】


 自分の死がトロール亜種の脳内でよぎった。


 レイオスが一歩踏み出す度に、トロール亜種の呼吸が荒々しくなり、体が冷えきっていく。


 明確に近づく自分の死にトロール亜種は生まれて初め恐怖した。


「国を守るということは、国にいる民を守ること。力の無き平民共を守るのが貴族であり、フィエルダー家の当主である俺の役目。」


 また一歩、また一歩と近づくにつれて色濃くなるレイオスの殺気にトロール亜種は遂に耐えられなくなった。


 自分を戒めるように、言い聞かせるように放たれたトロール亜種の咆哮。


 そして、トロール亜種は恐怖を打ち払うように片手に持っていた棍棒をレイオスに向かって振り下ろす。


「だが、守れなかった。これは俺の罪だ。」


 振り下ろされた棍棒を軽く上に飛んでかわすレイオス。


「罪への償いは貴様を殺すこと。それが俺に今出来る死者への償いだろう。」


 レイオスの言葉とともにトロール亜種の胸に、大きな魔術陣が刻まれる。


「【雷同らいどう】」


 振りかぶられたレイオスの拳は魔術陣の真ん中に撃ち込まれる。


 撃ち込まれた拳に反応するように魔術陣が光り、魔術を中心にトロール亜種の体に雷いかずちが走る。


 トロール亜種も衝撃には耐えられず、膝を付く。


 この技は中級雷魔術の一つで、敵に魔術陣を刻み、そこに衝撃を与えるとその衝撃に応じて威力が増す雷が全身を襲うという技で、レイオスが最も愛用している魔術の一つだ。


「ほう、耐えたか。」


 膝を付いた状態で、息を吸い込み、咆哮をする予備動作に入るトロール亜種にレイオスは感嘆の声を上げる。


「させるわけがないだろ?」


 レイオスが右手を振るうと、トロール亜種の喉から鮮血が飛び散る。


「トロールの使う固有魔術は咆哮に魔力を乗せ、相手の聴力を奪うものだったか。亜種であるお前の魔術がどんなものかは知らんが、魔術の反応があったからな。お前の喉を風魔術で斬らせてもらった。」


 地上に着地したレイオスは、ゆくりとトロールに近づく。


 先ほどトロール亜種が使おうとした固有魔術は咆哮に魔力を乗せ、相手の五感を狂わせるというものだ。


 この咆哮は、トロール亜種の最後の悪あがきのようなもので、喉を斬られたトロールはそのまま体を地面に倒れるように崩れていった。


「終わったか…。おい、無事か?」


 レイオスはずっと後にいたロゼに話しかける。


 後ろを振り向いたレイオスの視線の先には、ツンと尖がり、人のそれよりも長い耳と美しい翠色の髪を持ち、思わず目を奪われるような美しい少女がいた。


「その耳は、耳長族…いや、まさか…ハイエルフか?」


 レイオスの言葉にロゼはビクッとその身体を震わせ、自分の頭の上に手を乗せ、ローブが無いことに気がつくと慌てて、ローブを深くかぶり直す。


「あ、あの…」


「おい、一つ聞く。お前はハイエルフか?」


「…………はい」


 長い沈黙のあと、静かにレイオスの問いかけに肯定するロゼ。


 ロゼの肯定を聞き、自分の目頭を押さえ、唸るレイオス。


 そして、数秒の沈黙のあと、


「まず、お前の存在について他者に口外するつもりは無い。」


「ほ、ほんとですか…?」


「ああ。学園や国。他人に他言しないとフィエルダー家の当主として誓おう。」


「あ、ありがとうございます!」


「だが、こんなところにハイエルフがいるとはな…。」


 レイオスがここまで驚き、その存在を隠すのには理由がある。


 ハイエルフとはエルフ族と呼ばれる亜人族。


 レイオス、人族以外の種族で、エルフ族と呼ばれる種族の亜種。


 トロールと同じ強固体とも言える。


 人の数倍生きると言われているエルフよりも更に長い寿命を持ち、魔力量が無尽蔵に近く、魔術の才能も人族の数倍も長けており、その容姿は神にも遜色ないほどと言われている。


 だが、そのハイエルフは三百年ほど前、その容姿の良さと、無地蔵の魔力を戦争で利用する事を目当てに、大々的なハイエルフの乱獲が王国始まった。


 今ではハイエルフは絶滅したと言われ、その姿を見たものはここ十年程いない。


 その事もあり、今でもハイエルフは莫大な懸賞金が国からかけられているため、レイオスはその存在を秘密にすると、ロゼに誓ったのだ。


 通常、エルフ族は耳の長さは普通の人間と変わらないが、耳の先端が尖っていて翠色の髪を持つ。


 耳長族は、耳が異常に長く、黄色の髪をしている。


 ハイエルフは耳長族のように耳が異常に長く、先端が尖り、翠色の髪を持つ。


「やっぱり、珍しいですか…?」


「珍しいもなにも、純粋なハイエルフは生まれて初めてこの目で見たな。今でも耳長族がイタズラで髪を染めているって言った方が信憑性がある。」


「あぅ……」


 普段から人と馴れ合わないため、こういう相手の重大な秘密を知った際、どんな反応をして、どんな対応をするのが正解なのかレイオスは知らなかった。


 そのため、レイオスは頬をかきながら困ったような表情を浮かべていた。



「……取り敢えず、学園に戻れ…と言ってもその怪我をした足じゃ無理か…【ヒール】」 


「あ、ありがとうございます…」


 レイオスは初級回復魔術のヒールを唱え、怪我をしていたロゼを足を癒す。


「他の魔獣はあらかた片付いたようだな…。」


 騒がしかった森全体が静かになっているのを感じ取り、レイオスは少し胸をなでおろす。


「そう、ですね…」


「その…なんだ。学園まで送ってやる。」


「え?」


「学園へ連れて行ってやると言ったんだ。いいから少し、そこで待ってろ。」


 レイオスはトロールの死体に近づくと、角を引っこ抜き、周りの血溜まりからいくつかのペンダントや指輪を拾う


「あの…それは…」


「討伐の証拠と、遺品だ。貴様が気にするようなことでもない。」


 ロゼの手を引っ張り、立たせたあとに肩を貸すレイオス。


「あの、本当にありがとうございました…」


「お前は礼を言うばかりだな。礼を言うくらいなら、次にあいつと遭遇した時にどうしたら生き残れるか考えておくんだな。」


 少しして慣れたのか、いつもの調子を取り戻したレイオスの口は止まらず、学園に付くまでロゼへの嫌味が続いた。


 あの後、このイレギュラーな事態は学園中で話題となり、死んだ生徒の保護者への謝罪など色々と忙しく動いていた。


 更に、突如現れた魔獣に関しては最後までわからずじまいで、学園側はかなりの批判を国から受けたという。



「役者は揃った。さぁ動き出した歯車は止まらねぇぞレイオス?俺はずっとこの時を待ってたんだからなぁ」


 ククッと喉を鳴らし笑う影。


 その顔は憎悪に満ちていた。

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