クソゲー2 第11話 ミナコのお見舞い

日付は早くも5月入(い)り。

いつの間にか4月が終わりを告げ、外もだいぶ暖かくなっていた。

ゲームはというと、文化祭の出し物が決まり、今月末までは目立ったイベントは無い。


オレはジャズバンド部なので、文化祭ではライブ出演が組み込まれている。

成功させるにはなるべく部活をこなし、雑学も磨く必要がある。


ユーザーはその辺りを見事に押さえているので、かなり順調だった。

だが、それは少し急ぎすぎたらしい。

休み無く動かされ続けた結果、オレはとうとう倒れてしまった。

なので一週間の自宅療養が待っていた。



ーーーーーーーー

ーーーー



「36度7分か。だいぶ下がったな」



デジタル数字が復調の兆しを教えてくれた。

何せ今日は金曜日。

5日も寝てたら大抵は復活するだろう。

ちなみに病名は『季節外れのインフルエンザ』だそうだ。

一言余計だ。



「しかし、いざ治りかけると暇なもんだな。やる事が無い」



体調を崩して倒れると、強制的に『休む』が選択されてしまう。

そうなると外出はもちろん、楽器練習など屋内活動にも制限がかかって触れない。

動画視聴でさえ行動選択肢に入っているから、何一つ見ることが出来ない。

なのでスマホでネットサーフィンをするくらいしか過ごし方が無いのだ。



「へぇ、あのロックバンドが活動再開かー。楽しみだな」



ネットニュースを見るも、あまり快適じゃない。

参照やプロモーションの為の埋め込み動画すら見れないのだから。

その辺まで徹底されているのだから、手の込んだ作りのゲームだと思う。



「パソコン使いてぇなぁ。スマホだと首とか腕が疲れてくるんだよなぁ」



姿勢を変えつつ、ベッドの上をゴロンゴロン。

そんな事を繰り返していると母さんが部屋に入ってきた。



「リンくん。調子はどう?」


「もう平気。だいぶ元気になったよ」


「そう、なら良いわ。ミナコちゃんが来てるけど、あげていい?」


「マジかよ。もうそんな時間?」



時計を見ると午後4時半。

部活をしないで下校すると、今くらいの時間に帰宅できる。

どうして寝込んでる時って時間の感覚が狂うかな。



「お見舞いだろうな。あがってくれて良いよ」


「じゃあ呼んでくるわね」



母さんが退室して、スリッパの音が遠ざかっていく。

しばらくすると、玄関の方が騒がしくなった。

女性特有の明るいウェルカムってやつだ。



ーーミナコちゃんお待たせぇ。ごめんね、玄関先なんかで待たせちゃってぇ。


ーーううん。私こそごめんなさい。突然やってきちゃって。


ーー良いの良いの。それにしても本当に美人になったわねぇ。リンくんには勿体ないわぁ。


ーーアハハ。えっと、お台所借りて良いですか?


ーーもちろんよ。こっちへどうぞぉ。


ーーはぁい、お邪魔しまーす。



こういうとき『早く入れよ』なんて思うのはオレだけだろうか、それとも大抵の男はそう感じているのか。

こんなやり取りまでテキストに組み込まれてるんだから、珍しくもない光景なんだろうが。



「おっせぇ。アイツ何やってんだ?」



ミナコは中々やってこなかった。

時計をチラチラ見るが、もう15分は待たされている。

スマホでネットでも見ようかと思っていると、ドアがほんの少しだけ開いた。



「リンタロー、調子は戻ったの?」


「おうミナコ。もう平気だ。来週からは学校行けるぞ」


「良かったぁ。心配したんだからね」



そう言いつつミナコは手を使わず、肩でドアを押しつつ入ってきた。

両手が土鍋で塞がっているせいだ。



「なんだよそれ。おでん?」


「そんな訳ないでしょ。これはおかゆですぅ」


「いやいや、ほとんど治ったんだよ。そういうの食う段階じゃない……」


「油断しちゃダメだってば。ぶり返したら大変なんだよ?」



ミナコがレンゲを片手に抗弁した。

そしてひと匙(さじ)すくい、髪を耳にかけつつ息を吹き始める。


フゥー、フゥー。


リップで艶の増した唇が際立って見えた。

ミナコも女の子なんだなぁと思う。

生存すら危ぶまれるドジッ娘なのになぁ。

そんな感慨に耽っていると、レンゲが目の前に差し出された。



「良く冷めたと思うよ。アーンして」


「何の真似だよ。自力で食う」


「遠慮しないの。ほら口開けてよ」


「止めろよ、さっさと手渡せっつうの」


「危ないから暴れないで……」



焦りってのは良くない。

焦りってのは何も生み出さないし、害悪でしかないのな。

ついさっきまでミナコがドジだということを覚えていたのに、この瞬間だけは忘れてしまっていた。


レンゲによる攻防戦の最中、それは起きた。

重量感抜群の土鍋がなぜか天井まで飛翔。

そこで跳ね返り、まっ逆さまになって床に落ちてきた。

『どうしてそうなるんだ』というツッコミはもはや野暮。

ミナコだからで通ってしまう。


ーーガコン!


幸いにも、鍋自体は人に当たらなかった。

被弾してたら大ケガしたことだろう。

だが安心にはまだ早い。

内容物は別の動きを見せた。


そのほとんどがオレとベッドに降りかかったのだ。

熱々のおかゆが。



「あっちぃぃェエッ!」


「大変! 大丈夫!?」


「あちい! とろみがある分オレをッ!」


「あわわわ、タオルタオル……キャアッ!」



ミナコも慌てたのか、何もない所で転んだ。

その拍子にカーテンを掴んでビリィーッ!

支えきれなかったカーテンレールがガシャーン!

さらに巻き添え食ったパソコンのモニターが床へドーン!


その破壊工作は一瞬だった。

ものの数秒で部屋は廃墟のようになってしまった。



「お前何してんだよ!?」


「ごごこめんなさい! 今すぐ掃除を……ヘムッ!」


「もうジッとしててくんない!?」



再び転んだミナコがベッドの下にイン。

器用なコケ方しやがるな。

……待てよ、そこには確か。



「アアアアァーー!」


「うわぁぁぁあーーッ!」



ミナコが発掘した本を片手に絶叫した。

それは親にも内緒の秘蔵のアレだ!



「何これぇぇ大人の本! 大人が読むやつ!」


「ちげぇ! それは中継地点の本だ!」


「白状しなさい、どのパンツが好きなの!?」


「尋問の切り口おかしいだろ!」



その時。

ガチャリとドアが開く。

母さんがお菓子片手に様子を見に来たのだ。


部屋の中はぐっちゃぐちゃ。

おかゆ塗れの息子。

エロ本片手に涙する幼馴染み。


何この混沌。

どっから手をつけりゃいいんだよ?



「ええと。母さん買い物に行ってくるわね」


「違う、そうじゃない! 気遣いの方向が間違ってるぞ!」


「リンタロー、どの女の子がお気に入りなの! どんな角度が好きなの!?」


「お前ちょっと黙っててくださいぃ!」



その後なんとかミナコを落ち着かせ、体を拭いた。

床に散乱した家具やら、年代物のパソコンモニターもだ。


その後ミナコは何度も頭を下げてから帰っていった。

はぁ……。

疲れた。

それからは何もする気がおきず、すぐに就寝。


そして翌日。

熱がめっちゃ上がった。

日曜には戻ったが、土曜は辛かった。

病み上がりはぶり返さないよう体を大切にねってうるせぇよ。



【パラメータに変更あり】

体力35(+45-20)

ミナコの好感度55(+5)


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