クソゲー2 序
深夜。
アパートの一室から微かな光が漏れている。
それは白色の蛍光灯ではなく、無数の色が混ざりあった攻撃的なものだ。
液晶画面を見つめる男の顔は、室内と同様に暗い。
目は半開きで生気が無く、まるで催眠術にでもかかっているようだ。
その癖に、両手に握られているゲーム用コントローラーからは、カチャカチャッと機敏な音が奏でられる。
その慣れた手つきと言えば、さながら熟練工のようである。
「何が大作SLGだよ。全然感情移入できねぇじゃん」
男はコントローラーを放り投げ、手元のペットボトルをクイと飲んだ。
濃い炭酸が喉を通過していくが、爽快な気分からは程遠い。
ひとしきり喉を鳴らすと口を離し、拭い、フゥーと長い息を吐く。
それはどこかため息のようでもある。
ゲーム画面はエンディングを経てスタッフロールに切り替わっていて、もはや操作の必要は無い。
達成感に浸る事なく、ズボンポケットよりスマホを荒々しく取りだし、すぐに画面をパチパチとタップした。
「かつての名作リメイクというが、時代遅れな上に改編も空回り。マジで金返せ。評価は星0.5……と」
最低評価にて更新された。
このゲームソフトだが、販売開始してひと月も経っていない新作だ。
販売元は相当な腰の入れようで、発売日までに広告は頻繁に数多のメディアで大きく打たれた。
購買意欲を煽るべく、大風呂敷が連日に亘って広げられる。
結果、プロモーションそのものは大成功。
ネットも雑誌も連日大盛況。
その熱気はソフト発売日まで続き、初週セールスはかなり好調で、地域によっては品薄状態となった。
だが、それは初週セールスだけであった。
「あーぁ。久々に新品で買ったけど、失敗した。2週目とかどうすっかなぁ」
ポチッ。
もはや見る価値ナシと判断したのか、エンディング画面の途中で電源が落とされる。
すると微かな電子音の後に、ゲーム機は稼働を停止する。
それからテレビの電気まで落とし、男は徐(おもむろ)に眠り始めた。
細やかな愚痴をこぼしつつ。
部屋には深夜に相応しい静寂が訪れた。
こうして全てが眠りについたかというと、それは違う。
これより、もう一つの世界が幕を開けるのである。
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