第51話 クリストフォーラス
2月の最後の週末のこと、
『時間ある?見せたいものあるんだけど……』
兎にも角にも皆ひと段落してたから、菜々緒からLINE招集で久し振りに'チーム國松ポルシェレーシング'メンバーは本拠地(私ん
徐に工場の小さなテーブル上に菜々緒が置いた冊子には、
'CHRISTOPHORUS'
とある、表紙にはポルシェの写真が載ってるからきっとその手の本なのだろう? 私は手に取ってページをパラパラ捲ってみる……が、全て英語で「?」な感じだ。
「もう!相変わらず鈍いわね?あなた」
まどろっこしいわ!とばかりに菜々緒は私から本を奪い取ると、付箋のしてあると或るページを私達にバン!と広げた。
"Real Sailor Moon soldiers at circuit"
と題された記事、ナント!あの日のサーキット駐車場での私達3人が愛車の前でキメた写真が決してページ一面とか大きなものでは無かったが英文の記事付きで堂々と掲載されているではないか!?
「おぉ〜!」
シゲルコ、森と私は声を合わせて感嘆の声をあげた。
「俺、写ってないけど……」
少し残念そうに森はそう漏らしたが、菜々緒は相変わらず森には手厳しくって、辛辣に落胆の傷口に塩を塗り込めるかの如く被せて言った。
「当たり前でしょ!あなた男子で制服着てないしセーラー戦士じゃないし」
……まぁそれを言うなら私達もセーラー戦士ではないのだがね?
「ねぇねぇ、それよりなんて書いてあるんですかぁ〜?」
ずぅうんと項垂れ落ち込む森とは裏腹にシゲルコは待ちきれない様に、菜々緒を少し上目遣いに見上げ翻訳を促す。
"ニューイヤーのサーキットに集結した日本のこの地方の熱心なPORSCHEオーナー達。TOKYOやOSAKAなどの大都市圏と比べれば比較的小さな地方……と言えるかも知れないがその
文 マキシミリアン・ホルガー
「……す、凄ぇな?」と森
「私のこと、あなた達程書かれてないのは癪だけど、でも確かにいい写真と記事よね?」
「菜々P、これ本屋で売られてるの?」
「ううん、違う。これはオーナーとかに配布される会報?みたいなものよ」
「……と言うことは普通に買えないんですかぁ? 英語だけで」
シゲルコの問いに対して
「買えない……ってか、各国語版それぞれの国であるから50万部以上全世界で配布されるわけね」
「ぜ、全世界〜?」(私/シゲルコ)
「実名入りね。あ、私が代表して許可しといたわ? 3月以降なら問題なかったわよね? 文面とか写真セレクトとか随時メールで遣り取りしてコレは試刷りで彼から送ってもらったの」
「彼?」
「ほら、写真撮ってくれた金髪のイケメンの。で、文も彼が書いてるわ」
そのマキシミリアン・ホルガーか?いつの間にそんな芸当を?この女はやはり超越してるな?規格外だ。
まぁ配布誌なら多分先生達の目に留まる事はないだろうし、よしんば見つかったとしてももう3月だしどうしようにも……よね?な打算も駆け巡る。しかし同時にweb版も公開されるって言うから全世界一体どれだけの人がこの記事を見る事になるのだろうか?と思い描いてみた。ふと、シゲルコが上げたあのインスタのヤンキー写真の悪夢が蘇ったが、この写真の中の私は殊の外よく撮れていて……健康的で自然な笑みや背筋も凛と伸びた佇まいは、モデル菜々緒にアイドルシゲルコと並んでもなんら遜色なく、制服も含め三者三様が愛車達をバックに嬉々溌剌としてある意味'日本ポルシェ女子高生'(居るんか?)代表で世界配信されても全然恥ずかしくはないよな?と密かに(自己)満足に浸った。
そんなあのサーキットでの一日の事を「入試前のあんな時期によく行ったよな?」とか「あのヨボヨボのじい様がまさかな……」とか話しながらかわきゃわきゃしていると、
「!」
今度は征馨からLINEだった。試験前くらいから暫くご無沙汰で彼女の受験結果も気にはなってはいたもののナカナカこちらからは切り出し辛くもあったから……あの遠い約束の行方も当然宙に浮いたまま。
『今、練習で911で出てます』
『あの雑誌借りにそっちお邪魔してもいいかな?』
『打ち合わせ兼ねて』
おお〜! 打ち合わせっ!? …と言うことはやっぱり本気だったんだ!それが何より嬉しかったから、思わずチームの皆んなとは別の笑みが溢れた。不意に新たなワクワクが……サーキットとクリストフォーラス掲載でも充分絶頂過ぎた筈なのに、また募り始動しはじめる予感を覚えつつ『勿論いいよ!今、同級生のクルマ仲間達も来てるから丁度いいから紹介するよ。大丈夫?』と返信すれば問題ないよって事だったので私はチーム國松の3人にこれから来る征馨のことを簡単に説明……勿論、"新幹線追越計畫(仮)"の事はまだ告げずに「瑞雲のナロー911乗りだよ」とだけ前情報として。
「げぇ〜瑞雲のナロー乗り?なんか凄いわね?奇特だわ……」
まぁお互い人の事ぁ言えないとは思うが?
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