第31話 アイドルとヤンキー姐さん
否応なく、年が明ければ出願締め切られ2月の初旬には入試が始まる。
何度かの模試の結果や進路相談で、漠然と幾つかの志望校をピックアップしてはみたものの、今月の3者面談までは明確に確定させなきゃいけない……のは分かっているんだけどね?
景子は地元の短大志望で、菜々緒は付属だから関東の方の本学にそのまま進むって。さて、
『才ちゃ〜ん、どうしてる?もうエンジン載ったぁ?( ◠‿◠ )』
シゲルコからのライン。相変わらず端々ちょっと苛つくけどなんか突き放せない……あれからそんな感じで遣り取りを続けてる。外したヒートエクスチェンジャーはきれいにして外注の板金屋さんに補修に出して戻り待ちだからまだだと答えると、
『じゃあぁ、シゲルコの914でデートしませんかぁ〜?(๑˃̵ᴗ˂̵)』
う〜ん?なんかいちいち鼻につく文面やなぁ?ちょっと意地悪く返してやった……
『こちとら受験生や〜!シゲルコちゃん様は大丈夫なん?』
『え〜ん意地悪ぅ( ; ; )』
まったく……超面倒臭い。振った自分に少し後悔しつつ『冗談だよ』って宥め、暫く走ってないからそのお誘いに乗ってみる事にした。次の土曜日にシゲルコが迎えにきてくれる事にはなったのだが
……
ドドドドドドドドド……
エンジンルームに首を突っ込んだ侭、わなわなと震えながらスパナを握った爺ちゃんの顳顬の血管が浮く。慌てて今度は私がまっ先に店先に飛び出した!
「じ、爺ちゃん、じゃあチョット行ってくるね〜!」
ご多聞に漏れず914の向こう側には何台ものポルシェ軍団……え?だけじゃない?
「お〜ヤンキー姐さん?イキナリ登場!」
「ジツブツ!」
「全然ヤンキーじゃないじゃん!?」
「あれ〜トッコー服は?」
「な、なんかフツーにカワイイじゃん?」
言葉をストレートに投げる輩はまだいい、車内からじっと幾つもの好奇の眼差しに晒されたりして視線の針の筵だ!痛い。な、なんなんだ?この状況は?
「あ〜ん、
これは例のインスタの'ヤンキー投稿'の反響か?お、恐るべしフォロワー数ちょっとした芸能人並みの5万人超を誇る
しかし、次の瞬間ハッ!と事態の異常性に私は慌ててシゲルコの914の向こうっ側に回り右側のドアから車内に駆け込んだ。
「ちょ、ちょっと?この状況どうするんよ?もう!
「早くどかないとぉ、また
別段、悪怯れるそぶりも見せずシゲルコは素早くシフトを右手で操作しギアをLoに叩き込むと、小気味好く914を発進させた。
「!」
十数台もポルシェやその他の後続を従えてStop & Goの多い市街地を、その甘ったるくトロい喋り口調とは裏腹にスムースで滑らかな手首のカクん!カクん!と慣れた手つきの予想外に的確なシフトワークに才子はちょっと感心した。
「ちょっと待っててね〜」
と、シゲルコは程なくして少し郊外に出ると国道沿いの市民緑地公園の広大な駐車場へ隊列を誘導する。週末ながら気温も大分下がった事もあってか比較的空いた初冬の公園駐車場の一角に一団が停車し落ち着く頃合いを確認するとシートベルトを外しチャッ!と車外に飛び出した。
「一般参加のみなさ〜ん、ごめんなさ〜い!皆さんとは残念ながらここでお別れで〜す。わたしの新しいカエルのお友達とも会えたからもう大丈夫だよね?またアッチでやり取りヨロシクね〜!エアクールドパリのおじさま方はこれからお山までちょっとランデブーあそこの交差点でそのまま散会となりま〜す。そっからは秘密のJKタイムだからねっ♪」
な、なんて見事な司祭ぶりなんだ? 再び感心してると、次の瞬間まるでゾンビ映画の様にここで解散の比較的若年層の一般参加者達が914の窓にへばりついた!
ひっ!?
車内の私に向かって名前は?とかSNSの
「……あ、こんにちは。
と、シゲルコが"悪霊退散〜!"ってゾンビとオカルト映画を混同してるとしか思えない十字架ポーズで割って入るまで引き攣った作り笑いでそれだけ応えた。
……
「うまかったねぇ〜? 宣伝効果抜群ぅん〜!これでお客さんまた増えるね♪」
十字架が効いたのか?は別にしてゾンビ共も無事退散し、再び914の車内に二人っきりになるとシゲルコはニコッといつものつくり笑いを浮かべそう言ったが、才子は咄嗟にそう応えただけで当然そんな意図や余裕など有る筈もなかった。
しかし案外このコは表向きはこんなだけど、したたかで頭もキレる
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