もしかして機械フェチ?進路悩める第3章

第27話 ヒートエクスチェンジャー

 11月。秋が深まって木々も少し色付き始める頃……



 相変わらず時間を見繕っては日の短くなった下校後、そして週末……とポルシェを出した。ガソリンは常に爺ちゃんがちょっとづつ足しといてくれたので助かった。感謝しなきゃね?そんな訳で今日も気分転換と称して、ご多分に漏れずこうしていつもの道を走ってる。


 陽が傾くと山間部はもう寒かったから、試しに暖房を入れてみる事にした。


 ……実はあの翌日、森が一冊の本を貸してくれたんだ。きっと読み込んだのであろう擦り切れたそのタイトルは'クラシックポルシェ全図鑑'。驚く程詳しい図解があるしもう食い入る様に見入った!実地で爺ちゃんに教わった補足的な要素もあったし、これは正に目から鱗でより深く各部位パーツを知るに役立った。


 サイドブレーキのハンドルの根元に生えた小さなレバー……これやな?


 クイ、と。


 さて?どこから温風が出てくるのか?


 クーラーの送風口に手をやってみたが……どうやらここじゃないらしい。暫くするともわぁと足元が少し生温くなってきた。と同時に、


「う?」


 何やら強烈に排気ガス臭が車内に充満しだした!


「ぐあぁ?なんだこれは?」


 もう耐えられなくなって、思わずハンドルをクルクル回して窓を開け外気導入。新鮮な空気で少し緩和されたけど臭いはまだ止まらない!……この感じは常に薄っすらあるにはあったのだが本格的に走り出したのは三角窓やトップ開けて走る季節だったから、まぁ耐えられないほどでもなかったけど流石に窓締め切ってると辛いものがある。


"ハッ! 暖房?"


 小さなレバーを戻すと……暫くすると臭いは少し治まった、が、流石にこれは厳しい。今日は'産廃折り返し'まで走ることもなく引き返し工場に戻ると、一目散にまだ作業中の爺ちゃんの元へ駆け寄って、


「爺ちゃん!爺ちゃん! ポルシェ暖房入れたら凄い排気ガスの匂いしたっ!もう堪らんくらい! ガス室だ!」


「おう?ガス室とはそりゃ物騒じゃのう?……ふむ? 排気ガスと言う事は多分、あそこ、か? 目ぇ瞑って手ぇ入れてなかったからのぉ」


「あそこ?」


「ヒートエクスチェンジャー。少しざくっと脆うなっとったが…リフト今、別の乗っとるから降ろしたら覗いてみよう。ちょっと暫く我慢じゃの」


「ヒートエクスチェン?」


「ジャーじゃ」


「……」


 そんな訳でちょっとお預けとなってしまったポルシェだったが、その次の土曜日。リフトに乗っていた修理中のお客さんの車が無事納車されたのでポルシェを乗せて見てみる事にした。


 ポイントをキッチリ合わせ両側のボディサイドに支点のゴム部分を当てると、爺ちゃんは垂れ下がったスイッチの箱の緑ボタンを押した。ゆっくりとポルシェはリフトを上がって私の背丈より少し高いくらいの位置で止まった。


 初めて覗くポルシェの下腹部、普段見れない秘部を覗くようでちょっとゾクっとするな自分でも不思議な、初めての感覚を覚える。


「どりゃどりゃ……」


 爺ちゃんは後ろの方のパーツに目をやった。円筒形を横にした灼けて銀色と茶褐色(錆びた様な色)と混じった部分はマフラー、そしてタイコから後方中央から二本突き出したのが一本に纏まって先端の磨かれたマフラーカッターに繋がる排気口へ。その逆側は左右2本づつの計4本がその前方中央の銀色の部分を挟んで、黒く塗装された……こちらも少し灼けて燻んだような平べったい左右部分に繋がってる。


「見え辛いの……」


 爺ちゃんはライトを向けながら首をひょい!と重みで垂れ下がったタイヤの丁度裏っ側辺りに入れ伸ばして覗き込むように見上げた。暫く左の方からそのパーツのあちこち視線這わせた後、右側の上の奥の部分を指差して才子に指し示したのでヒョイっと見上げてみた、


「あ、あそこ!何か穴あいてるっぽい?」


「そうじゃの。残念ながら逝ってもぉとるみたいじゃ……」


 ヒートエクスチェンジャーは、簡単に言えばエンジン排気 (管)から得られる熱を利用し車内に引き込むシンプルな暖房システムで、それを司る左右に配置されたエンジンエクゾーストマニュホールドを覆い包む大きなタラコの様な形状のパーツ(バルブをケーブル式レバーで手動開閉する)だ。


 だから、直接排気管から流れ込むと言う訳ではないが、空いたその穴から排気を吸って車内に送り込んでたのか?? こりゃあながち毒ガス室というのも間違ってないな?と思った。


「う〜む?このままちょっと匂いはしよるが騙し騙し、暖房なしで乗るか?思い切って降ろして処置するか?……っとなると暫くは乗れんがのぉ」



 爺ちゃんは私の方をチラと見た。














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