免許取ったど〜!若葉マークの第2章
第14話 後悔なしのGAME SET
夏の朝の市営コート。
2校の女子テニス部に4面共に貸し切られ'引退交流戦'が賑やかに開催されていた。
ウチの方は男子の応援団なんかも来ててドン!ドン!ドン!と打つ太鼓の音と共に叫ばれる応援エールの勇壮なムードながら、テニス特有のサーブ前の急な静粛による応援の滑稽な中途半端な中断の苦笑、そんな我が校男子応援団員達に注がれる相手の女子校生選手・部員達からのチラチラ熱い視線も感じさせつつ現役時の対抗戦や高総体、地区大会の様な張り詰めた緊迫感などカケラもなく、久し振りの感覚を愉しんでいた。中学・高校共にそう強豪ではないがそれなりに伝統ある公立中堅校の部活動で6年間それなりに青春のナントカを注いできたから……
ある意味、その緊迫感から解き放たれたからなのか?余計な肩の力が抜けて……引退して数ヶ月経ってはいたけど身体もそうなまってなく思ったより動くし、"あら? まだ全然いけるやん?"的に試合を、テニスを私は楽しんだ。
現役時代、夏の試合のラリーなら…"もう! このぉ! 一体いつまで続くの〜?いい加減にミスってよ〜!"と筋肉をガチガチに硬直させ肩で息をきらしながら力任せに打ち合ったあの感覚でさえ、"ふふ…この緊張を制するのはどっち?" 的快感にドキドキしながらいつまでも続け! って位にコートの前に後ろへ右へ左へと駆け回って、無意識に薄ら笑いさえ浮かべつつ私はラリーの応酬を続けた。
ただ目の前の相手だけは何か変わらない鬼気迫る形相で挑んでくる。そう菜々緒だ。
なにかと対抗心を燃やしてくるこの幼馴染みは……昔っからなぜそんなにムキになんの?って位にことある毎に私に対抗心を剥き出しにしてきた。幼稚園のかけっこから始まって、かるた大会、運動会や水泳大会の類は勿論、公立に進んだ私とは違ってお嬢様学校の附属に進んだ彼女は私と同じテニスを選んだ。
一緒に仲良くおままごとをして遊んでた間柄だったのにね?いつの頃からか勝手に私を執拗にライバル視するようになって。容姿や勉強・家庭環境・境遇何一つ私が優るところなんてないのにね?
でも、今日の私はちょっと違うわよ! 肩になんの重石もない = 一体何に縛られて、あんなにプレーを無意識に、ガチガチに縛ってたのか?曲がりなりにも伝統校のレギュラーに選ばれた一人だったから?見栄?重責?エースを取られればそのプレー自体でなく相手にキッ!と憎しみの視線を向けた('罪(プレー)を憎み人を憎まず'……な事すらも分からず)。そんな訳の判らない負けん気・虚勢。もうそんな事は関係ない。只々楽しい! 何故この感覚をたった数ヶ月の前迄の現役時代の私は感じ得る事は出来なかったの?そんな理由はわからないけど、兎に角解放された今日の私は最強・無敵よ!と言わんばかりに私は所狭しとコートを舞った。
「!」
どちらかといえば得手ではないバックに来た菜々緒渾身のアプローチショット!
流れるような動作でネットに詰めてくる!
"あっ!こりゃ届かない!?"
反射的に動く足、剣道の間合い宜しく届くか?届かないか?そのギリギリの線で私は現役時代に無かったもう一歩の踏み込みでボールに食らいつき呼び込んで、全体重を乗せこれ以上ないタイミングの大きなテイクバックからしなるように様にラケットを振り抜いた。
一閃!
菜々緒の読んだストレートとは逆のクロスに切り裂いた私のパッシングショットはサイドライン上を見事に跳ねツーバンで後方のブロック塀に跳ね返った。
「っしゃ〜!」
ゾクゾクとした快感と共に無意識に拳を握り叫んだ!そして呆気にとられた様に転がったボールに視線をやってネットの向こう側の相手。それからも現役時代見せなかったプレーも含め絶好調の今日の私は必死に食い下がる菜々緒を寄せ付けず文字通り度々地団駄踏ませた。
「ゲームセットアンドマッチウォンバイ……」
握手する際も、引き攣った笑顔の下のメラメラとした悔しい感情が隠せない……相変わらず分かりやすいね。菜々P(昔からずっとそう呼んでた……)は。
結局シングルス・ナンバー3である私を含め何本か取ったが、全体では聖マリアンヌの勝ち。でも勝敗は余り関係ない。わきゃわきゃと終始、皆これが本当に……この中で実業団に誘われたウチの家政科の
整列して礼をして握手、そしてウェアを着替えて部長同士恒例のエールと寄せ書きの交換等々……全ての行事を終え、大きなバッグを自転車のカゴに押し込んで皆、何人かに固まってキャッキャ!と三々五々に帰途に就こうか?とする私達公立組の多くに対して、父兄やら彼氏やらの車も狭い駐車場に目立つマリアンヌ組。
そんな中、一台の青い車がけたたましい音と共に駐車場に入ってきた。
「あっ!」
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