転生先で出会った女神が俺の幼馴染だった件について
たまかけ
1章 テンプレ厨な勇者のせいで、女神も転生するハメになった件について
01.感動の再会……ではなく「はじめまして」から
「ようこそ死後の世界へ。私の名前は、カナ。よろしくね!」
その言葉に
――よし、『儀式』は成功したみたいだ。転生して、女神に会って……あとは…………あとは……
ヤドルは、目の前の少女を無意識に無視して、顎に手を当てて思案するが、
――あれ、『儀式』って何だっけ。
――そもそも、俺……なんで……
「あれ、俺なんで死んだんだ……?」
「ちょっと、先に自己紹介してよ!」
「ヤドルだ」
「よろしくね!」
「…………」
ヤドルにとって、目の前の女性が何者であるかは特に問題ではなく、自分がなぜここに居るのか、それが全然思い出せないことに焦りを覚えていた。
――俺は、確か何か重要なことをしようとして……たぶん誰か助けようとして……うーむ
「ねぇ、ちょっと聞いているの! ヤドル!」
「どうして、そこまで急かすんだよ。お前は」
「お前じゃなくて、カナで~す。あなたの女神、カナリンでーす」
「…………」
無反応を決め込むヤドルにムッとしたのか、女神カナは自身の長い髪を風にゆさゆさと揺らしながら、渾身の『女神スマイル』を披露し続けた。
それはそれは中々のハートの強さがないと出来ないことであり、一般的な十代の女子ならば、羞恥のあまり「お前を殺して、私も死ぬ」という状態になるのだが……
カナのハートが本当に強いのか、それとも単細胞な脳みそ……つまり、『アホ』なのか。
ヤドルは今更、女神に視線を向けた。
女神スマイル連発のせいで台無しになっているようなところもあるが、やはり『女神』というらしく、今まで見てきた女子の中で誰よりも可愛く感じる。
年齢もヤドルと同じ15歳くらいっぽい見た目だ。
頭は弱そうだけど……でも、知的じゃない部分、有り余る元気が全身からあふれていて、不思議と心があったかくなるような、どこか懐かしいような気がする。
しかし、薄く金色に光る長い髪は、人間離れしていて。
会ったことなんてありえないのに、懐かしいなんてオカシナ話だよな、とヤドルは一人、微笑を浮かべた。
「あっ、笑ったわね! 私の渾身のスマイルを鼻で笑ったわね!」
カナもヤドルの注意を引きながら、ヤドルの顔を注意深く見ていた。
ヤドルの顔は、どこにでもありがちな日本人顔で、パットしない印象だ。
それだからか、どっかで見たことありそうな……
「ねぇ、あなた何処かで……」
そうカナが口に出そうとした瞬間、ヤドルの目は( 一一)←こんな感じになっていて、無意識のうちに一言、漏らしていた。
「…………うぜぇ……」
「えっ、今なんて……今なんて言っているの!!」
「…………はぁ」
「ちょっとぉ! その反応、ふざけてんじゃないわよ! っていうかね、アンタが死んだ理由なんて私が知ってるわけないじゃない」
もはや、カナは女神としての言葉遣いを維持しきれておらず、完全に素の性格が表れていた。
ヤドルにとっても、それは同じようで。
「はぁ? 女神のくせに知らないとか、調子乗ってんのかてめぇ」
「私まだ新米女神だし、知らないものはしりませーん。トラックにでも引かれたんじゃない、どうせ。大抵そうじゃん。テンプレな感じだと」
「人を勝手にテンプレ異世界もんと一緒にしてんじゃ……そうだ、テンプレ……そうだ、ちょっと思いだしたぞ」
『テンプレ』という言葉にヤドルは、脳天をぶち抜かれるような感覚を覚えた。
ヤドルは、無意識にふと右手を開くと手の平にマジックで書かれた文字を見つけた。
文字は部分的に滲んでしまい、読み取れた部分は全体の半分くらいだった。
【『テンプレ』な**を作りあげろ!**を救い出すために!】
「なに、その文字……? 文字かすれているじゃない」
「手汗ひどくて悪かったな。……でも、俺のやるべきことは何となく分かった」
ヤドルは、自分がここへ来たのはある『目的』を達成するためだということを理解した。
『目的』はまだ明確には思い出せていないが、これからの『指針』を立てることには成功した。
――とりあえず、俺はこの世界で『テンプレ』な主人公を演じるんだ。
――よし、やってやるぞ。記憶もそのうち戻るだろう。
そうヤドルが決意するよこで、カナはニヤニヤとした笑顔を浮かべていた。
「何だよ。そんなニヤニヤするな、気持ち悪いな」
「さっきから初対面の人相手に言葉遣い悪いのなんの。どうにかならないの? 友達いたの? 少なくとも彼女は絶対にいなそうだけどw」
「一言二言多すぎるんだよ。いいから、先俺の質問に答えろよ。そもそも初対面の『人』じゃなくて、『女神』なんだけどな」
「『女神』だったら、なおさら尊敬しなさい。ニヤニヤしてたのも、私が『女神』として導くべき迷える転生者のあなたが、いい顔したからよ」
「それだけなのか?」
「それだけよ。ちゃんと女神しているんだから」
――本当はそれだけじゃないんだけどね。
ヤドルが転生時に記憶をなくしているように、カナも記憶喪失を経験している。
カナが『女神』になったのは、実をいうとつい最近の出来事で、それまでカナは自身が何をしていたのか、どんな風に成長したのかを全然覚えていないのであった。
――だから、記憶を失ったときのもどかしさとか、原因不明の喪失感とか、私にも分かるから。
そうカナはヤドルに向けて、とびっきりの笑顔を披露した。
一瞬、ヤドルの脳裏に見知った女性の影が現れた。
とても懐かしい。心がすぅっと暖まるような不思議な感じを、ヤドルは女神に会ってからずっと抱いている。
ヤドルはカナの笑顔に照れ臭くなり、カナが最初に座っていた椅子に目を向けてみた。
実際、ヤドルがカナに「うざい」と言ったのも照れ隠しの一種であったが、ヤドルもカナも気づいていない。
ヤドルはカナの座っていた椅子に近づき、そこにあった雑誌に手を伸ばした。
「何だこの本?」
「いやぁぁぁぁ! なに人の椅子あさってんの! サイテーだよ! 愚行だよ! 死罪だよ!!」
「はーん、そんなにこの本が大事なんだ。何々、『男子との話し方。20のコツ』……」
「…………」
「お前、どういう意図でこの本を……」
「…………ふんっ」
カナはヤドルから本を奪おうと手を伸ばすが、ヤドルとの身長差で奪い返すことができず、でも諦めきれないのか、ひたすらジャンプを繰り返す。
ジャンプするたびに、カナの長い金髪がふわりふわりと、クラゲのように、まるで生き物のように動く。
――なんだこいつ。……すげぇ、からかいたくなってくる。
ヤドルがそう思い始めたとき、カナの瞳にはうっすらと涙が浮かび始めていたので、ヤドルは素直に本を彼女に返した。
「……ひっ、ううぇぇ( ;∀;)」
「悪かったって。返す返す。っていうか、お前がこんな本読む必要ないだろう」
「えっ?」
ヤドルの言葉にカナは、ハトが豆鉄砲食らったような顔をした。
嘘だろって、思いっきり顔に書きながら、カナはヤドルに突っかかった。
「何も知らないで何を言っているのよ! ヤドルは! 適当なこと言ってるとブツよ。その汚れ切った魂を浄化するわよ」
「痛っ。ブツとか言いながら、進行形で殴るなって。……てか、本当、お前今さ、普通に男子と話せているじゃないか」
「……それもそうね」
「それどころか、俺に対して何でそんな喧嘩腰なのか分らんのだけどな」
カナは自分のことを、男子の前だと緊張して全く話せない系女子だと思っていたようだが、ヤドルの前だと確かに素の状態で接することができているというか、まるで友人に、いや、それ以上にカナは心を開いている。
「そうね。ほかの男子はどうか分からないけど、でもやっぱあなたは特別みたい。ヤドル」
ヤドルは一瞬頭の中が真っ白になった。
目の前にいる彼女の笑顔の迫力はすさまじいもので、
――やべぇ、どうしよう。こいつ見てくれは可愛いから……
ヤドルがドキマギしていると、カナに左手を取られた。
「えいっ」
「なっ何するんだよ」
ヤドルがすぐに左手を引っ込めると、左薬指には銀色の指輪が付けられていた。
無駄な装飾は見られず、よく見ると何やら日本語でも英語でもない文字が刻みこまれていた。
――ってか、これってどう見ても……
「これって結婚指輪的なアレだよな! えっちょっ、どういうことなの。俺もしかして、ここにきて、異世界に行く前に童貞卒業できちゃうの。もしかして!」
「んな訳ないやろがぁ、小僧!」
「じゃぁ、この指輪は何なんだよ! てか、お前も付けてんじゃねぇか。確定じゃねぇか、結婚ルート入ったよ。今ここで俺の生涯の伴侶が決まっちまったよ!」
「えっ生涯ずっと大事にしてくれるってこと……私のことを」
「ちょい待て、いろいろ話が見えん」
ヤドルはカナに状況説明を求めた。
女神の婚約は早いうちから行われるそうで、10歳までに結婚相手が決まらなければ行き遅れ女神と笑われ、飲み会でものけ者にされてしまうそうな。
だからこそ、転生者のいい男を見つけて婚約しちまうしかない……と、カナは『ある人』から聞いたそうだ。
「んで、その『ある人』ってのは?」
「今年で32歳の先輩女神に……」
「……そいつは独身か?」
「うん……」
ヤドルはそれですべてを察した。先輩女神はカナが騙されやすいことを利用して、自分がモテない腹いせにカナも行き遅れ仲間に仕立て上げようとしていたということだ。
ヤドルの様子から、カナも自分が『騙されていた』ことに気づいた。
「お前ってば……ほんとバカだな」
「しっ仕方ないじゃない。私だって女神になったばっかりで、何を信じればいいかなんて分かるわけないじゃないの」
「まぁ、分かったよ。じゃ、この指輪は外していいんだよな」
「あっ、それは……」
「んでも、お前はその『年増』にせかされて俺に迫ったってことだろ。それで結婚するのも何か違うと思うし……」
「いや、そうじゃなくて……」
――俺としても、この指輪はつけたままが良かったんだけどな。
ヤドルは指輪に若干の未練を残しながら、左薬指からそれを外そうとしたが……
――あれ、外れない……。
ヤドルの様子を見て、カナは自分も指輪を外せないことを確かめ、「やっぱり」と呟いた。
「おい、何なんだこの指輪は。全然外れねぇよ」
「その指輪ね……先輩にお勧めされたお店で買ったものなの」
カナは正直にその店のことについて話した。
32歳の先輩にお勧めされたその店は、『婚活ショップ』。
そこで、『想い人との絆が深まる、一生物のリング』『これは絶対に外せない結婚指輪』とかいうキャッチコピーをしていた商品を今、ヤドルとカナは付けているのであった。
「つまり、それって指輪を互いに付けたっていう既成事実を無理やり認めさせるためのモンってことか」
「そんな感じかも……」
「ふざけるな、コナクソー!」
そうヤドルがカナのコメカミを拳でグリグリすると……
「痛いわよ!」
「痛ってぇぇ!」
「痛いのは、私の方でしょ。ふざけないで頂戴」
「いや、俺もコメカミに痛みが……」
ヤドルはそこで、カナに「俺のことを殴ってみろ」と言う。
カナは嬉々として、助走をつけヤドルの鳩尾に膝蹴りをぶつけた。
瞬間――
「ぐっ、痛ってぇぇっぇぇぇぇ!」
「きゃぁぁぁ、痛ぁぁぁぁぁい!」
「この野郎、殴れって言ったが膝蹴りしろとは言ってねぇだろ。てか、女子ならもっと弱く殴れよ、馬鹿野郎」
「そっちこそ、わざとそんな言い方したわね。私の方が絶対ダメージ大きい気がする。いや、ぜったい私の方が痛い思いした。謝って、謝罪して。今ここで!」
そんなこんなで、互いに殴る蹴るを繰り返す、ヤドルとカナ。
だが、殴られた方だけじゃなく、殴った方にもダメージは入るので、互角にダメージを与えあう二人。
双方にダメージが入るのは、さっきカナとヤドルがつけた指輪に刻まれた魔法が原因なのだが、二人はお構いなしだ。
勝ち負けもつけようもない、完全に不毛な戦いを繰り返すも、二人は両方ともアホである。
両方がボロボロになっても、立ち上がり。殴り蹴り……。
しかし、その戦いは、第三者の一言で終わった。
「何しているの、カナ。そして、転生者よ」
「あぁん? 何だ、てめぇ」
突如現れた女は、黒いスーツに端の尖がった黒縁眼鏡をかけた長身の女性だった。
その女性を見て、カナは「せっ先輩……どうしてここに」と呟いた。
「あれが、噂の32歳の行き遅れ年増か」
「ちょっあんた何言ってるのよ、ヤドル。それは禁句なのよ」
「えっ、あっ。……ごめん」
「ふざけんじゃないわよぉぉ! ごっごめんなさい先輩!!」
カナは、ヤドルに「ほら、あなたも謝って」と右手でツンツンしていると、先輩女神はだんだん不機嫌になった。
「よくも、私の前でイチャコラしやがって」
「「はい?」」
「何よ、息もぴったりで……えっ、まさかその指輪……あなたたち出会って間もないのにもう結婚したということなの……」
「決してそんなことはありません!! 何で俺がこんなアホと」
「はぁ、私こそ、あなたみたいなバカはお断りだわ」
またも殴り合いに発展しそうになったカナとヤドルを見て、先輩女神は「ムキー」とハンカチを噛んだ。
本当に「ムキー」なんて言う人いるんだ、とヤドルが関心していると、ヤドルとカナの足元に幾何学的な紋様が浮かび上がった。
だんだんと光を強く発するそれに、
「なっ何が起こってるんだ」
「この魔方陣……せっ先輩、まさか」
「まさかもそのまさかよ! あんたたちは二人揃ってとっとと異世界に行ってきなさい!! ムキーーーッ」
「マジかよ。ってか、まだ武器とか、よくある伝説級のアイテム貰ってないぞ、俺!!」
「何で私も巻き添え食らうのよ! ヤダ、こんな女子に躊躇なく膝蹴り入れる男子となんて行きたくないっ!!」
「膝蹴りはお前がやったんだろうがっ!! 俺もお前みたいな暴力女はお断りだぁぁ!」
ヤドルとカナはひたすら悲鳴を上げ続けていたが、魔法陣の光が一層強くなった瞬間――二人は異世界へと飛ばされた。
部屋は一瞬のうちに静まり返り、たった一人、先輩女神のみが取り残された。
先輩女神は、ぽかんと辺りを見渡した後、急にうずくまり……
「やっちゃった……また、やっちゃったよぉぉ! いっそのこと私も一緒に行けばよかった……ううぇぇぇん」
……孤独に耐えかねていた。
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