Stay
柊花
第1話
まるで、歩いた跡に花が咲くようだった。
栗色のウェーブした髪を揺らして僕の前を歩く彼女。彼女から発せらてられているのか、はたまた彼女が抱えているクッキーのカケラからなのかはわからないが、甘い匂いが鼻をくすぐる。数分前の僕だったら考えもしなかった出来事が今まさに起きている。
「また考え事?」振り向きざまに微笑みかける姿が、脳裏に焼きつくあの姿に重なる。
「いやぁ、ちょっとね」
彼女は困ったように笑うものの、それ以上踏み込んでは来ない。
自分のことをうさぎだと言い張るのだ。
「あまりにも話がしたくて、あなたを探しに来ちゃった」
「あなたが忘れてしまったことも、わたしはちゃんとおぼえてるのよ」
ほほう、変な人だな。話を聞かせてもらおうか。唐突に僕の隣に現れた彼女は、立て続けに話し始めた。
「庭の花壇にスイカの種を死んだ金魚と一緒に植えた」
「寝室の壁におにぎりの絵を描いて怒られた」
続きを聞かなくとも、最初に会った時から彼女を受け入れていたように思う。
「それじゃあ僕の家に来る?」
「ふふ。やっぱりあなたってちょっと変わってるのね」
なんだかなぁ。世間一般的にみたら、法則に反してるのはきみの方なんだけどね。彼女は見かけ通りうさぎで、僕と同じ言葉を話す。その時点で彼女はうさぎ以上の何かになってしまっているのではないか?僕が考え込む間に彼女は歩き出す。
「でも一体ここはどこなの?」
見慣れない道で、見慣れた彼女を追うように歩く。
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