第2話

著者の青山江美(母)は平成18年5月に96歳で他界した。

母の健在なうちに訊ねておけばと思う事が、一つあった。

私達を取り上げてくれた産婆さんは、何処の誰でどんな人だったんだろうか?

別に今更それを知ったところで、普通どうと言う事ではないかもしれない。

しかし、私が生まれた時代の状況がどうであったかは、やはりなんとなくに気になってくる。

そのようなことを漠然と考えているうちに、さらに昔の父母の生い立ちや戦前、戦時中の家族の生活等、いわゆる昔の家族の歴史と言う事もほとんど知らない事に思い至る。


母は何かあると、その当時の話を私に聞かせてくれていたのだが、此方もあまり関心を持たなかった。

残念ながらあまり覚えていないのである。

母が他界してから、後悔しても、それはすでに遅く全く不明の至りであった。

その後遺品の整理も、あまり気乗りせずについつい後回しになっていたのだが、先ごろタンスの奥から十冊にも及ぶ大学ノートが出てきた。

其れは母の人生を振り返っての手記であった。


それを読んでみると、母の生い立ちから始まり、私達の家族の歴史や、この時代の世相や暮らし、更に先の産婆さんの話などが詳しく書かれているのだ。

母自身はこの体験や記憶が、自分の死によって消えてしまうのがたまらなく惜しく、私たち家族に残しておきたかったのだ。

私達も、この母の幼女時代よりも戦前、戦中、戦後へと、日本の一番大変な時代を過ごしたこの記録が誰にも知られず、日の目を見ずして埋もれてるのは偲び難く、心底惜しいと思うのである。

そして私たち自身も過ぎ去ってしまって、もう帰らないあれらの日々、しかし確実に存在したあれらの日々を確かめたい等という思い、そしてこの体験をもっと多くの方に共有して貰いたいという、いささか感傷的で高ぶった思いに至った。

そこで、この度、関係者により母の生誕100年と七回忌を記念して、つづら折り回想記の手記10冊中の2冊の≪望郷 北の大地編≫を世に出し、母の遺志を実現すべく発刊の運びとなった次第である。


本書は元々自分史であり、主に親族やゆかりの人が対象になっていて、第三者の方には全く関係の無い事もあり、一部お分かりいただけないところがあるのはお許しいただくとして、一般人の目から見た此の時代の世相や歴史一資料についてまた、幾多の試練を乗り越え、生き抜いた女性のつづら折りの人生について、少しでも多くの方に何かヒントや共感得て頂けたとすれば著者にとって、この上ない喜びとする所であろう。


最後に本書の中で我が家との関わりを持ち、この苦難な時代に助けて頂いた、北海道や滋賀県の皆さま、多くの人々に、亡き母と共にに謹んで感謝を申し上げる次第であります。

また本書出版にあたり取材にご協力下さったり資料を提供頂いた多くの皆さまに暑くお礼申しあげます。


平成23年2月5日

つづら折り回想記出版記念の会

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