第10話 香り松茸
娘、小5(当時)
伊勢丹地下の食料品売場にて。
庶民……それもかなり下等の庶民の我が家だが、他人様へのお持たせを買いに伊勢丹へ。
伊勢丹なんて、他人様への御贈答品を買いに来る以外、用は無い。
自分には場違いな場所である。
この日は松茸が大特価とワゴンに沢山乗っていて大売り出しとなっていた。
よく、
【香り松茸、味しめじ】
なんていうが、下等庶民の我が家では
松茸の香りなんて縁がない。
珍しく、我々にも手が届きそうな金額で松茸が販売されていたので、少しだけワゴンを物色してみた。
ワゴンから松茸を一本手に取り、香りを嗅ぐ。
……何だかな。
庶民のあたくしには、松茸の香りの良さが全く分からない。
隣にはマダムっぽい奥さまが2名、
「あらぁ、松茸安いわぁ!」
「もう、こんな季節なのねー」
「はー、イイ香り~!今日は松茸ごはんにしようかしら」
などと会話している。
そこに娘が
「何でみんなキノコの匂い嗅ぐの?」
と、やって来た。
「よくね、【香り松茸、味しめじ】と言って松茸は香りがイイって言われているんだよ」
そう言って私は、松茸を再度手に取り、香りを嗅いだ。
娘も、ワゴンから松茸を一本手に取り、香りを嗅いだ。
「くっさ!松茸って、犬のベロの臭いじゃん!臭い!!」
悲鳴にも聞こえるような声で松茸を犬のベロの香りと称した娘は、隣のマダム達の松茸購買意欲を削いだ。
立派な営業妨害。
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