第56話 嵐の前の休息(2)〜浅野里穂
里穂と義母は、早い時間に新幹線で実家に向かい、既に実家に着いているらしい。
俺は、そのまま慶太を実家まで送り届けることにした。
下りの高速は混んでいて、実家に着いたのは23時を過ぎてしまった。ミントは慶太に、寝ておきなさい、と言っていたが、慶太は実家に着く直前まで起きていた。
俺がなにかしないかと、監視していたのかもしれない。
しかし流石の慶太も小学4年生。もう実家の町内に入り、5分ほどで着くというころ、寝息を立てていた。親子で後部座席に座っていたが、慶太はミントの膝枕で寝ていた。
実家に着くと、里穂は起きて待っていた。俺が玄関の鍵を開けると、俺を無視し、車まで走っていった。里穂の声が聞こえたのか、小学4年生のくせに母親の膝枕で寝ているところを女子に見られるのはプライドが許さないのか、慶太はガバッと体を起こした。
「慶太くんっていうの?わたし、里穂。よろしくね」
里穂は、やや興奮気味に話しかける。微妙な年頃といっても、まだ子供で、夜遅くに同じ歳の子が泊まりにくるという、いつもと違う雰囲気にテンションが上がっているようだ。
かたや慶太の方は、そのテンションに押されて、眠い目を擦りながら、よろしく、と言っただけだった。こういう不測の事態に、いつだって男の方が弱い。
母と義母も、サンダルを履いて出てきた。
「親父は?」
「テレビの前で、寝てる」
心配はしていたのだろうが、また母と義母の中身女子高生みたいな話についていけず、不貞腐れて見たくもない番組を点けて、そのまま寝てしまったのだろう。やはり、男は、弱い。
「ねえねえ、ゲームやる?ねえ、お腹空いてない?それともお風呂入る?お湯沸いてるよ」
まるで女房だ。ミントが言っていた子供同士が結婚するのも、あながち非現実的なことではないのかもしれない。
ミントも俺と同じことを考えていたのか、目が合うと笑った。
ミントは義母に会釈をした。澤村の妻ということで顔見知りなのだろう。
「あんたたち、今日はどうするの?遅い時間だから泊まっていく?まあ、あたしの家じゃないんだけど」
また、和江と和恵が手を叩いてケラケラ笑う。2人とも、これからのことは聞いているだろう。女の方が度胸が据わっている。
「いや、このまま、みんなのところにに戻るよ」
ミントを見ると、彼女も頷く。
「真一くん、覚悟はできたのかね」
俺は自分が殺し屋になるかどうかといったって、妻は殺し屋、義父も義弟も殺し屋。すでに巻き込まれているのだ。そして、その妻が怪我を負わされて動けない。妻も家族も守らなければならない。俺が守らなくて、誰が守るというのだ。覚悟ができないわけがない。俺は義母の問いに頷いた。
奥から親父が起きてきて、眠たい目を擦りながら言った。
「まあ、気をつけて行ってこい」
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